「日向くん、あの、甲賀君って好きな子いるの・・・・・・?」

 戸惑いがちに顔を赤らめ、聞いてくる女の子。傍から見てればそりゃもう物凄く可愛いのだけれど。
 
 本日これと似たような呼び出しを受けたのはもう8回目。

 そんな今日はバレンタイン前日。

「・・・・・・えーと、居ないと思うけど・・・・・・」

 取り敢えず、今のところ克己にそんな相手が居ることは知らない。

 そう言った瞬間に彼女は顔を上げてぱぁっと表情を明るくさせていた。

「本当!?有難う、日向君!聞いてよかった!」

「そ、そう?」

「うん。でも、日向君と甲賀君が親友って、なんか意外なコンビよねー。おかげで聞きやすいけど。
じゃあね、ありがとー」

 ・・・・・・何だかなぁ。

 走り去っていく女の子の背中を見て思わずため息を吐いた。

 親友という位置に不満は無い。

 それでも、何だか克己に胸をときめかせる女の子を見て心がざわつくのは何故だろう。

 ・・・・・・ここまでモテる彼が羨ましいのだろうか。

「ちょっと」

「へ?」

 うーん、と考えているところで突然また女の子の声が後ろから聞こえた。また、克己関連の事で何か聞かれるのだろう。

 うんざりしながら振り返ると、そこには女子の制服を着た、女子が・・・・・・7人くらい居る。一気にこんなに女子に囲まれたのは初めてで、正直、嬉しいより怖い。

「日向翔?」

 リーダー格らしい女の子が高飛車な態度で自分の名前を呼んできた。何だか本当に怖くてただただ首を縦に振るしかなかった翔の様子を彼女は鼻で笑う。

「噂どおり本当に女顔ね」

「わ、悪かったな!」

 気の強そうな美人顔の彼女に自分の容姿を鼻で笑われるとそれなりにショックだ。

「ねぇ、この間、甲賀くんと一緒に歩いていた女って、貴方のことでしょ?」

 少しオーラで威嚇してるというのに彼女はそんな事気付きもせずに自分の用件を口にする。こういう風に我が道を突っ走る女性は苦手だ。

「この間って・・・・・・?」

「んもう、イライラするわね!街のケーキ屋に行ったってのは、貴方なの!?」

「あぁ・・・・・・俺だけど?」

 それが、どうしたというのだろう。

 ビクビク警戒しながら返事をすると、彼女の後ろに居た女の子たちがわぁっと安心したような顔をする。

 何だ、何なんだ?

 もしかして、この間のこと、克己の彼女か何かだと勘違いされたのだろうか。それが噂になって・・・・・・彼女達の耳に入ったと。

「まったく紛らわしい・・・・・・」

 リーダー格の女の子も安心しつつも矢張りイライラしているようで。カルシウム不足、というヤツか。

「この機会だから言わせてもらうけど、日向君にはもうちょっと自粛して欲しいわ」

「じ、自粛って・・・・・・?」

「あまり、甲賀君にベタベタしないで。友達で同室なのは仕方ないけど、貴方のその顔と身長じゃ、紛らわしいのよ」

 言い掛かりだ。

 あまりにもあまりなクレームに何て言い返せば良いのか正直解からない。

「日向君、可愛い顔してるから・・・・・・」

「そうそう、親友っていうより、恋人同士に見えちゃうのよね」

 後ろに控えている女子がこそこそとフォローのように言ってくれるが、全然フォローになっていない。

 恋人って、アナタ。

「とにかく、今バレンタインで皆ピリピリしてるのよ。それくらい配慮してよね」

 ふん!と鼻を鳴らしてリーダー格の子が締めくくると彼女達は一斉に帰っていく。

 配慮って、何を配慮しろと。

「・・・・・・何だかなぁ」

 中学校まではあまり恋愛事に興味が無くてただ友人達と馬鹿騒ぎしていた。この学校に来て、克己と出会って、何故かこんな場面によく遭うように。美形の友人を持つと辛い、というかなんというか。

 でも、やっぱり面白くないわけで。

 自分だって男なのだから、可愛いとか言われるのは面白くないし、やっぱり格好いいと言われたい。

 そう、この間のようにカップルと間違えられるなんて言語道断。せめてもっと身長があればそれなりに・・・。

「翔、何やってんだお前」

 さっきから何故か隣りでぴょんぴょん飛び跳ねている翔に克己が声をかけた。

「んー・・・・・・背、伸びないかなーって・・・・・・」

「お前ソレ無駄な足掻きって言うんだぞ」

 ・・・・・・ですよねぇ。

 はぁ、とため息をついて飛び跳ねるのを止めた。

 呼び出しから寮に帰ってくると克己が何か本を読んでいた。その隣りでベッドのスプリングの力を借りて、座ったまま飛び跳ねてみたのだけれど、残念ながら彼の身長と同じくらいになれるのは一瞬だ。

 いずると正紀みたいにお互いの身長が同じくらいだと誰もが認める親友になれるのだろうか。

 意外よね、という彼女の言葉がちょこっと気になった。

「克己格好良いよなぁ、羨ましいー」

「・・・・・・お前、何かあったのか?」

 さっき寮を出て行って帰ってきた途端これだ。何かあったと考えるのが自然だろう。

「克己に好きな人が居るかどうか聞かれた」

 まさか、脅されたとは言えないだろう。

「・・・・・・そういうことは本人に聞けばいいものを」

 克己が面倒臭そうに呟いたけれど、それは内気な女の子には無理ってヤツだ。こんな女心を理解出来ていない彼がなんでここまでモテるんだか。

 だから、彼女達が友人である自分に刃を向けるのかも知れないけれど・・・・・・。

 でも、何となく解かるからやっぱり悔しい。

「・・・・・・俺、ちょっと出かけてくる」

「門限までは帰って来いよ」

 克己の口調はまんま翔の保護者だった。








 この間来たばかりの街はまだバレンタイン一色で。

 その中を一人で歩くのも虚しいが、克己と一緒に歩いてカップルと間違えられるよりは幾分マシだ。

「あー・・・・・・やっぱり美味しそうだなぁ」

 前と同じお菓子屋の前に立ち止まって、前に観たチョコレートをじっと見る。

 可愛い形のチョコレートはどちらかと言えば男ではなくて女の子が好みそうなのに。

「あ、この間のー」

「え?」

 女の人の声に顔を上げると、そこにはこの店の制服を着た女性が立っていた。その顔には見覚えがある。

 この間、自分と親友をカップルと間違えた彼女だ。

「今日は、お一人?」

 にっこりと営業スマイルを向けられ、翔は慌てて頷く。

「あぁ・・・・・・そうよね、バレンタインのチョコレート、一緒に選んだりはしないわよね」

 翔がバレンタインのチョコレートを眺めているのに気がついた彼女は意味ありげに笑う。

「え、いや・・・・・・」

 克己が一緒に居ないのに誤解されている。

 その事にショックを受けながらも首を横に振るが、効果は無し。

「照れなくてもいいのよ。じゃあ、一緒に選びましょうか」

 からんからんと鐘が鳴るドアを開けられ、笑顔で「どうぞ」と言われた日には従う以外に道は無い。

 心の中で悲鳴を上げつつも、翔は暖かい店内に一歩足を踏み出した。

 外に出てくる時は、きっと財布が悲鳴を上げている。




 その頃、バレンタインという行事があることを知っていなさそうな小さな天才佐木遠也は第五科学室に居た。

「おかしい・・・・・・何か調合を間違えたのか?」

 風邪薬を作ろうとしたはいいものの、目の前に出来た液体の色が何故かショッキングピンク。

 実験用のマウスがおいしそうに液体を舐めているあたり、甘味があるようだ。

 本来ならオレンジ色になっているはずの薬の色。

 手順を思い返してみても、間違いが見当たらない。

「・・・・・・何故?」

 首を傾げているとマウスがきゅーきゅー鳴き始めた。

 いつもは大人しいはずのマウスが。

 まさか毒だったのか、と血の気が下がるが様子を見ているとそうではないらしい。

 あまり人に懐かないはずなのに今日は妙にじゃれついてくる。

「・・・・・・まさか」

 はっと頭をよぎったのは遠也にしては非現実的な予想だった。

「惚れ薬!?」

 と、自分で言っておいて笑いがこみ上げてきた。

 薬で恋愛感情をどうにかするなんて出来るわけが無い。昔から惚れ薬ネタの話は多いが、アレは全て想像というか、願望の話だ。

「そんなわけないか。人体には影響は無いようだし、そこら辺の誰かに試してみよう」

 出来た薬を試してみたいと思うのは科学者の性。

 遠也もそれに例外なく当てはまっていた。





 そんなこんなで、バレンタイン当日。

 どうにかこうにか本日の授業をやりこなし、放課後を迎えた。今日がバレンタインとは思えない程一日静かだったから、軍に呼ばれる女の子達は淡白なのかなーと思い始めていた。

 あんな風に囲まれておいてなんだけど。

 けれど、放課後になった途端それが間違いだったと知る。

「篠田君いますかっ!」

「甲賀君いますか!」

「澤田君いますか!!」

 等々、教室の扉はあちこちのクラスの女子で埋められて帰ろうにも帰られない状況に陥った。我先にと渡そうとする女子生徒の気迫と殺気がスゴイ。

「か、克己・・・・・・ほら、呼ばれてるよ?」

 恐る恐る教えてやると彼は心底嫌そうな顔をした。そりゃあそうだろう。翔だってあの中に突っ込んでいく勇気は無い。

「お前、俺に死ねと?」

「うーん・・・・・・でも、ほら早く克己がいかないと」

 女子の壁で、クラスメイト達は帰るに帰れない状況になっている。名前を呼ばれたヤツを恨めしそうな目でみて、さっさと行けと訴えている。

 彼らが犠牲になれば、自分達はこの教室から出られるのだから。

 渋々と指名を受けた友人達は腰を上げ、その女子の中に埋もれていった。

「そうそ。早く行かないと他の人に迷惑がかかるってわけ」

 克己と共に指名を受けた正紀がため息を吐きながら克己の肩を叩く。その瞬間、教室の外が沸いた。

「格好良いペアよ!」

「いいなぁー、親友って感じで」

 正紀と克己もそれなりに仲がいいから、女子の方では彼等のペアの写真が高く売れるとどこかで聞いたことがある。

 仕方無しに克己と正紀、それといずるがその女子の中に向かうと、黄色い悲鳴が聞こえた。

 克己が女子に囲まれるのを見とどけて、翔はふぅとため息をつく。

 昨日買ったチョコレート、実はカバンの中にあったりする。

 綺麗にラッピングされているので自分で食べるのも何となく勿体ない。まぁ、折角だから克己にあげようかな、と思っていたのだけれど・・・・・・。

 この状況じゃあ、チョコレートなんて貰うだけ迷惑かも知れないな、と克己を囲む女生徒の量を見て思う。その女子の中にこの間脅してきたメンバーを見つけ、慌ててカバンにチョコを隠した。

 見つかったら、何て言われるか・・・・・・。

 ちょっと残念だけれど、昨日買ったチョコレートはそれなりに値段が張ったし、多分美味しいだろうからいいか、なんて。

 チョコレートじゃなくて別なものを選べば良かった。

 今更後悔しても遅いけど。

 でも、もっと冷静に考えて、同性にチョコレートを送るってどうなんだ。

 あげようか、どうしようか。

 悩みながら寮へ向かうと、中庭に見知った顔が二つ。

「おー、とーや〜〜」

 さっさと帰ったと思った遠也と大志のツーショットに翔は手を振った。

 けれど二人はこちらに気付かない。

 何故か大志は顔を赤らめていた。

「え、てか・・・・・・本当にコレ、俺貰っていいの??」

「いらないなら返してくれて構わない」

「い、いるって!!」

 大志の手には小さな箱。

 中身はまさかと思うがチョコレート?

「・・・・・・何してるんだ?」

 声をかけると上機嫌な大志が笑顔で、今にも天にでも昇りそうな感じで振り返る。

「この幸せは俺だけのものだ――ッ」

 ぶっとんだことを言って大志はどこかへ走り去ってしまう。

「・・・・・・何をアイツは喜んでいるんですか?」

 それを見送りながら呆然としている遠也に翔は首を捻る。

「だって今日はバレンタインじゃないか」

 だからチョコレートをあげたのではないのか?

 けれど遠也は驚いたように目を見開いた。

「・・・・・・え?バレンタイン?」

「・・・・・・遠也、もしかして忘れてた?」

 だとしたら、大志が哀れすぎる。

 遠也はあっさり首を縦に振った。

「薬の実験台になってもらおうと思って」

 ここに本物の鬼が居る。

 恋愛とかそういうものに疎いのはこの友人も同じらしい。

 今の翔の悩みを解消してくれそうにはなかった。



 それで、少し緊張はしたけれども

「あれ?日向君」

「こ、今日は、若生サン」

 この学校で唯一の女性の知り合いを訪ねてみた。

 女子寮近くの公園まで呼び出してしまったのは悪かったけれど。

 彼女はにっこり笑って

「丁度良かった〜、確か日向君、甲賀君と同じ部屋よね?」

「へ?そうだけど?」

 そう答えた瞬間、周りの女の子たちの視線が自分に集中した。

 どこか殺気にも似た視線だった。

「これ渡しておいてくれる!?」

「私も!」

 そんな声があちこちから聞こえてくる上に、必死の形相になっている子たちが詰め寄ってくる。

 ここで断るのには八甲田山を冬に登るのと同じくらいの勇気と死ぬ気が必要だ。

「じゃあ・・・・・・話が終わったら受け付けます・・・・・・」





「で、私に話って何?」

 ベンチに二人並んで座っていると、何だか気恥ずかしい。

 しかも相手が可愛い女の子だったら尚更。

「あの、若生さんは友達にチョコとかあげる?」

「?あげるよ」

「あの、同性でなんだけど」

「あげるよ。なんで?」

「ホントかッ!?」

 その一言だけでかなり安堵。

 何てこと無い、と言いたげに彼女はにっこりと笑う。

「うん。日頃のお礼、みたいな感じで女の子はあげたりするんだよ?」

 女って不思議な生き物だな、と思う。

 でもまぁ

「そか、ならいいかな」

 なら、自分が克己にあげても彼に妙な誤解はされないだろうし、女の子達から自粛しろとか言われることもない。

 と、思う。

「日向君、甲賀君にあげるんだ?」

「えええ!?な、何でわかるんだよ!」

 顔を紅くしてのオーバーリアクションに若生は苦笑する。

「何となく、ね。女子の間で噂になってるし・・・・・・」

 最後のほうは小声で聞き取れなかった。

「あ、あげるって言っても、俺、店員さんに勧められただけで!」

「照れない照れない」

 いや、真実なんですが。

 翔の否定の言葉は受け入れて貰えなかった。

「素敵だわ・・・・・・」

 その時茂みから顔を出したのは若生と同じクラスの高瀬希乃だった。

 彼女の噂は聞いている。文系の天才だとか。

「・・・・・・何やっているの?希乃」

 突然の登場に友人である若生も驚き、その問いに高瀬は目を輝かせる。

「そこら辺の話を詳しく聞かせて欲しいの、日向君!」

 質問に答えていない。

「え、えっとそこら辺ってどこら辺?」

「どうして甲賀君にチョコレートを?」

「い、いつもお世話になっているから?後なりゆき・・・・・・」

「きゃあ、萌!」

 どこら辺が。

 萌、という言葉の意味もちょっとよく解らないのだけれど。

「きっと、今夜はチョコレートのように甘くとろけるような至福の夜ね、うふふふふ。チョコレートよりお前のほうが甘いなんて定番の台詞が飛び交ったり」

 先程の女の子達と似た感じにキラキラとしたオーラを放っているが、何だか少し違う気がするのは気のせいか。

「希乃、日向君が怯えているからそこで止めておいて」

 いつもこんな感じなの、と若生が苦笑した。

 いつも、こんな感じなのか。

 ちょっと、友達にはなりたくないタイプかもしれない。

「まぁ、いいや・・・・・・ありがと、若生さん」






 頑張れと送りだされたものの。

 たかがチョコ一つで何故こんなに自分は悩んでいるのだろうか。

 はぁ、とため息をついて自室のキーにカードを差し込んだとき、遠也にばったり出くわした。

「遠也・・・・・・三宅の具合はどう?」

 薬の効き目を聞いてみたところ、まだ彼に会っていないらしい。物凄いスピードで走っていったから仕方が無い。

 遠也も大志を探しているらしい。

「多分、即効性だと思うのですが・・・何分、何に効き目があるのかさっぱりで」 

 その時、茶色いネズミが遠也の頭の上に乗っかっていることに気がついた。

「とーや・・・・・・そのネズミは?」

「薬の実験台だったんですが、妙に懐かれまして・・・・・・ところで日向、その包みは?」

 翔の手の中には小さな箱が。手にかけている紙袋は女子からの預かり物だけれど。

「あー・・・・・・コレ、克己に渡そうと思って」

 手にもっているのは自分が隠していたチョコ。

 そこで、遠也の目が光った。

「甲賀に・・・・・・。ちょっと貸してはくれませんか?」

「?いいけど」



 被験者は多ければ多いほど確実だ。



「で、預かってきたわけ」

 紙袋の中身を克己に渡すとあからさまに嫌な顔をされた。部屋には同じような袋が7袋くらいある。全て克己宛のチョコレートだ。

 その量に彼はあからさまに嫌そうに顔を歪めていた。

「受け取るなよ」

「んな事言われても、怖かったし」

 あの気迫に勝てるわけが無い。

「・・・・・・で、その手に持っているのはお前が貰ったチョコか?」

 克己の指摘がどことなく不機嫌なのは気のせいだろうか。

「んにゃ。これは、俺から克己に」

「はい?」

「ん〜〜、まぁ、ホラ・・・・・・日頃のお礼も兼ねてさ」

 予想通り驚かれてしまった。

 もう少し、軽いノリの驚きを期待していたのだけれど、本人はかなり驚いているようで。

 喜んでくれたら、良いんだけど。でも、このチョコレートの数を見ると、単なる嫌がらせになってしまいそうだ。

 反応が薄い克己を睨むつもりで目線をあげる。が

「・・・・・・」

 無言で小さな箱を見つめる克己は・・・・・・まさか喜んでいる?

 イヤイヤまさか。バレンタインに男にチョコレートをもらって喜ぶのは甘党ぐらい。克己は甘いのが嫌いだって言っていたし。

「なんだよー、なんか、感想とか無いわけ?」

「え?あ、悪い・・・・・・。なんか、茫然としてしまった」

「?なんで」

「いや・・・・・・お返しとか、どうするべきかって」

「お前もお前で律儀じゃん・・・・・・。まぁいいや、開けてくれよ、俺も食べたい」

 あげたはずの箱を取り上げて包装を解いた。

 に、しても女の子からも貰った瞬間に一ヵ月後のことを考えるのか、この色男は。

 そう考えるとなんとなくむっとした。

「ってー・・・・・・これだけ?」

 値段に比例しているらしい中身はチョコがたった2個。

 ぼったくりじゃないか、と親切そうだった店のお姉さんを恨んだ。

「ほら、克己、食えよ」

 一応プレゼントした相手へ先に。

 克己にチョコを渡そうとした時

「失礼!」

 いずるが部屋に入ってきた。

 彼にしては珍しく、どこかあわてた様子で。

「矢吹・・・・・・?」

「俺はなにも見ていない俺は何も見ていない」

 暗示のようにぶつぶつ呟いて、彼はその場にしゃがみこんだ。

 何だ、本当に珍しい。

「何かあったのか?やぶ・・・・・・」

「しぃのだぁぁぁーー!!」

「ぎゃああああああ!!」

 翔がいずるに聞こうとしたまさにその瞬間、ドアの外から恐ろしい声が聞こえてくる。

 これは、大志と正紀か?

 克己がドアを開けて外の様子を確かめると

「篠田―!!待ってー!!マイスィート!」

「気色わりぃ事言ってんじゃねぇよ!お前、天才はどうした天才はぁぁ!!」

「遠也より君の方が可愛い事に何で俺は今まで気付かなかったんだろう!」

「馬鹿言うなぁぁぁ!!」

 お互い絶叫しながら必死に走っている予想通りの二人が。

 ・・・・・・パタン。

 思わずドアを閉めてしまった克己の心理には同情する。

「何だ、アレは」

 まともに見てしまったのだろういずるを振り返りながら、克己は見てしまった光景を必死に忘れようとしていた。

「わ、わかんねぇ・・・・・・何か、三宅のヤツがいきなりさ」

 外の騒ぎが収まったところを狙って部屋に戻ろうとしているいずるはこれ以上思い出したくない、と首を横に振る。

 じゃ、と素早く外に出て行くいずるを見送ったが、何だったんだ。

「何だったんだろ・・・・・・」

 克己に答えを求めるが彼も肩をすくめるだけ。

 あぁ、それよりチョコレート。

 



 A.「右のいただきっ」

 B.「左の俺食べても良い?」




選択肢です!頑張りました。
片方親友endでもう片方は?endです。