「Que la benediction principale soit en vous pour celui-ci semaine(この一週間、皆さんに主の祝福がありますように)」
笑顔で教会から出て行く人々を見送りながら、その神父は優しい声で呟く。
人々は神の使いでもある彼の言葉に安堵を覚えたのか満足そうに礼を口にして行き、彼もそれに笑顔で答える。
顔ぶれは様々だ。老若男女様々な人がこの教会に通っている。
ここは一応歴史的な教会だから、信者もかなり集まっているのだ。
古びてはいるけれどしっかりしている石造りの教会は街のシンボルにもなっている。
「Le pere!(神父様)」
皆が去ったと思えば、紅い顔をした女性が現れ、彼に飛びついた。
突然のことに対処出来なかった彼は驚いた顔をして彼女の体を受け止める。
「Il retourne que vous etes un pere. Mais je vous aime.(貴方が神父だという事はわかっています、でも私は貴方が好きです)」
涙声での告白に彼は当惑し、自分の体から彼女を離した。
彼の美形顔が困ったように笑うのを見て、彼女は眉を下げる。
かなわぬ恋だと、彼の表情を見て知ったのだろう。
「Je suis desole(ゴメンナサイ)・・・・・・」
彼女の青い目から涙がこぼれ、項垂れて神父に背を向けたとき、ようやく彼も口を開いた。
「Avec le corps avec lequel je sers Dieu, probablement, aucun je faisais
aussi l'amour vous,
(私も、私が神に仕える身で無かったら貴方に恋をしていたでしょうね)」
自嘲を含んだ告白に彼女は一度だけ彼を振り返り、心底嬉しそうに微笑んだ。
とても綺麗な笑顔に神父も眼鏡の奥の目を細める。
「Il benit a vous.(貴方に祝福を)」
自分が彼女に出来るのは彼女の幸せを祈る事くらいだ。
愛しい相手に背を向けて教会から去ってゆく彼女の背をひたすら見送っていると、熱気を含んだ風が神父の頬を撫でた。
その風に乗って、からかうような拍手が聞こえてくる。
「merveilleux!(素晴らしい)」
拍手と声の主は神父仲間のフェスト。お互いかれこれ10年の付き合いだ。
感傷的な一コマを無粋な輩に邪魔をされても当事者は怒りをみせなかった。
「Le combien de personnes est-ce qu'elles sont maintenant?(これで何人目だ?)」
フェストの問いに、先ほどの穏やかな聖職者の笑顔ではなく、確信犯の笑みを見せた。
「J'ai oublie.(忘れた)」
その相手の女性にとっては酷い台詞をさらりと言いながらうっとおしそうに伊達の眼鏡を外す。
けれど、フェストの中での突っ込みどころは忘れるほど告白されているのか、ということだった。
確かに彼、久我日月はアジア人らしくない長身だけれど特有の黒髪に黒い瞳が蠱惑的で、その顔はこの世のものとは思え無い程整っている。
絶世の美青年。
本来は女性に使うような言葉だけれど彼にはぴったりと当てはまってしまう。
特に彼の人種の特徴的な黒髪と黒目が神秘的な色を放っている。
黒は何物にも染まらない、と言われるように純粋で、見ているこちらが吸い込まれてその色に染まってしまいそうだ。その目に微笑まれたらそこらの女性などカンタンに彼に堕ちてしまう。
それと、顔に負けないほど綺麗な声も彼の魅力の一つだろう。
最近、教会の出席率がいいのは彼のおかげだと考えてもおかしくない。彼が聖書を朗読する時にあちこちから感嘆のため息が聞こえてくるのだ。
フェストも何度か女性に似たような告白をされたことがある。自分だってそう悪くない容姿である事を自覚している。透き通るような金髪に碧眼、神父になる前はかなり火遊びをしていた。
「Vous etes populaire.(モテモテだな・・・・・・お前)」
目の前で不適な笑みを浮かべる久我にそう言えば
「Depuis que c'est je(この俺だから)」
と返される。
久我の出現は少しだけ気に障ったが、もう諦めている。
色々な面で彼に自分は敵わない。
彼は頭がいい上に、女性の振り方が上手い。
ついでに、他人に対する接し方も上手い。人格をころころ変えて上手に対応している。
眼鏡をかけていると堅実そうな神父に見える。が
表の顔は信心深く穏やかな物腰の神父様。裏の顔は自分が一番の俺様。
「Bien que ce soit la chose de l'incident d'un exemple de lui(それより、例の事件のことだけどな)」
久我は聖職者の化けの皮を剥がしてポケットから煙草の箱を取り出す。
ここが教会の敷地内だということを忘れているのか、それとも気にしてないのか。多分後者だろう。
「C'etait aussi votre tour.(ああ・・・やっぱりお前の出番だったんだ)」
神父、という職業の中でも特別な部類に含まれている久我の立場にフェストは苦笑する。
神父の間では有名な人間だ。久我日月、という名前だけで大体何があったのかが解る。
「La police est aussi passee a vous. Le supposer porte dehors ou, ce peut
etre l'incident d'un partenaire humain.
(警察もお前に頼りすぎだ。もしかしたら人間相手の事件かもしれないのに)」
フェストの文句に久我は紫煙を吐き出し、天へと登るそれを見上げた。
「Pas moi mais vous(俺にじゃなくてお前な)」
さらりととんでもない事を言った久我のその意味がわからず、フェストは首を傾げた。
「je・・・・・・?(俺?)」
「Depuis que j'irai a Japon demain, il vous laisse une prochaine chose(俺、明日日本に行くから後のことはお前に任せた)」
ぽんっと強く肩を叩かれ、フェストは唖然とする。
「Pourquoi!?(はぁ!?)」
「Je ne reviens pas incidemment pour le moment(因みに、俺当分帰ってこないからな)」
よろしく、と笑顔で言われてもどう返せばいいのだ。
話が急すぎる。
しかも、彼の行き先は遠い異国の地。
教会の中へ行こうとする久我の背を慌てて呼び止めた。
「Est-ce que vous pouvez attendre Pourquoi est-ce que c'est si soudain?(ちょっと待て!何で急に!)」
今まで、彼は日本に帰るとは一度も言わなかった。むしろそれを避けているようにも見えたのだ。
教会に入る前に携帯の灰皿で煙草の始末をしていた久我はにやりと笑う。
「La lettre est venue de lui.(あいつから手紙が来たから)」
あいつ、と呼んだ彼の手紙の相手は知らないが、兎に角困る。
けれど久我は聞き耳を持たずに教会の中へ入っていった。
任されても自分は彼並みの力を持っているわけではないのに。
最近、妙な事件が続いていた。
惨殺された人間が今月に入って4人。事件が始まってから数えると13人。決まって死亡時間は金曜日の夜だ。
しかも、死体の側には血文字で『The Day of Judgment!』と書かれている。
彼らの共通点は悪魔を神と思い、崇拝する悪魔崇拝者。
だから、警察は祓魔師――と呼ばれる組織がある教会にも捜査の助けを依頼した。
それの筆頭に立つのが、あの久我日月なのに。
一応フェストもその組織の端に居る事はいるのだが。
取り殺されたら久我を呪い殺してやろうと神父らしからぬことを思ったことは神のみぞ知る。
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フランス語です。文字化けしますかね・・・。