「酷い、臣君、一緒の高校行こうって言ってたじゃない!!」


 ばっしーん。


 今日は高校の合格発表日、付き合っていた彼女に平手打ちをくらい、別れた。

 彼女の第一志望は俺の第一志望校。で、俺は第一志望校に受かったのでそっちに進む事にした。

 でも彼女はあっさり落ちた。んーまぁ、彼女の学力じゃあ無理だと思ってたけど。

 落ちたと知った彼女は伺うように俺を見てきた。まさか、この学校に、アタシの居ない学校に進むわけないわよね?

 という眼だった。

 俺はお前が居ようが居まいがぶっちゃけ関係ないんだよ。

 この学校にはつー兄がいるんだから!

 「・・・・・・そんなこと言ってたっけ?」

 と思わず呟いたら今度は左頬にくらった。

 右を叩かれたら左を出せって言うけど、俺は生憎とキリスト教徒じゃないわけで。

 走っていく彼女の背を見送り、どうせ明日には自分の事は忘れているんだろうなーとぼんやり思った。



 俺は関係を持った相手に自分が特殊な種族だとばらした事は一度も無い。

 本来の姿を見られて、名前を当てられたらソイツが契約者、なんて面倒臭い方法もあるけど、実はヤっちまえば

 契約完了なんだよな。

 とりあえず人間なんて俺たちの食料程度にしか思っていないし。

 そんな考え方だからか、兄さん達が人間相手に恋愛しているのがちょっと信じられない。

 特に、特に、3番目の兄のつー兄が!!

 あんなに可愛かったつー兄が人間なんかにたぶらかされるなんて許せない!

 きっと騙されているんだ!

 兎に角つー兄と同じ学校に入って、あの更科の化けの皮を剥いでやろうと今から物凄く楽しみだったりして。

 に、しても。

 「いってぇ・・・・・・」

 流石に両頬を叩かれてのダメージは大きい。

 口の中切れてるかも。血の味がする。

 合格発表の日に平手打ちを食らうなんてドラマでも滅多に無いシナリオだぞ?

 あーくそ、明日からの契約者、適当に引っ掛けて帰らないと・・・・・・。

 「大丈夫かい?」

 「え?」

 ぽん、と肩を叩かれ大人びた低い声に多分この学校の教師なのだろうと予測して振り返った。

 そして、思わずその顔に硬直してしまう。

 「さっき叩かれていただろう、両頬が腫れているよ」

 そう優しげに微笑む顔には見覚えがある。

 「あ、あ、あんた・・・・・・!!」

 忘れもしない先月の2月14日にうっかり俺の正体を見せてしまったあの男だ!!

 今の今まで忘れていたってのに、この学校の教師だってぇぇぇ!?てか、何であそこに居たんだよ!

 口をパクパクさせている俺に相手も気がついてしまったらしく、驚いたように俺を見てきた。

 「君は、確か」

 「うあぁぁ!!頼む、忘れてくれー!!ってゆーか・・・・・・」

 そうだ。

 今、俺は契約者が居ないフリーの身。

 コイツを契約者にしてしまえば、一件落着ということだ。

 一日でもいい。その後俺が適当に他の相手を見つけちまえば俺に関する記憶はすべてこの男から消え去るはず!

 う・・・・・・でもこの男、背ぇ高いなー・・・・・・もしかして、俺が女役か?やだなぁ・・・。

 自慢じゃないけど今まで男に手ぇ出したこと無いんだよなぁ・・・・・・。

 でも、四の五の言っている暇は無い!

 「今暇ですか!?」

 「え?」

 「今じゃ無かったら今夜、今夜!」



 早まった行動を取っている事に、実は気がついていなかった。








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