で、だ。
うん、そう、で。
俺は昼間、正確には一ヶ月前に初めて出会って今日再びムカつく運命の巡り会わせで再会した男とベッドの上で正座で向かい合っていた。
俺の目的はただ一つ。コイツとヤって、今日中にも別な女とヤって、コイツの記憶から俺の事を抹消する。
何て完璧な作戦なんだ。
そうしないと俺の輝くつー兄とのラブスクールライフは送れない。
つー兄、俺頑張るよ。
「で・・・・・・坂下君、と言ったね。何でこんな事になっているのか私には解からないのだが」
歳は20代後半といったところか、彼は待ち伏せしていた俺に無理矢理ホテルなんかに連れ込まれて困惑しているようだった。そりゃあまぁ、当然か。
でも一瞬の事だからお説教はカンベンして貰おう。一応こっちだって、いきなりこんな事に巻き込んだ事多少なりとも悪いなーとは思っているから、女役に甘んじてやろうと思っているんだ。
にしても、顔がそれなりに格好良いヤツで良かったー。これで中年太りのバーコード親父とかだったりしたら俺多分見られた瞬間にソイツ爪で切り殺してただろうし。
趣味ってモンが一応あるんだよ、うん。
「俺、センセーに一目惚れしちゃってー。是非とも抱いて欲しいなぁって思って」
つー兄には敵わないけど可愛い笑顔ってヤツを浮かべてみた。
誘い文句にしてはかなり陳腐だけど・・・・・・って、何か今この男馬鹿にしたような笑い浮かべなかったか!?
男は失笑を手で隠し、俺から目を逸らす。
うわ、うわ、何か笑い堪えていやがる!
「いーから抱きやがれってんだ!じゃねぇと食い殺すぞ!」
男に飛び掛り、ベッドに押し倒すと安いそれは大きな悲鳴を上げた。
グルル、と喉の奥で男を威嚇するけれど相手はあまり怯えた様子も見せない。・・・・・・なんで?
それどころか不敵に笑ってきやがった。
「なかなか調教し甲斐のありそうな犬だな」
「犬じゃねぇ!狼だ!」
犬、という言葉に反応して歯を剥き出しにして主張してみたけど、・・・・・・今コイツなんか不穏な事言わなかったか?き、気のせいか?
ってゆーか、やっぱり覚えてるじゃねぇか。
「でも、俺は止めとけ。俺にもお前にも良い結果にはならないぞ」
男が呆れたようにため息を吐きながら押し倒す俺の肩をどけろと言うように押すが、そんな事で引けるわけがない。
「冗談。アンタだよ、アンタじゃねーと駄目なんだよ」
だってあの時俺を見たのはコイツ。コイツの記憶からその事を消さないことには。
じゃなかったら誰がこーんな男を誘惑するよ。
ま、それなりにカッコいいけどさ。黒髪って好きだし。つー兄黒髪だしな。・・・・・・広兄もだけど。
俺の一言に男の眼が面白いものを見るような色に変わった。
「さっきのはどうかと思ったが今の一言は良いな」
「へ?」
ぐるりと視界が反転したと思ったら、俺が今度は押し倒されてい、た・・・・・・。
「わかった。お望みどおり抱いてやる」
その横柄な態度に俺が驚く番だった。
「ちょ・・・・・・あ、アンタさっきと性格ちがくない?」
「気のせいじゃないか?」
「嘘嘘嘘!!気のせいなんかじゃない!さっきはお人よしっぽかったぞ!」
だからこそ決意したってのもあるのに、計算狂いまくりだ。
「充分お人好しじゃないか?いきなり抱いてくれなんて馬鹿な事を言う中坊の言う事を聞いてやっているんだ」
「でも、何か違・・・・・・っ」
こ、これじゃあ俺の予定が狂う。
適当に済ませるつもりだったんだ、マジで。
っていうか30分くらいで済ませるつもりで、次の女とは後45分後に約束済みなのに!
それにそれに、必要なところ以外は脱ぐつもりなんてさらさら無かった!
「ちょ、待・・・・・・っ!」
絶対あんまり手馴れていないだろうと思っていた相手は慣れた手付きで脱がしにくいはずの俺のシャツをするすると脱がしていく。
や、やり手だ・・・・・・!
「ん?なんだ、急に大人しくなったな」
相手が取り合えずやる気になってくれたからまぁいいか、と思ってもう暴れるのは止めた。
さっさと終わらせてもらって、次の女のとこに行こう・・・・・・。
「もういいからさっさとやってくれよ。あと25分くらいで」
「25分?あぁ、成程・・・・・・」
時間制限をされて一瞬相手は眉を寄せたがすぐに口元を歪めた。
「考え方が随分と浅はかだ。適度な馬鹿は好きだぞ」
「馬鹿?」
何だその言い草は。
男の尊大な態度には今すぐぶっ殺してやりたいくらいの怒りを感じたが、まぁこれでコイツとの接触は終わるんだし、我慢我慢。
「無駄な話は無しでお願いしまーす」
「注文が多いな、随分と」
「うっさいなー、後20分・・・・・・っわ!」
いきなり最初ッから多分入れるのに使うとこに触れられ、驚いた。
「ちょ、いきなりかよ!せめて一回くらいぬいてくれたって・・・・・・」
「時間が無いんだろう?」
「そりゃまぁ、そうだけど」
何なんだ、この甘い空気っつーもんが全然無いベッドシーンは・・・・・。
別にそんな雰囲気を求めているわけじゃ無いけど、なんだかなぁ・・・・・・。俺一応処女なのに。
はーぁ・・・・・・。
自然と出てきたため息に目の前の男が眉を寄せた。
「何だ、その辛気臭い顔は」
「どうでもいいだろ・・・・・・あ、でも俺一応初めてだからお手柔らかに〜〜」
ひらひらと手を振ってまた注文。
「・・・・・・なら、次は泣いてお前が俺に抱いてくれと額づいてくるくらい感じさせてやるよ」
「へ?」
何か、凄くアレな感じな時間の始まりだった。
今まで、色んな子とこういう事してきたけど、こんなに熱い時間は初めてだったかもしれない・・・。
いや、てゆーか女役でそれってどうなの自分。
ベッドの軋む生々しい音と二人分の吐息に紛れてどこからか電子音が聞こえる。
「鳴ってるぞ」
動きを止めることなく上にいるヤツは俺に言ってきた。
鳴ってる?何が?
この時、自分が正常な思考を保っていなかったことは自覚してる、けど。
「いい・・・・・・」
むしろその音が耳障りで早く止まれとどこかで念じていたら、耳元で相手の勝ち誇ったような笑いが一瞬だけ聞こえた。
「っだー!!2時!?2時!?」
目が覚めてベッドサイドで点滅しているデジタル時計の数字を見て俺は思わず擦れた声で叫んでいた。
2時、って夜中の2時だ。草木も眠る丑三つ時だ。
このホテルに入ったのは確か8時くらいだったのに・・・・・・!!ってか!!
慌ててバックに突っ込んでいた携帯を取り出して履歴を確認し、俺は青ざめる。
約束していた女からのメールと着信履歴があわせて9件・・・・・・最後のメールには「これきりね」という別れの言葉のみしか書いていなかった。
やっちまった・・・・・・。
ガックリと絨毯の床に手をついて反省していると、椅子に座っていた男が馬鹿にしたような笑いを投げてきた。
「残念だったなぁ?」
ひ、他人事だと思いやがって!!
「アンタがしつっこいからいけないんだろ!」
「しつこい?心外だな。電話が鳴っていることは伝えたが、お前がいいって言ったんだ」
う・・・・・・そ、それは覚えが有るから何とも言えない。
仕方ない。この時間なら適当にぶらついても誰か引っ掛けられるだろう・・・・・・。
帰る準備をしようと体を持ち上げて、思わず悲鳴を上げそうになった。
痛い・・・・・・か、体マジすっげぇ痛い・・・・・・。
そっか、受け入れた側ってこんなに痛いんだ・・・・・・。つー兄、耐えてるなぁ。
ベッドに再び転がった俺をみて、男はにやりと笑った。
「お前は馬鹿か」
ふーっと顔に彼が吸っていた煙草の煙を吐きかけられ、俺は硬直する。
「ば、馬鹿ってなんだよ」
「馬鹿だろうが。自分の正体見られたくらいで記憶消すためにその男を契約者にするなんて」
「一番良い方法だと・・・・・・ってゆーか何でアンタその事知ってんだ!」
俺、話してないぞ!狼男の事も契約の事も!
男はにやりと笑って胸元から何かを取り出し・・・・・・俺はそれを観て硬直してしまった。
「ろ、ろざ・・・・・・ロザリオッ!?」
クリスチャンがよく持ってお祈りをするあの十字のペンダントが男の手に納まっているのだ。
ちょ、ちょっと待てよ、まさか・・・・・・。
「俺はお前らを倒す為の機関にいる神父、の、資格を持っている」
「まさか、アンタ、は、ハンター・・・・・・?」
俺達を狩る立場に居る人間達の機関、俺たちはハンターと呼んでいる。
つまりは敵だ。
震える指でヤツを示すと、彼はにたりと笑う。
「その通り。ったく、前代未聞だぜぇ?狼男と契約したハンターなんて」
お、俺だってハンターと契約したなんて、一族でもマジで前代未聞なんですけど!!
ど、どうしよう・・・・・・!
一族の、っていうかむしろモンスター全体の恥さらしじゃないか!?俺!!
苦悩する俺とは対照的に、男の態度は平然としたものだった。
「ってゆーか、何でハンターが学校教師なんてやってんだ!!」
「副業」
「何であの時ウチのガッコに居たんだよ!」
「ウチの高校の宣伝」
俺の質問を紫煙を吐き出しつつ次々と答えていく。
だから、だからさぁ!
「ちょ、オイ、何でお前はそんな落ち着いてるんだよ!」
お前だってモンスターと契約したなんて、汚点だろう!?
「あぁ?今更慌てたってどうしようもねーだろうが。さーて、契約解除、と行きたいところだけどな」
「何だよ」
「俺達って、ホラ一応聖職者だから性行為本当はダメーなんだよな。ついでに男はもっと禁忌なわけ」
ああ、成程コイツからは契約解除出来ないってことな。
「わーったよ・・・・・・俺が他に女捜してやれば」
「でも、お前がすぐに他のヤツのところに行くのは俺のプライドが許さない」
「はぃ?」
ってゆーか、何言いたいんだかさっぱりわからな・・・・・・。
プライド、って・・・・・・。
困惑する俺に、ヤツはにたりと笑った。
なんていうか、面白いオモチャを手に入れた子供のような目で。
「俺をキズモノにした責任くらいとってくれるんだろ?」
ずぃ、と顔を近づけられ思わず後ろに引いてしまう。
・・・・・・俺としてはむしろキズモノにされたような気が・・・・・・気が・・・・・・。
「永遠の命を謳歌するってのも、暇だし良いかもしれねぇよなぁ」
ちょ、ちょ、ちょっと待てー!!
「お、お前永遠の命を手に入れるために俺を使うのか!?」
「悪いか?」
「悪いに決まってんだろ!!お前人を何だと」
「狼男〜〜」
「そりゃ人じゃねぇけど、でも、でもちょっと待てー!!」
「どうせお前が他のヤツ抱いたところで、俺はお前を祓う事になるだろうし、この先生きていきたかったら俺のモノになりな」
つまり、それは浮気したら殺すと・・・・・・?
お、俺とんでもないヤツに当たったんじゃ・・・・・・。
「良かっただろ?」
にやりとやらしい笑みを浮かべて俺を見てくるヤツは、狼・・・・・つーか悪魔だろ!!どこが聖職者なんだぁぁぁ!!
「新学期からよろしくな、坂下くん。俺好みの忠犬に教育してやるよ」
この瞬間、俺のハイスクールライフは真っ暗闇になってしまった。
終
臣はこんな感じです(笑
TOP
|