そら。


誰かが空を呼んでいる。
・・・・・・いや、もしかして俺のことを呼んでいるのか?
遠いトコから聞こえてくるその声に段々と意識が浮上する。
また母さん俺と空のこと間違ってるよ。昔ッから俺と空を見分ける事が出来るのは父さんだけだった。

「違うよ、母さん・・・・・・俺は空じゃな」

「ソラ?」

 ・・・・・・・・・・って。おぉっと!!

「ゆ、ゆゆゆゆゆーひさん!?」
眼を開けたすぐそこに夕日サンの顔があったからもう驚くしかない。
最高の目覚ましだ。
って、俺今軽くヤバイこと言わなかったか!?
「ソラ」
「は、はい!?」
飛び起きた俺の顔を彼はいきなり真剣な表情で見つめてきて、心臓が嫌な感じに高鳴り、背中に冷たいモノが駆け上がる。
ヤバイ、俺なんか絶対やばい事言った・・・・・・。今、空じゃないって言いそうになってたよな、俺!バレた!?バレたか!?
「・・・・・・俺ってアップに耐えられない顔か?」
けど、夕日サンの方は全然違う方を気にしてくれた。本当に真剣に聞いてくるから、思わず笑ってしまう。多分安心したってのもあるし。
やっぱ、ゲーノージンって自分の顔気にするもんなんだろうなー。
「いやいや。ばっちり男前ですよ」
あっはっは。
笑いながら彼の肩をバシバシ叩くと、彼は少し困ったような顔になる。
?何だ。
「お前、昨日の酒抜けてないんじゃないか?」
「へ・・・・・・」
酒・・・・・・昨日酒飲んだっけ?
まだまだ眠い頭をフル回転させて昨日の事を思い出して、俺は笑顔を凍らせる。
そうだ、昨日は色々あって、その色々が夕日サンの所為で、夕日サンは朝帰りで、って・・・・・・。
「・・・・・・俺が夕日サンと朝帰り?」
「残念だけどちょっと違うなー」
首を傾げた俺に夕日サンは笑って否定する。何なんだ?状況が全く読めないぞ。
昨日俺は自室でみんなと飲んで、それで・・・・・・。
そうだ、俺は自分の部屋に居たはずなのに、何故かここは夕日サンと八雲くんの部屋。
「八雲たちが夜飲みたいっていうから、お前は俺の部屋に引き取ったんだ」
「あ、そうだったのか・・・・・・」
って、飲みを許したのか。夕日サンにしては珍しく甘い判断だなぁ・・・・・・。
それは、やっぱり冬河君のことが後ろ暗かったから?
マイナスな方向に考えてしまい、ちょっと嫌な気分になる。って、別に俺がこんな気分になる事は無いんだけどさぁ。
ここはビシッと言ってやらないと!
「・・・・・・夕日!」
「はい!?」
突然俺に名前を呼ばれて驚いたのか、夕日サンは背筋を伸ばしてイイ返事をする。
「別に、俺夕日の趣味とか追及するつもりは無いけど、他の皆に夜遊ぶなって言って、一人だけ夜遊びに行くっていうのはどうなんでしょうか!!」
よし、言った。言い切ったぞ俺!ノンブレスで!
我ながら自分のワケのわからない怒りを悟られない、良い意見だと思う。
「あー、ごめんごめん。ソラとか必死に仕事してるのに悪かったよ」
そんなあっさり謝られても!!
やり場の無い何かが心の中に蓄積されていく感じで、何というか・・・フラストレーション感じるよ。
夕日サンは俺が必死に考えた台詞だとも思っていないらしく、何とも軽い口調で続ける。
「でも、弟に会ったの久々だったし、まぁ大目に見てくれ。この埋め合わせはホントにいつか必ずするし!」
パンッと両手を合わせて彼は俺に頭を下げてきた。
ってー・・・・・・。
「・・・・・・弟?」
「?そう、弟」
「冬河君、って夕日サンの弟?」
「そう、弟。言わなかったっけ?」
聞いてねぇよ!!と叫びそうだったけど、多分空は知っているんだろうし。
「・・・・・・言ってました」
叫びたいのを堪えて、俺はがっくりと肩を落とす。
そうだよな、普通に考えればそうだよな!弟!!
っていうか空!お前メンバーの弟の名前忘れてるんじゃねぇよ!!
あーあー、もう俺何やってんだろ・・・・・・バッカみてぇ。バッカみてぇ。
「そういや、ソラさっき俺の趣味がどーのって」
「すいませんでした。そこら辺は聞き流してください。俺の勘違いでした」
もうこっちが土下座モノだ。
くっそー、なんでこんな変な勘違いしたかなぁ。俺頭馬鹿になった?八雲くんが朝帰りとか言うからだろ!
「もしかして、俺と冬河が恋人とかそこら辺だと思った?」
夕日サンの鋭い質問にはもう彼の顔を見ることが出来ないで頷いた。
「はぃ・・・・・・ごめんなさい」
「あっはっは。気にしなくていいぞー。どーせ八雲あたりが朝帰りとか際どい単語使ったんだろ?」
しかも解釈も鋭い。
そして、器も広いなぁ・・・・・・。変な勘違いした俺にも全然怒らないし。
ちょっと冬河君が羨ましいかな。こういうお兄さん居て。俺には弟しかいないし。
色々と安堵している俺に、何故か夕日サンは苦笑を消した。
「それに、ちょっとまぁ・・・・・・お前の勘も100%外れてるってわけでもないし」
「へ?」
何かを考えながらガシガシ寝起きの頭を掻き回す夕日サンは、俺の顔をちらっと見て、何故か深いため息を吐いた。
え、え、俺何かしたか!?
オロオロする俺に、夕日サンは諦めたような笑いを浮かべる。
「やっぱ、お前可愛いよなぁ」
「へ?お、俺ですか?」
「そう、お前」
「夕日も格好いいんじゃないかな?」
「そりゃどーも。って、まー、別に俺が言いたい事はそうじゃなくて」
「え、何・・・・・・」
あれか、お前、弟みたい、ってヤツかな?そういう可愛さ?
それはちょっと嬉しいかもなぁ。
「うん、やっぱ俺お前好きだわ。恋愛的な意味で、だけど」
そう、夕日サンはさらっと言った。

弟とか、年下の友達、とか。
そんな返答が来るのかと思ったら。





ドタドタドタバッターン。
大きな足音とドアの開閉音に眠っていたらしい八雲くんと星夜くんがもそりと顔を上げる。部屋の中は凄くお酒臭かったけど、そんなことには構ってられない。
「なんやぁ・・・・・・?ソラ?」
ぼーっとしている星夜くんの横を通りすぎ、俺は自分の鞄の中からゴソゴソと携帯電話を取り出した。
目当てのものを教科書の山の中から見つけて、俺はそれを強く握り締め部屋から飛び出す。
目的地は、誰も居ないところ。
ホテルの廊下を走り回って、ようやく見つけたのは非常階段に繋がるドア。普通の時にあんまり開けちゃいけないんだろうけど、今は俺の中では非常事態。
8階だし、人気も全然無いその階段に座り、重いドアを閉めた。
そして、すばやくボタンを押したその先は

『なんだよ、りくにぃ・・・・・・今何時だと』
あからさまに寝起きで機嫌の悪そうな声だったけど、そんな事構っていられない。
「どうしよう、空、空!俺、俺、夕日サンに告られたーッ!」
『・・・・・・・・・・・・・はぁ?』




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ムードも何もない・・・・・・。