渡貫和仁、若い女性陣に人気な演技派俳優。
テレビで見ていた時はそんなに悪い印象は無かったんだけれど。


「別に俺は君がソラ君じゃなかろうとどうでもいいんだけどね。あ、でもメンバーの子達は傷つくんじゃない?
全然知らない子と入れ替わっていたなんてさ」


 美形だと持て囃されるその笑顔での言葉に俺は彼を睨みつけた。

 それをどう捉えたのか解らないけれど、彼は面白そうに笑う。

 だから、俺も

「面白い事を言うな」

 彼の真似をして笑ってやった。

 一瞬渡貫サンが驚いたような顔をしたのに少し心が晴れる。

「俺はソラだ。仮にそうで無かったとしても、何か証拠でもあるわけ?」

「無いよ。俺の推測」

「推測でモノを言うな。それとも、前のドラマの役がまだ残ってるのか?」

 渡貫サンが前やっていたドラマの役柄は探偵だった。因みにソラはその宿敵の怪盗役だった。

 そういえば、ソラと渡貫サンがこんな風に対峙している場面が何回もあったっけ。まさか俺がやる事になるとは思わなかったけど。

 挑戦的な俺の言葉に渡貫サンは眉を上げる。

 面白い、というような表情は謎をこれから解明しようとしているあの探偵そのままの顔。

「まぁ、憶測に過ぎないんだけどさ」

 くすくす笑いながら彼は俺に手を伸ばしてきた。

「君がもしあのソラ君じゃないっていう証拠を見つけられたら、俺と付き合ってよ」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?


「付き合うって・・・・・・」

 何処に?

 うっかり首を傾げてしまった俺に渡貫サンはにっこり微笑んだ。

「こういうことする仲になろうって事」

 そして茫然としている俺の隙を狙って、彼は俺の額に口を寄せた。

 ・・・・・・はぁ!?

「ふ、ふざけてんのか!?」

「ふざけていません。俺は至極真面目ですよぉ?ソラくん?」

 ソラ、という名をワザとらしく強調してくる彼を強く睨みつけた。

 何だよ、この人!

「いいじゃん、君が本当にソラ君だったら俺と付き合わなくったっていいんだしさ」

 彼の言う事は最もで。

 つまり、ここでこの話を断わったらさらに彼に疑われる事になってしまうわけで・・・・・・。

「・・・・・・勝手にすれば良い」

 俺の返事に、渡貫サンはにやりと笑った。

「明日が楽しみだよ」

 は?明日?

 彼の言葉の意味が解らず明日のスケジュールを頭の中で整理していた。

「渡貫!」

 その時、誰かに肩を引かれ俺はその誰かの腕の中に収まる事になる。

「ゆーひ君じゃん。もう仕事終わったの?」

 へらへら笑いながら渡貫サンは俺の後ろに居る人の名を呼んだ。

 へ!?夕日サン!?

「コイツに近寄るなと言ったはずだ」

「明日、トーク番組で一緒になるんだからその挨拶をと思っただけだよ」

 その渡貫サンの一言に俺は硬直した。

 は?トーク番組!?

 ってか聞いてないけど!

「よろしくね、天の皆さん。生だしお互い失敗の無いようにしないとね」

 しかも生かよ!!

 渡貫サンは、というと衝撃を受けている俺を見て勝ち誇ったような笑いを浮かべていた。

 この人、絶対トーク番組中に何かする。

 命賭けても良い。絶対する!

 どうしよう、空・・・・・・!

「大丈夫か?ソラ」

 青ざめている俺に声をかけてきてくれたのは夕日サンだった。

 見上げたところには心配げな黒い目が。

 う。

 な、なんか恥ずかしいんですが。

「大丈夫・・・・・・」

「アイツに何か言われたのか?」

「・・・・・・言われていません」

 言える訳ないだろ。

 
『あ、でもメンバーの子達は傷つくんじゃない?全然知らない子と入れ替わっていたなんてさ』


あんな事言われたら、さ。


くそ、空、今日は家族会議だ!



「渡貫に気付かれた!?」

「気付かれてねーって!気付かれそうってこと!」

 学校から帰ってきた空を部屋に引っ張り込んで、事の次第を話す。

 渡貫、という言葉に空は不快気に眉を寄せていた。空も渡貫サン苦手なのかな?

「それで、明日生で、渡貫サンと一緒なんだけど・・・・・・」

 音楽関係の番組で、渡貫サンが司会を務めている人気番組がある。俺は見たこと無いけど。

「・・・・・・ちょっと待て」

 渡貫さんと一緒、と聞いて空はその番組が何か気がついたらしい。流石!

「その番組、確かアーティストのトークが主体だけど最後に一曲歌わせるぞ?生で・・・・・・」

 え?

 一曲、って・・・・・・歌、だよな?

 硬直した俺に空はため息を吐く。

「明日、俺が行く」

「はっ!?」

 ちょっと待て!お前今歌歌えねーだろ!!

「だーいじょうぶ。昨日屋上でちょこっと歌ってみたけど結構イケたから」

 空はにっこりと笑って俺の肩を叩いてきた。

 その笑顔は昔から変わらない、俺を安心させる為の笑み。

「でも、空!」

「この話はこれで解決。明日は俺が行くからな〜〜」

 手を振りながら部屋から出て行く空に、俺は何も言えなかった。

 喉、大丈夫なのかとか、言いたい事は沢山あるのに。

 次の日、いつもどおり起きたらすでに空は居なかった。













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むむ