「で、どうだった?」

「サイテー」

 空に学校の事を聞くと何だか憮然としていた。

 どうせ授業が面白くなかったとかそこら辺だろうけど。

「てかさ、何で蘇芳に俺のこと言ったんだよ、陸!」

 けれど意外なことに理由は蘇芳、らしい。

 アイツは俺の親友と言えるヤツだ。だから空の事を昨日電話をして教えておいたんだけど。失敗だったかなぁ・・・・・・。

 まぁ、アイツも少し変なところあるからな。

「心強いかと思って」

 正直な答えを返すと空は首を横に振った。

「ぜんっぜん心強くねーよ!何アイツ!!」

 怒りにまかせてパウダービーズのクッション相手に格闘を始める弟が、珍しかった。

 感情剥き出しの空なんて珍しい。

「あれで、結構イイヤツなんだって、蘇芳は」

「ああ、イイヤツだろうな!何だよ、俺以外にはへらへらして、どうせ兄貴にもそうなんだろ!騙されてるんじゃねーの!」

 へらへらって……。

 そりゃ、蘇芳は人当たりがいいって評判の生徒会長だし。

 大体の人には優しく接してるけどな……。

 でも、結構底意地が悪いのは知っている。多分その面を空は見てしまったんだろう。

「俺のことはどうでもいいよ、兄貴は?」

「え?」

 さっきまでボコボコに殴っていたクッションを今度は強く抱きしめながら、空は俺に聞いてくる。

「今日の生見ている分には上手くやれてたみたいだけど、どうだった?」

「う、ん……」

 色々ありすぎて……。

 でも、話しておくべきだろうことは八雲くんの事。

「八雲くんなんだけどさ」

「八雲?」

「石田ってマネージャーと付き合ってたって、空知ってた?」

「……言われなかったけど、気付いてはいた」

 途端に空の空気が暗くなる。

「そっか、やっぱりそうだったんだ……」

「空……」

 哀しそうに顔を歪める空。

 もし、空が今日、あの場面であそこにいたらどう行動していただろう。

 俺よりは、数倍良い判断が出来たかもしれない。

「他は?陸」

「え、と」

 俺の頭に浮かんだのは、夕日サンのこと。

「何で、空、夕日サンのこと嫌っているんだ?」

「はぁ!?ゆーひ?」

 俺の質問が意外だったらしく、空は驚いて俺の顔を凝視していた。

「夕日とは、相性の問題なんだよ。あの身長とか、顔とか、見ててムカつくし」

「でも、良い人じゃん。今日だっておごってくれるって……」

「はぁ!?夕日が、おごるぅ!?」

 あの守銭奴が!?なんて言って空は驚いていた。

 守銭奴には見えなかったけどなぁ・・・・・・。

「なんだ、陸。上手くやってんじゃん」

 ほっとしたような空の言葉にそうかな?と首を捻るしかない。

 正直不安な事ばかりで。

 でも。

 夕日サンに会えた、っていうのは結構イイコトかもしれない。

 なんて、今日初めて会った夕日サンの笑顔を思い出して一人何となく気恥ずかしい想いをした。








「ソラ君、目線こっちね」
 
 空との入れ替わりを初めて一ヶ月、俺は大分この世界に慣れてきていた。

 別に無理矢理ソラを演じる事も無い事を知り、もう素で通していた。

 細かいところの好みは結構ソラと一緒だから。

 でも、写真撮影の時はいつもいいのかなぁって思う。

 だって、俺ソラじゃないし・・・・・・。

 今日は雑誌の撮影、インタビューと音楽番組のコメントだけ。

 学校に行くより楽なんだけれど、本当はもっと忙しいのだと思う。

 だって、俺以外のメンバーの皆は走り回ってるし・・・・・・。

「そーら」

 楽屋でぼーっとしている俺に早着替えを終えた夕日サンが声をかけてきた。

「ん?何、夕日」

「午前中の仕事、俺は次で終わるからさ、飯一緒に行こう」

 毎日夕日サンは俺を誘ってくれる。

「うん」

 それが凄い嬉しくて俺も毎日頷いている。

 それを見た夕日サンは

「ああ〜〜、可愛い。ちゃっちゃと終わらせてくるから、待ってろよ」

 俺を軽く抱きしめて楽屋から出て行った。

 八雲くんといい、抱きつくの好きな人達だなぁ。

「そーらー」

 なんて思っていたら背後からまた誰か抱きついてくる。

 今度は八雲くんだ。

「なぁんか最近ゆーひと仲いいよねぇ」

 からかうような口調に俺は思わず頬を染めていた。

「そ、そんなことねぇよ!」

「あー、顔紅いよ?」

「八雲」

 その時、べりっと音がしそうな勢いで八雲くんを剥がしたのはもう一人のメンバー星夜さん。

 この人は夕日サンと違ってテレビで見ていた時の印象まんま。

「何すんだよ、せいやぁ」

「俺とお前はこれからスタジオで練習」

 八雲くんを引きずるようにして星夜さんは楽屋から出て行った。

 てか、スタジオって・・・・・・どこのだろ。

 結局楽屋に一人残された俺はため息を吐くしかない。

 いっつもこうなってしまうんだ。

 俺が出来る仕事を選んでいるとこうなってしまうようで。

「暇だなぁ」

 この時間に学校へ行きたいのだけれど・・・・・・。

 本当は、ソラには暇なんて無いはず。

 メンバーが居なくなってしぃんとした楽屋に俺はぽつんと一人。

「あれ。ソラ君、ひとり?」

 楽屋のドアが開いて、顔を出したのはこの間出会った渡貫サンだ。

「渡貫・・・・・・」

「そんなに驚かないでよ」

 彼は苦笑して俺に近寄ってくる。

 慌てて一歩下がった。

 それでも彼は近付いてきて、俺はそれに合わせて後退する。

「・・・・・・ソラ君?」

「ゆ、夕日にあんたに近寄るなって言われてるんだよ!」

 だから俺は今必死に逃げていた。のに

 渡貫さんは一瞬呆けた顔をして、噴出した。

「かっわいいなぁ〜〜。凄い天然だねぇ」

 俺は彼が笑う理由がわからなくて、困惑するしかなく。

 てか、何この人。人のことそこまで笑わなくたっていいじゃねーか!!

「失礼します!」

 憤慨しつつ去ろうとしたら腕をがしっと掴まれた。

「いいじゃん。少しおにーさんとお話しよう?」

「・・・・・・そんな暇あるんですか?それとも、仕事が無いとか?」

 ふっと鼻で笑ってやると渡貫さんは目を細める。流石に怒ったか?

 けれど、すぐに彼はいつもの笑顔に戻る。

「ソラ君に俺の仕事の心配をされるとは思わなかったな」

「してませーん」

「俺は心配してたんだけどな。ホラ、少し前までソラ君、声調子悪そうだったから」

 ぎくり、と思わず身を震わせてしまった。

「最近ソラ君が歌っているトコ見ないけど、やっぱり何かあった?」

 何でこんなに勘がいいんだ、この人!!

「別に、何も無い!」

 声を荒立てたのを肯定と考えたのか、彼は少し考える風に首を傾げる。

「そう?でも何か声のトーンがいつもよりちょこっと低めだよね。もしかしてさぁ」

 渡貫さんが少し嫌な感じに笑った。

「君、ソラ君じゃなかったりして?」



















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ウワヽ(;´Д`)ノ