そういえば、空と夕日サンは仲が悪いと聞いていた、のに。
俺は小2時間程テレビ局内にある喫茶店で夕日サンとお茶をしていた。
……いいのかな。
夕日サン話すと面白い人で、気がつけば談笑していた。
空に心の中で謝りつつ、向かいに座ってコーヒーを飲む夕日サンを見た。
ああ、やっぱ格好いいよなぁ……。
小さい頃から、俺は兄貴が欲しかった。
兄弟が居る、といってもたった3分しか歳が離れていない空。しかも弟。
年の離れた兄弟を持つ友人が心底羨ましかったんだ。
ヤバイ、俺、夕日サンに懐きそう。
「ソラ、何か食べるか?」
甘いの好きだろ、とメニュー表を渡され、俺は素直に受け取った。
「おごる。好きなモン頼め」
夕日サンはにかりと笑い、俺の頭を撫でてきた。
おにーちゃん!!
そう呼びたくとも一応ソラ、ということになっているので出来るわけが無い。
「あ、ありがとう」
少しはにかみながら笑顔を返すと夕日サンの動きが止まる。
「……ソラ、お前本当になんだか今日は可愛いな。何か、変なもん食った?」
真剣に聞いてくる夕日サンに謝りたくなる。弟がいつもお世話になっています、と。
この期間が終わったらファンレターでも書こうかな……。
「まぁいいか。今日のお前は可愛いから、おにーちゃんが何でも好きなものをおごってやろう!」
「おにーちゃん……」
俺は空が羨ましくなった。
こんな人達に囲まれているなんて、いいなぁって。
まぁ、俺だって沢山友達は居るさ!
でも、なんか、いいなぁ……夕日サン。
どうして、空は夕日サンを嫌っているんだろう。
「ゆーひ……」
「ん?何だよ、ソラ」
「八雲、は」
もう、あの部屋から出て二時間になる。
気にならないって方がおかしいと思う。
「ソラは知らなかったんだよな」
夕日サンは声のトーンを低くして、ため息をついた。
「八雲は、石田マネが初めてのマネージャーで、恋人だった。でも石田マネはこの間矢橋と結婚したんだよ」
石田さんは、マネージャーにしては結構格好いい顔だったから、女の人もほっとかないんだろう。
「夕日は知っていたんだ?」
「ま、一応お前らのリーダーだからな。メンバーの状況を把握しておくのも仕事のうちだ」
格好イイ事をさらりと言う人だな……。
「凄いな」
俺がポツリと呟いた言葉に夕日サンは苦笑した。
その苦笑の意味を知るのは先の事になる。
「あれ〜〜、ソラくんじゃん」
明るい男の人の声に振り返ると、これまたテレビで見たことある顔が。
えーと、確か
「渡貫!」
考える前に夕日サンが彼の名前を呼んだ。
渡貫和仁、人気が高い俳優さんだ。確か前シーズンのドラマで空と共演していた人。
人気があるだけあって、格好いいと思う。夕日サンとは別なタイプの格好良さだ。
茶色の髪に甘いマスクは女の人を魅了する武器だろう。
夕日サンのほうは黒髪で硬派っぽい顔だけど。
二人の共通点は背が高いって事くらいか。
「あ、夕日君もいたの」
おまけのように夕日サンを付け足して、渡貫さんは俺の肩に手を置いた。
「最近会えないからさ、元気してた?」
「はぁ……まぁ」
なんつーか、馴れ馴れしいってか……。
甘い香水の臭いが好きになれない。
「ソラ、行くぞ」
夕日サンが伝票片手に立ち上がり、俺も追おうとした。でも
「ソラ君はもうちょっといいだろ?俺とお茶しよ」
渡貫さんが俺の肩に体重を乗せて、俺は立ち上がることが出来ない。
なんで、こんな強引な人かな……。
「いえ。俺は仕事があるんで夕日と行きます」
その手を叩き落としてきっぱり断ると、渡貫さんは少し驚いたような顔になる。
やべ、またソラっぽくない行動、した?
内心慌てつつも渡貫さんを睨んだ。すると
「へぇ……そんな丁寧に断わられるとは思わなかったな」
はい?
彼はにやりと笑って一枚のメモ用紙を胸ポケットから取り出した。
「コレ、俺のケータイ。勿論直通のね、君の方にも入れておいてよ」
君の方……って?
何となくそれを受け取ると、彼は満足そうに笑んだ。
「じゃあね、ソラ君」
夕日君も、と相変わらず付け足しのように夕日サンを呼んで、彼は去って行った。
「アイツには近寄るな」
呆然としている俺の手から、夕日サンはメモ用紙を取り上げる。
「近寄るなって……何で?」
俺の素朴な疑問に彼は額を押さえた。
「夕日?」
「やっぱり……」
疲れたようなため息をついて夕日サンは俺の肩を叩く。
「お前、鈍いからなぁ……何かあったら俺に言えよ」
やれやれ、と行った感じで夕日サンは会計を済ませた。
……ソラって、鈍感だったんだ。
双子の弟の新発見だった。
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