両親が死んだ。
交通事故であっさりだった。
考えてみればそこからが不幸の始まり。
頼りになる親戚なんて聞いた事も無く、もう高校生だからどうにかなるか、と思っていた。
そんな時、外国へ行っていたという彼と出会う。
母の弟で、要と年の差は9才。かなりの美形と美声に一瞬見惚れていた。
引き取ってやると言われた時には嬉しかった。心細さと寂しさでどうにかなりそうだった時だから。
けれど、開けて吃驚。
自己中心的俺様性格に女好き。美形の女好きというのは始末が悪い。
こんな大人にはならないぞと思わせる大人NO.1だ。
けれど無駄に頭は良いらしく、仕事はホストかと思いきや国際関係らしい。
英語は勿論、フランス語ドイツ語イタリア語スペイン語ロシア語等々の語学を使いこなし、最近まではフランスに住んでいた。あれはきっと各国に恋人が居るタイプだ。
女関係にいい加減な叔父と仕方なく暮らす高校3年生。誰かに同情してもらわないとやっていけない。
「大変だね、今日も?」
友人の瑞希に暖かい笑顔を向けられ泣くかと思った。
「瑞希・・・・・・俺は悟ったぞ。男は顔じゃない!中身だ!」
「お前が言うか」
もう一人の友人、水瀬利哉が余計な横槍を入れてくれる。
要の両親は美男美女のカップルと言われていた。と、いうことは要もそれなりの顔立ちを持っている。
本人に自覚は無いようだけれど。
「何であんなに女連れ込んでくるんだろう・・・・・・」
「男連れ込まれるよりマシなんじゃないか?」
利哉の慰めにもならない言葉に机に突っ伏すしかない。
男なんて連れ込まれた日には、家出してやる。
利哉はため息をつく要を眺め、何かを思案する様子を見せた。
「要」
「何だよ、利哉」
「心配、させてみれば?」
「はぁ?」
突拍子も無い提案に要は顔を上げた。
「だから、心配させてみて、叔父さんがお前の事どう思っているか、試してみれば?」
「試すって・・・・・・いいよ別に」
ろくな結果が出ない事は予想できる。
それに、第一どうやって。
あの叔父が自分を心配するような行動なんて、要には思いつかなかった。
「あ、いいなぁ!それ!家出とかどうよ」
何故か瑞希までも同意した。
「僕、一人暮らしだからいつでも遊びに来て良いよ。」
それは初耳だ。
「瑞希って一人暮らしだったのか?」
利哉の問いに彼は頷く。
「うん、東京の大学に行きたくて。高校もこっちがいいだろうって」
「そりゃあ好都合だ。なぁ、要」
ぽんっと肩を叩かれ、気が重くなる。
何だかこの友人に遊ばれている気がしてならないのだけれど。
「気が向いたときよろしく頼む」
「やるとしたら期間は無期限だな。あの叔父さんが心配して俺か瑞希に電話をしてきたら終わり」
絶対しなさそう、と思ったけれどあえて口にはしなかった。
何せ、女を自宅にお持ち帰りする男だ。自分が家を空けても「お前も男だからな」の一言で終わらせられる気がする。
盛り上がる友人二人を見て要は密かにため息を吐いた。
「あ、要君お帰り」
「彗日さん?」
帰ってみれば、叔父の友人である朝倉彗日がリビングで書類らしきものをひらいていた。
その向かいには見慣れた叔父の姿が。
「今日は二人で缶詰だよ。ちょっとしたミスが見つかってね」
苦笑する彗日の向かいでは黙々と書類を読む日月。こうしてみれば格好良いのだけれど。
「要君は学校どう?楽しい?」
「あ、はい」
彗日は結構というかかなり良い人だ。顔も結構いい方なのだろうけど、日月が隣に居る所為か女の人は日月の方に目が行ってしまうのだろう。だから未だ彼女もいないらしい。
「来年受験だよね?どこに行くか決めてるの?」
「あー、はい、一応は・・・・・・」
叔父が聞こうともしないことを聞いてくる辺り良い人だ。
「父さんが行ってたトコにしようかなって」
父親はそれなりに優秀な弁護士だった。その姿を見て将来自分もその意思を継ごうと決意したのは幼い頃。彼の死によってそれは堅固なものになった。
「入れるのか?一流大なのに」
日月が余計な茶々を入れてきたのを鋭く睨みつけてやる。
「ご心配なく。今の成績なら推薦でも余裕ですから」
「へぇー、凄いじゃん、要くん。俺より頭良さそう〜」
彗日が自虐的なことを言いながらけらけら笑う。驚いて欲しいのは彼ではなくて叔父の方だったのだけれど。
肝心の彼は「へぇ」の一言。何とも反応が薄い。
確かに、彼にとっては自分の学力など大したことはないのはわかる。
某一流企業の重役らしいことを彗日から聞いたことがある。
彼が自分に何の興味も持っていないのは知っているが・・・・・・。
はぁ、とため息をついて要は自室に引っ込んだ。
それを見届けた彗日が書類を口元に持って行き、なにやら身を乗り出してくる。
仕事中だというのに、鬱陶しい。
「なぁなぁ、日月。要くん頭いいんだね・・・・・・ちょっとやばくない?」
「何が?」
「だってこのままじゃ大伯父さんの思う壺じゃん。どーすんの?」
心配気というわけでなく、むしろわくわくした眼で彼は日月を見つめた。
「・・・・・・別にどうもしないさ」
書類をテーブルの上に投げ出し、眼鏡を取る。
大量にある紙の下には『調査結果』と書かれたものがあった。