色とりどりのネオンが輝く夜の街。
様々な服装で身をかためている人間達。
煌びやかなネオンや服装に隠された闇のセカイ。
恐喝・薬・売春・喧嘩
それらを象徴するような黒いコート、黒いズボン、黒いニット帽、そして黒いマフラー。
そんな服装の少年が人混みの中を歩いていた。
周りの酒やかすかな血の臭気にも無表情で。
コートのポケットに両手とも突っ込んで自分の歩調で歩いていた。
黒い重めのブーツが歩くたびに重々しい音をたてる。
目線だけをあげると正面にベージュ色のコートを着た男が隣にいる男と談笑しながらこちらに
向かって歩いてくることに気が付いた。
けれど少年は歩調を緩めなかった。
ベージュのコートを着た男はやせ形で40代位。相手との話がそれほど面白いのかこちらには
気が付いていない。
少年は巻いていたマフラーに顔を半分埋めた。安物の所為か少し肌触りが悪い。
後数歩ほどでお互いの横を擦れ違うこととなるが、相手はこちらをまったく気にしていない。
ブーツが重く鳴った。
通り過ぎる寸前、ポケットから少し出た少年の手が銀色に輝いた。
ベージュのコートの男は通り過ぎ、談笑を続ける。
少年も無表情で通り過ぎた。
しかし、ベージュのコートの男は6歩目を踏むと同時突然崩れるようにその場に倒れた。
談笑していた男は慌てて彼の体を支え、その時ようやく彼の異変に気が付く。
彼の左手首が千切れかけていた。ロレックスのステンレス製腕時計を腕側に残して、皮一枚で
ぶらりと手がつながっていた。
綺麗な切り口からは消火用ホースのごとく惜しげもなく紅い液体を吐き出している。
時折見える白いモノは骨か、それとも脂肪か。
紅い液体は周りに池を作り始めている。
陽気な街の火を消すには充分すぎた。
女の恐怖の悲鳴が聞こえても少年は立ち止まることなく歩いた。
ただ、すぐに左手に持ちポケットの中で弄っていたバタフライナイフを、利き手側のポケットに滑り込ませる。
そして、変わらない歩調で群がる人とは反対の方向の闇へと同化した。