「・・・・・・どうしたんだよ、篠田その花束」
日曜の朝、やることも特に無く自販機にでも行こうかと翔が部屋から出たとき、丁度正紀が花束を抱えてどこかへ行く途中だった。
彼も見られたくないところを見られてしまったというような表情で硬直する。
「あ、いや・・・・・これは」
「母の日だからな、今日は」
何て誤魔化そうかと考えていた正紀の代わりに答えたのは彼の後ろにいたいずる。あっさりと答えを出した彼に正紀は「ちょ、おまっ!」と慌てていた。どうやら思春期の男が母親に花を送るという行為が相当恥ずかしかったらしい。照れる姿が歳相応だ。
「別にマザコンとかそんなんじゃねーぞ!アイツ等こういう行事の時に何かやんねーと怒るんだよ!」
正紀の家族構成は母と姉だと聞いている。かなり女性陣に弄られて育ったらしく、正紀の眼は少し怯えが混じっていた。
だから、赤と白のカーネーションの花束なのか。それにしても、カーネーションの値段がつり上がるこの時期に、こんな大きな花束を買うなんて意外と正紀は小金持ちだ。
「あ、これ俺と割勘なんだよ。俺も夏帆さんには世話になってるから」
そう説明するいずるは名家の御曹司なので大金持ちだ。
「夏帆さん、元詐欺師だから花の品種も一目で解かるから選ぶのに苦労したよ。多分これならそれなりに豪勢に見える」
くすくすと彼は笑いながら花弁を弄る。弄られている花は彼の話しぶりからすると値の張るものらしいが、あまりその方面に詳しくない翔には解からない。解かるのは、とても綺麗な事だけ。
「いつも悪いな、いずる・・・・・・あの母親、プレゼント渡すたびに値段当ててくるからカンベンして欲しいよ」
あまりにも安っぽいものを渡すとこんなんじゃ女は落とせないわよとか駄目出しをくらうし。
苦労のため息を吐く正紀の言葉にいずるは笑うが翔には疑問が一つ。
「え、元詐欺・・・・・・し?」
「ウチの母親、昔結婚詐欺で食ってたんだよ。ウチの親父に逮捕されてからはしてないけど」
「夏帆さんすごい美人なんだ。もう40行くのに20代後半って言ってもおかしくない」
「若作りしてんだよ」
さり気無く面白い家庭環境で育った正紀の容姿が整っているのはその母親の血なのだろうか。そして「親父に逮捕されてから」というのはどう解釈するのが正しいのか。
「じゃ、俺はこれクール宅急便で送るから」
じゃあなと去っていく二人に、翔はただ茫然と手を振るしかなかった。
母の日。
そういえば、自分はそんな行事を意識した事が無い。
何やら楽しげに話ながら歩いていく二人の背中が翔には羨ましく映った。
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母の日です。一週間遅れです。今に始まったことじゃありません。