「木戸君たち、何か仲良さげだったねぇ」
中村が蛇を抱えながら二人が出て行った方向を見ながらぽつりと呟いた。甲斐甲斐しく蛇を温めようと撫でるその手付きが何だか少し嫌だけれど、克己は見なかったことにする。
「小中学校一緒だったんだって?」
「・・・・・・らしいな」
中村の問いかけに仕方なく答えると、自分の腕に引っ付いていた本上が眼を輝かせた。
「え、何!?あの二人そういう関係だったの!?」
「どういう関係だ」
あらぬ事を考えていそうな本上の言葉にすかさず突っ込みを入れ、克己はため息を吐く。ただ小中学校一緒だということだけで、変な想像をするのはあの二人に失礼だ。
「でも、木戸君、日向君が初恋の相手だって言ってた」
その時、隅で体育座りをしていた中村が静かな声で物凄い発言をした。
「ほら、男女混合出席番号だから日向君女の子だと思ってたんだって、しばらく。何か、小4のお泊り校外学習キャンプの部屋割りで男だって気付いたらしいよ」
間抜けすぎる。
とは思うが、自分でもそんな状況だったら多分間違えているだろうな、と考えると笑えない。
「おい、おしゃべりは終わりにしろよ」
少し不機嫌な声で登場したのは、話の的になっていた木戸本人だった。機嫌が悪いのは話を聞いてしまったからか、それとも自分は雪の中で活動しているというのに、自分のペアがのんびり談笑していることか。
多分双方だろうが、本上はふいとそっぽ向いて手伝う気がないことを示す。けれど、木戸はため息をついて自分のポケットから携帯を取り出した。
「本上、指令。お前も作るの手伝えってさ」
「えぇー!?何その指令!信じらんない!」
流石に教官命令だと本上も逆らえないのかしぶしぶと腰を上げた。それを笑って中村は見ていたが
「おい、言っとくけどな、ペアじゃないお前の家は作ってやんねぇぞ」
木戸のその冷たい一言に二人は笑顔を凍りつかせる。本気で作ってもらえると思っていたのならただの馬鹿だが、本当にただの馬鹿だったらしい。
「だって、俺和泉君怖い・・・・・・」
木戸たちにくっ付いてここまで来たのはそういう理由もあったからだろう。そんな彼には同情するが。
「日向、お前はもう休んでろ」
木戸は翔を中へと押しやっていたが、その様子が少しおかしいのにはすぐ克己も気付いた。
「どうした?」
「何か、咳し始めたから」
木戸が答えてすぐ、翔が二三回くしゃみをする。
「や、これくらい大丈夫だって」
収まってから翔は笑顔を見せたけれど木戸はそれに納得せず、首を横に振った。
「今日初日なんだから、休んどけ。これからどんな指令が来るか解かったもんじゃないし」
な?と言い聞かせられて翔も軽く頷いた。
「うん・・・ごめんな、木戸」
「いいって。今日は早く寝ろよ」
木戸は優しい声をかけて外に出て行った。その妙に親しげな態度に中村は忍び笑い、本上は意味ありげな高い悲鳴を上げて彼の後について行く。
その奇妙な周りの態度に翔はくるりと克己を振り返り、何があった?と眼で聞いたけれど克己は無言だった。
「おい、おい、おい、お前!」
本上は笑いを噛み締めながら前をさくさく歩く木戸の背に声をかけたが、彼は気付いていないのか振り返ろうともしない。
段々本上の笑いも薄れていき、しまいには怒声が当たりに響いた。
「おい、お前!この僕が呼びかけてやっているっていうのに無視なんていい度胸じゃないか!」
ぐい、と彼のコートの裾を掴んで引っ張ってやるとようやく気が付いたらしく、「ん?」と彼は少し気だるい動作で振り返る。
「あぁ・・・・・・何か騒がしいと思ったら、俺呼ばれてたのか」
「な・・・・・・何だその態度は!お前、北のクセに生意気だぞ!」
すっかり用件も忘れて激高する本上に木戸は彼の言葉を聞き流して、ため息一つ。
「あのな、本上。良い機会だから言っておくけど、俺には木戸孝一っつー名前があるんだ」
「ふん、北の名前なんて覚えていられるか。お前なんて、お前で充分・・・・・・」
いつものように高慢な態度で出たけれど、木戸はそんな本上の姿を一瞥し、再び無視して歩き出す。
「あ、コラ!お前!」
まったく学習してくれない本上の声が後ろから聞こえてきて、木戸はもう一度ため息を吐いた。せめて、この相手が翔だったら。テストのペアが翔だったらどんなに気が楽だっただろう。
実は密かにあのテストの空欄に書いた名前は翔だった。その理由はただ単に昔馴染みで、まだ慣れていないクラスメイト達よりは気が楽かと思っただけなのだけれど、彼が自分よりあの甲賀克己を選んだことには少しショックだった。いつも教室で一緒にいる二人が共にいるということは、互いの名前を書いたと解釈していいだろう。中学時代はあの小さな天才佐木遠也とつるんでいたから、遠也を彼が選んでいたのであれば、こんなに愕然とすることはなかっただろうに。
何で、よりによって甲賀克己かなぁ。
「・・・・・・・木戸ッ!」
え。
今のは気の所為かと振り返れば、本上がむっとした顔でこちらを睨んでいる。その渋々といった表情から見るに、どうやら本当に彼はこちらの言い分を呑んだらしい。
「何?本上」
南の高慢なお坊ちゃんに勝利した。
その事で木戸は少し気分が上昇し、くるりと振り返り笑顔を返す。そんな自分を彼は強く睨みつけ、負けた訳じゃないと強気な態度だ。
「日向の事が好きなら、僕も協力してやるよ。だからこの試験中にモノにしてしまえ」
「は?」
何の話かと思ったら。
はぁ。
本日三度目のため息を吐き、木戸は再び彼に背を向けて歩き出す。
「好きなんだろ?日向が。僕は甲賀さんが好きだし、これで僕たちの利害が一致するじゃないか」
それでもしつこく話しかけてくる本上に、おいおい・・・と心の中で突っ込みを入れた。
試験にこんな付録がついてくるなんて聞いてない。
「あのなぁ、本上・・・・・・確かに、日向はお前よりずっと可愛いよ」
「僕の方が可愛い」
「そういうところが可愛くない・・・・・・ってのは置いておいて、でもだからって、恋愛感情なんてわく訳が無い。俺と日向は友達で」
「つべこべ言うな。南の僕の言う事が聞けないっての?北のクセに。男ならビシッと犯せ!無理矢理でも段々相手も従順になるのが昔ながらのお約束のパターンだよ!!」
「ああ、そんなのがお約束パターンだから女性が強姦されたがってるって勘違いする馬鹿がいるんだよなぁ。昔ッから青年漫画は酷かったけど最近の少女マンガ家にも勘違い・・・・・・っつーか夢見がち?が多いから困ったもんだって話なんだっけ?強姦とか近親相姦とかそんなのに夢持たれても、なぁ?現実見ろよって話。大体良い男は誰かを強姦しないといけない程溜まらないわけで」
「僕はそんな話をしたいわけじゃないよ、この馬鹿!!」
「いやでも、ここらへんは男としてきちんと理解しておくべき」
「うるっさい!いいから日向を落とせ!その現場を甲賀さんに見せればきっと日向に愛想尽かして僕に眼を向けてくれるんだ!!」
「いや、俺に殺意の眼を向けてくる気が・・・・・・」
自分で言っていてぞっとした。
ヤツなら本気で自分を殺しかねない。それに翔を襲おうものなら、彼からも侮蔑の眼を貰うことになる。
それは、少し辛いかもしれないな、と思いながら木戸は密かに白いため息を吐き出していた。
別に彼に恋愛的な感情を持ったことはない、なんて今言ったところで本上は信じてくれなさそうだ。
まったく、厄介な付録がついてきたものだ。
けれど何となく克己ではなく自分に懐いてくる翔の姿を想像すると、気分が上昇するのは気のせいだと思いたい。
「つーか、それなら本上が甲賀に夜這いかければいいだろ。そうすれば、日向も甲賀に幻滅して万事解決じゃないか」
適当にそう言ってやったけれど、まさか自分のその言葉を本上が本気にするとはこの時は思わなかった。
「浮かない顔してるな」
ぼーっとしていると、克己がそんな声をかけてきた。
「え、あ、ごめん・・・・・・何か、話してたっけ?」
慌てて笑顔を取り繕う翔に克己は呆れたように息を吐き、目の前で燃える火に燃料を足していた。
「和泉の事なら気にするな」
そして何を考えていたのかお見通しだったらしい。
「気に何か、してない・・・・・・多分」
気にしたくないけれど、彼が居ると聞いて緊張してしまった自分が居た。
何故か初対面なのに敵意を向けてくる彼がいると知って、誰が安心出来ると言うんだ。それに彼は何故か自分の過去を知っている。
「安心しろ、お前に危害は加えさせない」
「克己」
「こんな雪原で手を出してくるほど、ヤツも馬鹿じゃないだろうしな」
克己はふ、と笑って赤い炎の上に手をかざした。
会話が途切れるだけで風の音が耳に入ってくる。激しい吹雪であることは間違いない。
「・・・・・・雪山の怖い話とか、矢吹が居たら話してくれるんだろうな」
今はここに居ない仲間のことを思い出し、思わず笑っていた。
普段気付けば6人で行動しているから、克己と二人きりというのは久々なような気もする。
夜とかは常に二人きりだが、また少し環境が違うと話が違ってくるわけで。
「淋しいか」
「別にそういうわけじゃない。ああ、でもこれで克己が居なくなったら確かに淋しいかも」
「そうか」
「何か淡々としてるな。こういう時は、俺も淋しいって言うんだよ」
「俺も淋しい」
「棒読みですよ克己さん」
何でこんな漫才みたいな掛け合いしてるんだろう。
思わずくすくす笑ってしまうと、克己が何を思ったか炎にかざしていた手を伸ばしてきて頬に触れてくる。冷えていた箇所には熱すぎる体温に少し驚いたけれど。
「俺も、淋しいよ」
その情感の篭った言葉にはもっと驚かされた。
「ふ、は、え、何!?」
手を添えられた頬から熱が広がって行き、終いには心臓までその熱に暴走し始める。
そんな翔の顔が真っ赤になっていたのは多分炎の所為だけではないだろう。その様子を満足そうに眺めてから、克己は意地悪く笑う。
「で、いいのか?」
何とも素っ気無く手を引っ込められた途端、脱力するしかなかった。
「・・・・・・なぁ、もしかして俺からかわれた?」
いまだに赤みが残る顔を彼からどうにか隠そうと、抱えていた膝に顔を埋めながら原因を恨めしい眼で見たが
「さぁ?」
本人は至って楽しそうで。
「こういうのは、女の子相手にやってろ、ばか」
「残念ながら、今近くに女がいないからな」
いたらやっているのかよ。
真意の見えない友人に頭を抱えつつ、翔はため息を吐く。
「そろそろ寝るか。明日からどんな難題吹っかけられるかわかったもんじゃないからな」
克己の方は至って平静。いつか慌てさせてやると心に誓いながら頷いた。が
寝るといっても、まさか雪国に送られるとは思ってもみなかったので、毛布なんて持って来ていない。
防寒具と言えば、今着ているコートくらいなものだ。けれど、直接氷の上に寝てしまったら一晩で低体温症になりかねない。
「明日辺りに、本部に連絡してせめて毛布くらい寄こせと言ってみるか・・・・・・」
雪山だとまた話が違ってくるだろうから。
克己も同じことを考えたらしくため息混じりに呟いた。上手く交渉出来るかどうかは自分達の腕次第。
交渉の仕方なんて自分達は習わないことだけれど、覚えていて損はしないだろう。
「あ、じゃあ克己俺のコート敷いて寝ろよ。昼間頑張らせたしな」
はい、と脱いだコートを差し出すと少し寒かった。
「それは有り難いが、お前凍死する気か」
「一日くらいで死なないだろー」
「お前雪山の恐ろしさを知らないな・・・・・・火があるだけ今回は楽だが、ま、仕方ないか」
何を思ったか克己は自分のコートを肩に掛け、翔を手招きする。狭い部屋の中、火を避けてどうにか克己の近くに行くと膝に座らされる。
これはあれだ、いわゆる二人羽織状態か。
それか仲の良い親子図か。
「お前のコートは前に掛けとけ」
「・・・・・・確かに名案かも知れないけど、何か不恰好だな・・・・・・」
「気にするところか、そこは」
「いーえ。暖かいから俺は満足でっす」
「誰かと一緒にいる時は相手が良い暖房器具だからな」
「あ。何俺ってただの暖房器具なわけ?」
「そういう意味じゃないが」
「嘘嘘。解かってるって。んでも、暖房器具でも克己くんのお役に立てて幸せですってね」
さっきは思いっきり拒否されたから実は本やテレビで見た程くっ付いたところでそんなに暖かくないのかな、と思っていたが、考えていた以上に暖かかった。これなら朝起きたら凍死していましたなんて展開にはならなさそうだ。
何だか、普段一人で寝ているベッドより心地がいい気がするのは何故だ。
「眠い」
そう口にしながら思い出したのは、良く聞く雪山遭難の一夜の話。寝ると凍死するからと、お互いを起こし合う為に肩を叩くといういずるが好きそうなジャンル。
雪山の一夜というのは寝ないものだと思っていたけれど、何でこんなに安眠出来そうな予感がするんだろう。
「おやすみ」
「ん・・・・・・」
克己の声に誘われるがままに眼を閉じると、すんなり寝入ってしまった。
疲れていたのもあったのだろうけれど、本当に普通のベッドより気持ちがいい。
そんな安眠が妨げられたのは寝てから数時間経ったくらいだった。
微かな音に克己は眼を開けた。視界にある風景は寝入る前と全く変わらず、白い壁と床を紅い炎が照らしている。変わっているところと言えば、その燃料が減っていることくらい。
翔も自分が眠る前と同じ体勢で寝ていた。
全く変化が無い周りに、気のせいだったのかと思い始めてきたが、長年の経験で研ぎ澄まされていた感覚がそれを否定する。
何かが、来る。
何かが、いたのか。
ここの島かは解からないが、ここには自分達とあのクラスメイトしかいない無人の場所だと思い込んでいた。いや、無人でだけで、他の動物はいるかもしれないが。でもこれは動物ではない。
翔を起こさないように火を消したのだけれど、こんなに体が密着していては少しの動きも彼に伝わる。目蓋が震えたと思ったら、ゆっくりと翔が眼を開けた。
「克己?」
寝起きの声であまり音量が大きくなかったのが幸いだった。その口を押さえ、喋らないように指示をする。
それで何か緊急の事態が起きていると彼も察し、眼が完全に覚醒した。
真っ暗な中、克己はここに持ってきた唯一の武器であるナイフを手で探り、握る。視線は入り口にかけている布から外すことはなかった。
音が段々と鮮明になってくる。翔にも聞こえてきたらしく、彼の体が緊張するのがわかった。
空から降りてくるヘリのバラバラバラという音だ。しかも、近いところに着陸するつもりなのか音が大きい。
「克己、もしかして、別なペアが」
「だと良いけどな」
翔の言うことも一理あるのだが、油断は出来ない。
そうしているうちにヘリが降りたったらしく、複数の人の声が聞こえてくる。その声が何か妙だ。変声機か何かに通したような、例えるならあのテレビで見かけるプライバシー保護の音声のような声だ。
「克己」
「ああ、味方じゃないようだな」
けれど、言葉は自分達と同じ言語を使っているのか、内容が聞き取れる。
氷がどうの、神殿がどうの、といった内容で、訳がわからずただ克己と顔を見合すしかなかった。
『おい、人がいたぞ』
けれどその変声機の声に思わず翔は身を硬くしていた。後ろにいる克己も構えていた、が
「ちょ、何だよお前ら!」
外から聞こえてきた声に、驚くしかない。
「本上ッ!?」
「翔、静かに」
でも、どうして彼が。
克己がそっと布を上げて外の様子を伺うと、何人かの覆面まで被って戦闘服を着ている人間が、本上を取り囲んでいた。
『連れて行くしかないな』
変声機の声がそう言い、本上の抵抗する声が段々と遠ざかっていく。
「甲賀さぁぁぁぁん」
そんな、彼の助けを求めるような声だけが、しばらく残っていた。
「克己・・・・・・」
「何だ」
「どうすんの?」
助け求められちゃっていますが?
「・・・・・・どうしろと?」
克己は険しい顔でため息を吐き、ナイフをしまう。
が、すぐ何かを察知したようで再びそれを手の中に収め
「誰か来る」
と低い声で告げた。
まさかさっきのヤツらがこっちに感づいたのか。
ざっざっざと雪を踏みしめる音は確かにこちらに近付いてきていた。
「なぁ、本上知らね?何か起きたらいなくなって・・・・・・・ってうぉあ!」
顔を出したのは木戸で、彼は目の前に突きつけられたナイフの切っ先に驚いて両手を挙げていた。
敵ではない彼の登場に克己は何故か舌打ちをしながら刃物をしまう。
「木戸か」
「うっわー、ビビった。警戒心強すぎだって・・・・・・で、本上は?」
来てないか、という彼の質問に克己と翔は顔を見合わせてから、一部始終を話すことにした。
「連れ去られたぁ?本上が?」
ひとまず、ここに来ているクラスメイト全員に言っておいた方がいいと思い、集まった場所は一番広いと思われる、中村と和泉のペアがいる洞窟内。中村は心配そうな顔になったが、そのペアの和泉は我関せずの態度で寝転がっている。
「一体、誰に」
木戸の質問に克己は思考を巡らせて、あの時見たものを思い出す。
「・・・・・・SRSの戦闘服だった」
「はぁ!?」
木戸が驚き、興味が無いという態度だった和泉が思わず体を起こしてしまったのも無理は無い。
自国が敵認定している国の特殊部隊の名前を上げられれば、軍人であれば誰だって緊張する。しかもただの敵国ではなく、長年睨み合ってきている強国で、自国より経済に関しても軍事に関してもレベルは上だ。
「どういうことだ。ここはウチの国の領土だろ。何故奴らが来る」
流石の和泉も話しに入らないわけにはいかなくなったようで、克己を睨みながらも僅かに焦燥を見せる。
「知るか。とりあえず、テストは中止だ。本上の事もある。とりあえず、本部に連絡を」
「お前、僕に触るな・・・・・・っあ、や・・・・・ッはぁん!」
『そう言いつつ体のほうはやる気じゃないか』
フフ、と笑いをもらす覆面の男に、手を縛られている本上は抵抗することも出来ず、男の手の動きに翻弄されていた。
どうやら男達は本上を殺すつもりは今のところ無いようだが、何か彼らの気に障るようなことをしたらきっとすぐに殺されてしまうだろう。だから、恐怖に震える白い肢体を大人しく彼らに捧げるしか術が無かった。
ああ、助けて甲賀さん!!
微妙に敵に捕まり誰かに助けてもらうというシチュエーションに陶酔しつつ、本上は快感に声を上げていた。が
『うっわぁ・・・・・・どーすんの、あれ』
『余計なもの連れてきてしまった感が・・・・・・』
『でもだからと言って、見過ごすわけにはいかないだろ?』
『つか、喘ぎすぎだろ。どこのAVだ』
『辛いわー・・・・・・おい、ブラウン、本番やるなら別なとこでやれよ?俺ノーマルだからキッツイわ』
それを遠目で見ていた仲間達がひそひそと引き気味にしている会話は、人質になった本上に対して失礼な内容ばかり。しかも何だか変声機の声だと妙にムカつく。
『え。折角だし、みんなでマワしたりしないの?』
そして、ブラウンと呼ばれた男が本上を弄繰り回していたわけだけれど、彼が恐ろしい提案をしたのに、本上自身は更にそのシチュエーションに悶えそうになっていた。
「マワすってアレか!ああ、早く助けて甲賀さん!!じゃないと僕は大勢のむさくるしい男の慰みものにされ・・・・・・・」
『しねぇよ』
『死んでも嫌だ』
『遠慮する』
『絶対ヤダ』
『・・・・・・俺吐きそう・・・・・・』
「何なんだよその評価はーッ!!」
思わず本上は軍靴で地団駄踏んでいた。座っていたからあまり怒りが伝わらなかったようだが。
「甲賀さんだったら喜んで挿れてくれるのに!!いいさ、僕の可愛さを解かってくれるのは甲賀さんだけで」
『そんな事はどうでもいい。さっさと“氷の女王”を手に入れてズラかるぞ。神殿はこの先にあるはずだ』
一人の男が本上の言葉をあっさり聞き流して何やら古びた地図を取り出し、ルートを確認している。
ここは洞窟の中だ。おかげで今朝になったのかさえ解からない。克己に夜這いをかけようと吹雪がやんだのを見計らって外に出てきたら変な奴等に捕まってしまった。
『手順の確認だ。レッドとブルーは神殿に着いたら爆破用の爆弾設置。グリーンとイエロー、後シルバーは“氷の女王”を探せ。俺は見張りに付く。ブラウンはそいつを見張っていろ』
てきぱきと指示をする彼がこのチームのリーダーだろうか。
『あーあー、悪い悪い、遅くなった』
そこへ更に二人の男が顔を出し、へこへこと彼に頭を下げる。
『誰だ、お前達は』
『ボスから連絡が行っていないか?俺はネイビー、コイツはスカイ。助っ人だ』
そんなやり取りを見て本上は天を仰ぐ。きっと克己が助けに来てくれる。そして二人は幸せに、というのが典型的なオチだ。
他の男にヤられているというのも、なかなかに自分の不幸度を上げる良いシチュエーションじゃないか。そして最後はゴールイン。
本上の頭の中では教会の鐘が鳴り響き、白い鳩が飛ぶ空の下で克己と共に赤い絨毯の上を歩いていた。
「えふぇふぇふぇふぇふぇふぇ」
『うわ、怖ッ!びっくりしたー』
突然奇怪な声で笑い始めた本上に、隣を通り過ぎようとした一人の男がびくりと肩を揺らす。
仲間のその怯えように、変なのを人質にしてしまったとリーダーは密かにこの誤算に頭痛を感じた。
ほぼ同時期、本部に電話をかけようとした克己がふいに手を止めて二の腕をさする。
「克己?どうしたんだ」
親友のその行動に翔が首を傾げると、彼は周りを見回しながら
「いや、急に何だか寒気が」
「風邪ひいたんじゃね?大丈夫か?」
ごちっ。
克己が座っていたから、難なく彼の額に自分の額を合わせることが出来た。
手袋を外して手をかざすよりこっちの方が早かったから、という理由もある。
「んー、克己の方が冷たい・・・・・・」
「お前の方が熱い。小動物みたいだな」
「悪かったな」
本上がいなくて良かった。
その光景をうっかり見てしまった他3人はそれぞれ手持ちの携帯で本部に電話をかけながら、今ここに本上不在であることに安堵していた。
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本編よりはBL度高め。