質問1
 (1)無人島に行く事になったら、貴方は誰と一緒に行きたいですか?(一名の名を挙げよ)
 (2)その理由を述べなさい。
質問2
 無人島に行く事になったら、貴方は何を持っていきますか?(3種まで述べよ)



中間テストの期間がやってきた。期間は1週間。
しかし、何の教科をどんなテストをするかは当日まで教えられていない。
初日である今日は筆記という事を前日に言われていたので、とりあえず色んな教科の教科書をざっと見て、テストに望んだ。
配布されたプリントには意外にも敬語での問いがたった3問。
一体どんな点数配分なんだ、と適当に100点を3問に配分してみる。多分設問が50点50点で、さらに(1)は20点で(2)が30点かな、と目星をつけて翔はシャーペンを握った。
質問1、誰と、と言われると友人二人の顔が浮かぶ。一人はとても頼りがいのある友人で、アウトドアもインドアもやりこなす。一緒に無人島に行ったら絶対頼りになるだろう。もう一人の友人は、アウトドアは苦手かも知れないが、様々な知識を持つ。特に医学的知識に富んでいるので、一番警戒すべき怪我にも怯むことなく対応出来るだろう。
少し考えてから、前者の名前を書いた。
その理由は、簡潔にやはり頼りになるから。彼とならどこでも大丈夫な気がする。
質問2、何を持っていくか、という問いに昨日さらっと読んだサバイバル系の本の文章を思い出す。まず、ナイフ、火種、それと当面の食料。
ここら辺が打倒だろう、と少ない質問に答え終えてシャーペンの芯を閉まっていると、試験監督の教官が時計を確認してから立ち上がり「回収」とだけ言った。
問題数が少ないだけあり、テスト時間はたったの20分。それでも多すぎるくらいだ。
教官はさっさと集めてさっさと教室から出て行った。
途端、教室の雰囲気は柔らかくなり、友人と話を始める者、次のテストに備えて教科書を読む者、とそれぞれの時間を過ごしていた。
この調子ならこの先のテストも大丈夫かな、と思い隣の席にいる克己の方を振り返った。
「おー、どうよ、克己。調子は」
当然、彼なら簡単に解けたはずの問題だ。けれど何故か彼は難しい表情。まさか、あの問題が解けなかったというのだろうか。
「克己?大丈夫か?」
「あぁ・・・・・・いや」
克己は何だか腑に落ちないという様子で黒板を睨み続けている。
「おかしいと、思わないか?」
「おかしい・・・・・・って、何が?」
「あの問題だ。簡単すぎる」
翔は簡単でよかった、と安堵していたのに克己の方は簡単すぎて逆に怪しんでいた。
そう言われれば、そうかもしれないけれど。
「考えすぎだって」
翔がそう言って笑った時、再び試験監督が教室に入ってくる。
その手には、次の問題用紙は無い。
彼は教卓に立ち、自分の眼鏡を上げてから口を開いた。






じゃあ、行って来て下さい。←題名








信じられない。

悪い夢だ。

あんな、どこにでもあるような質問をされたら、しかもちょっとテストっぽく書かれたら、テストの問題だと思うじゃないか。
どうやらあれはただのアンケートだったらしく、ペア組をお互いがお互いの名前を書いたらそのペアで決まりというどこのカップル企画だと言いたくなる様な作り方をして、更に無人島には書いた3つの物しか持っていっていけないという過酷な条件だった。
そして、行く先の無人島はランダムで決められ、テスト期間中そこで過ごさなくてはならない。つまりは一週間無人島生活を強いられる。
そして、見事克己とは両想いでペアを組める事になったので、軍用ヘリに乗せられて降りたところは
「・・・・・・なぁ、克己・・・無人島ってさ、普通こう、南国系だよな」
「・・・・・・寒い無人島もあるだろう」
吹雪で前が見えない無人島だった。
さっきまでもうすぐ夏休みという気候だったところから、突然真冬の島に下り立つことに。一応最低装備として軍の冬コートと帽子、手袋とマフラーは貰えたが、他の持ち物は当然あのアンケートに書いたもののみ。
それと指令を受け取る特殊な携帯電話をペアに一つ。
ただ無人島で一週間過ごすわけではなく、教官から送られてきた課題をやりこなして、その結果と経過で点数が決まる。リタイアする時に、紅いボタンを押せと言われた。因みにリタイアした場合、後日補習だとか。
無情に吹き付ける風が寒い。
一週間という期間はもしやギリギリ死なない期間なのではないだろうか。
バラバラバラという帰宅する頭上のヘリの音がうらめしい。
「これは持久戦だな・・・・・・」
はぁ、とため息を吐く克己の息は白く、流石の彼も寒そうに腕を擦っていた。
「とりあえず、イグルー造るぞ」
膝まである雪の上をざくざく歩きながら克己は適当な場所を探す。
「え?イグルーって何だ?」
彼の言っている意味が解からず、克己が歩いていくのを見失わないように慌てて追う。こんな雪の中を歩くのは翔も初めてだ。おかげで雪に足をとられて上手く歩けない。
転びそうになる翔に手を貸しながら、克己は彼の質問の答えを探す。
「・・・・・・かまくら、みたいなものだ」
「かまくら?」
最も適切な単語を選んだつもりだったのに、それも翔には通じない。
「・・・・・・お前、かまくら知らないのか?」
「うん、よく解かんねぇ」
「雪で何して遊んでた?」
「俺んとこ、雪ってチラチラ降るくらいで、積もったりとか無かったんだよな」
そういえば温暖化で国の南の方は雪が殆ど降らなくなったと何かで聴いたことがある。
翔の出身地はまさしく南の方で、対して克己の出身は北の方。雪国と昔はよく言われていた地域だ。今でもそれなりに雪は降る。
つまりは、翔は雪に対する知識は殆どない、ということに。
「でも、こんなに雪って積もるもんなんだなぁ、俺ちょっと感動」
積もりすぎだ。
吹雪も初体験だろう翔は鼻の頭を紅くしながら笑う。雪の恐怖を知る身としては冷静に突っ込みを入れて、感動なんてしている暇もないのだけれど。
「明日晴れたら雪達磨でも造るか?」
「ゆきだるま!?そうだよな、この量だったら作りたい放題だな!すっげぇ、俺絵本でしか見たことないんだよ、ゆきだるま!」
よっぽど大雪が嬉しいのか吹雪でも翔は元気だ。まるで童謡に出て来る犬のよう。少なくとも、高校生らしい姿とは言えないが、微笑ましい。
普通の戦場のように敵兵がいるわけでもなし、課題の内容にもよるが、一週間ここで過ごせばいいだけなのだ、意外と楽なテストだったかもしれない。
その時、状況に合わせたようにあの有名な童謡のメロディが鳴り出した。携帯だ。
ゆーきや・・・・・・とご丁寧に歌付きで、翔はそれをポケットから取り出して軽快な音楽を止める。
メールで送られてきた初めての指令は、一体何だろう。
「翔」
克己も内容が気になるのか急かす様に呼んでくるが
「わん」
「は?」
翔は携帯を見つめたまま突然、抑揚もなくそう言った。
意味が解からないという克己の目の前に、携帯を突きつける。
「わん、って鳴けって来た」
「・・・・・・アイツ等何考えているんだ?」
とりあえず、自分達をきちんと監視しているらしいことだけは確認出来たけれど。
翔は少し屈辱を感じたらしく、携帯をひたすら睨みつけていた。
「翔、とりあえずイグルー造るから、手伝え」
「あ、うん」
居住場所を確保すれば、後必要なのは食料なのだけれど、こんな吹雪の地で植物は望めない。
となると肉類になるのだが・・・・・・。
「そういや、克己は3種類の持ち物って何持ってきたんだ?」
持ってきたサバイバルナイフで固い雪でレンガ作成しながら聞くと、克己は思案を止めてまず自分の手の中にあるナイフを見せる。
「後は熱源、食料二日分、それと酒」
「・・・・・・酒?」
3種類ではなくて4種類になっている気が。
「酒くらい黙認してくれるだろうからな」
「って、ちょっと待てー!!お前未成年だろ、何で酒!」
「いいもの持ってきたと思わないか?暖まる」
「だからって、教官に見つかったらどう」
「黙認してくれるから大丈夫だ」
「だからそういう問題じゃ」
「それにアルコールは体を温める以外にも傷を消毒したり熱源が無くなった時の代わりになるんだぞ」
「あ、なるー・・・・・・って俺、それで納得していいのかな」
何だかもう寒すぎてどうでも良くなってきた。
顔の皮膚の感覚が無くなってきた気がして、帽子を引っ張ってみたけれど無駄な足掻きで。
「翔、寒いか?」
「うーん・・・・・・まぁ、少し?」
手袋も濡れてきて、手の感覚が無くなっていく。
そういえば、こんなに寒い思いをしたのは初めてだ。自分が暮らしていたところは温暖なところだったし、雪も降らない。
「コレ、着けてろ」
身を縮めて寒さに耐えている翔を見かねて自分のマフラーを外して首にかけてやる。
突然冷気に晒されていた肌が保護されたので何事かと思ったが
「ちょ、いいって!克己だって寒いだろ!」
「お前よりは慣れてる。いいから気にしないで手を動かせ」
「でも」
「俺の身を案じてくれるなら早めに作り終えるように努力してくれ」
襟を立てて吹雪をしのぐ克己はきっと何を言っても翔の意見を飲む事はないだろう。
「うん・・・・・・解かった」
ありがとう。
小さな声で吹雪にかき消されたのではないかと思ったけれど、克己の口角が上がったのを見て彼に届いたことを知る。
ちくしょう、お前カッコイイなぁ。
自分が女だったら絶対放っとかないのに、とか、何で自分は同じ男なのに彼くらい格好良く振舞えないかなぁ、とか色々と考えながら黙々と手を動かしていたら、思っていたより早く完成した。
レンガの形に削った氷をらせん状に組み立てていくとイグルーの完成だ。出来た喜びを口にすることなく、早々に狭い入り口から中に入ると、風がないからか外よりずっと居心地が良かった。
暗い内部に明かりを灯してみると、翔ならどうにか立ち上がれるくらいの高さに、人3人くらいなら眠れそうな広さだ。
何とか暮らしていけそうな空間で、火をつけたからか心なしか暖かくなってきた。
「あ、克己これ有難う」
慌てて先程渡されたマフラーを返そうと、彼の首にそれを巻きつけたが偶然顔に手が触れて、その氷のような冷たさに驚愕した。
「おっ前、凄い冷えてるじゃねぇか!」
「お前の手は暖かいな・・・・・・」
「のんびり言うな!凍傷とか低体温症とかなったらどうすんだよ!」
「イグルーも造ったから、何とかなるんじゃないか?」
そんな軽い態度の克己に、今度は自分のマフラーを貸そうと思ったが、それは目線で拒否された。
じゃあどうすれば。
まだ夏だったから雪山の対策の授業は無い。と、なると今まで生きてきた中で学んだ事を生かすしかないのだが。
「そうだ!」
雪山の山小屋で4人でぐるぐる回って眠らないようにしていたとかそんな都市伝説を思い出したときに、一緒に記憶の引き出しから引っ張り出された事象に翔は声を上げた。
そして、何を思ったのかコートをばさりと脱ぎ捨てる。
「おい、翔・・・・・・何やってるんだ?」
下に着ていた実習着と言われている戦闘服も脱いだ翔は克己の問いに胸を張って答えた。
「雪山遭難っつったらアレだろ、裸で温めあうってヤツ!くっついて寝れば結構暖かいだろ」
「・・・・・・は?」
「あ。そりゃー可愛い女の子と裸で温めあうっつーイベントの方が良いだろうけど、緊急事態だ、この際贅沢言うな、脱げ」
茫然としている克己のマフラーをぐい、と引っ張ってやってもなかなか彼は何を言われたのか理解出来ないらしく、まったく行動を起こさない。多分、男同士がくっ付いて一週間過ごすということを受け入れがたいのだろう。その気持ちは解かるが、そこら辺は割り切って欲しい。お互い緊急事態なのだから。
仕方ないな。
「早く脱げよ、俺寒い」
ぺいぺいっといまだに硬直している克己の手袋とマフラーを外すとようやく彼も我に帰ってくれた。
「ちょっと待て、本気でちょっと待て。佐木に殺される」
「何でそこに遠也が出て来るんだよ?いいから脱げ。・・・・・・それとも、俺なんか間違ってる?」
「いや、間違ってはいないけどな・・・・・・」
「お前が冷えたのは俺の所為でもあるんだ、これくらいはやらせろ!」
「気持ちだけで充分だから、気にするな」
「それじゃあ俺の気がすまない!別に本気で裸でくっ付くつもりはねぇよ、上だけ脱げ」
男同士別に何も照れることなど無いはずだ。
克己が止めるのにも構わずに彼のコートのボタンを外し、中の戦闘服のジッパーに手をかける。けれどその手を彼の冷たい手がやんわりと制止する。
「止めろ。イグルーも出来たし、風も雪も防げる。これ以上冷える事はない」
「でも、暖かいにこしたことは無いだろ?何照れてるんだよ?」
「別に照れてるとかそういうんじゃ」
「さては、お前体に好きな子の名前が彫ってあるとかそういうお約束だな!」
「そんなお約束聞いたことないぞ?」
「俺は気にしないから脱げー!!」
翔が克己を押し倒し、上着を脱がそうとしたその時だった。
「甲賀さぁぁぁん、僕冷え切っちゃった、裸で温めて!!」
「うわぁぁぁぁん!ジミーが動かないー!!死んじゃったー!!?」
「中村・・・・・・単に寒くて冬眠してるだけだと思うぞ」
イグルーの狭い入り口にかけてあった布がまくれ上がり、3つの顔が飛び出した。
3つとも見覚えのある顔で、そっちを翔と克己が振り返り視線がかち合った瞬間、時間が止まる。
本上と、中村、それに木戸・・・・・・という何とも不思議な組み合わせで、寒さが見せる幻覚かとさえ思った。が
「日向ぁぁぁぁ!!甲賀さんに何をしてるんだぁあぁあぁぁ!!」
地獄の底から響いてくるような本上の声に、現実なのだと知らされた。
「ほ、本上!?ってかなかむ・・・・・・だーッ!!蛇―!!」
中村の腕にはぐったりとした小さな蛇が抱えられている。例の一件以来蛇恐怖症になりつつあった翔は例えそれが動いてなくても恐怖の対象に変わりが無い。
思わず身を起こした克己にしがみ付くと、木戸が苦笑してその蛇を掴みあげる。
「大丈夫大丈夫、冬眠真っ最中だから。何なら外の雪ん中に埋めてくる?」
「木戸君酷い!!僕のジミーを!!」
「あ、でも蛇って確か食えるんだっけ?今日の夕食にでもするか?」
中村の文句もスルーして更に酷い事を言う木戸に、飼い主は声にならない悲鳴を上げていた。ここまで連れてきた愛しい愛しい相棒を食われてはたまらない。
慌てて木戸の手から蛇を取り上げ、彼は自分のふところにそれを入れていた。もう木戸には触らせないと言いたげに膨らんだそこを服の上からガードする。
翔に脱がされたコートを着込みながら克己が突然の登場に眉を寄せた。あまり歓迎出来ない客・・・というか面子だ。
その質問に代表して木戸が答える。
「俺らもここに放り込まれたってわけ。俺は本上とペアで、和泉と中村がペアだ。つかすげぇなー、この家。快適じゃーん」
きょろきょろとイグルー内を見渡す木戸に、ひたすら克己に抱きつき愛を囁く本上、持ってきた冬眠中の蛇に頬ずりをする中村、そして、中村とペアだという和泉はここには顔を出さず、寝床と決めた洞穴で寝ているという。
何だろう、この恐ろしい顔並びは。協調性の欠片もない。多分友情も欠片もない。仲間割れしやすい、というか仲間という認識もあるのか、いや無いだろう。そんな寄せ集めグループが一週間やっていけるのか、いや絶対に無理だ。そこに関わってしまうとこっちまで共倒れしかねない。
「流石甲賀さん、だねー。あぁん、僕甲賀さんとのペアがよかったー!」
こんな奴と一緒だなんて、と本上は嘆きながらどさくさに紛れて克己に抱きつくし。
「俺たちは適当に掘った雪の洞窟住まいだもんなぁ。甲賀すげぇな、こんなの思いつくなんて」
まだ習ってないし、と木戸は笑うが克己はそれを冷たく一瞥する。木戸としては友人に対して微笑みかけたような笑みを浮かべたつもりだったのに、克己はそれを受け入れるのを拒否する。
あれ?と木戸の笑顔が気まずいものに変わった時、くしゃんと翔のくしゃみが室内に響いた。まだ、翔は薄着のままだったからだろう。
「翔」
そんな恰好しているからだ、と克己が翔が脱いだ服を渡そうとした時、何を思ったか木戸が翔を何の抵抗もなく抱き締めていた。
「日向そんなカッコしてるからだ。ホラホラ、お兄さんの胸は暖かいぞー?」
着ていたコートの前ボタンを外し、木戸はコートの中に翔を包み込む。翔の体が小柄だったおかげで見事にすっぽりと彼の胸の中に収まっていた。
ふんわりとした人肌の温かさに心地いいと思いつつも、木戸の言葉に目線を上げる。
「なんだよ、木戸、お兄さんってお前2月生まれだろ、俺より年下!」
翔も特に抵抗せず木戸のしたいようにさせていた。
しかも、突っ込みどころはそこらしい。確かに1月生まれの翔から見れば、2月生まれの木戸は年下と言えるのだが。
「無理無理。見た目的には俺の方が年上。相変わらずちっこいなぁ、喰ってる?」
「喰ってる喰ってる。木戸こそ偏食治ったのかよ?お前果物嫌いってヤバイって」
「あっはっは。いーんだよ、俺こんだけ育ったし。お前はもっと育てー?なぁ?甲賀もそう思・・・・・・」
くるりと克己の方を振り返った木戸は思わず言葉を止めてしまった。・・・・・・あまり自分は戦闘とかそういうものに触れてこなかったから、戦いの空気とか雰囲気とかそういうものには鈍いと思っていた。いわゆる殺気というものを感じても、それが殺気というものだとは解からず、何となく悪寒がする、程度の認識しか今まで出来なかったのだが。
今は解かる。これは殺気だ。半端無いくらい強い殺気だ。
「木戸?」
突然パッと自分から離れた木戸の態度に翔は首を傾げている辺り、彼は気付いていないらしい。
「あー・・・・・・と、甲賀、コレの作り方教えてくれるか?こういうヤツの方が過ごしやすいから」
慌てて木戸は話を別な方向へと持って行くが、それに他のメンバーはいい顔をしなかった。
「えー。僕は嫌だからね、こーんな寒い外にまた放り込まれるなんて。僕は甲賀さんとここに居る」
「これ以上外に出たら僕のジミーが!ジミーが凍死しちゃう!!」
「お前ら・・・・・・」
南のお坊ちゃん達は労働が嫌いなご様子。
がっくりと項垂れる苦労人木戸の姿に、昔馴染みの翔は彼のコートを軽く引っ張った。
「木戸、俺も手伝うよ。俺作り方覚えてるし」
その暖かい言葉が極寒の木戸の心に染み渡ったらしい。
「日向・・・・・・持つべきものは昔からの友人だな」
翔の背中に天使の翼が見えるのは恐らく幻覚だろうが、まだそこまでヤバイ状況では無いはず。
「あっはっは。んじゃ、さっさと作ろっか・・・・・・あ、克己は休んでろよ?」
脱いだ服を着込んだ翔は本上に懐かれている克己を振り返る。
「さっき随分と頑張らせたみたいだったから」
少し申し訳無さそうに言う翔はまだ克己の体を冷やしてしまったことを気にしているらしい。
「いや、大丈」
「甲賀さん!僕と一緒に居てよ、寒いから!!」
大丈夫と言おうとしたところを本上があっさりと邪魔してくれる。しかも抱きつきながら。
その様子を苦笑しながら見て、翔は木戸と共に外に出た。
外はまだ吹雪だったが、さっきよりは穏やかになっている気がする。
帽子を被って耳までガードした翔の頭の上に、木戸の手が乗っかった。
「悪ぃな、日向」
「いいよ、俺と木戸の仲じゃん」
笑顔で許容してくれる翔の笑顔が懐かしくて、木戸も思わず笑み返していた。
「変わってねぇのな、日向」
「そうか?木戸も変わってないよ」







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