「なぁんで俺が高遠と一緒に仕事しないといけないんだよ」
 ブツブツ文句を言いながら高遠の後ろを歩くのは、この間高遠の方ももう二度と共に仕事をしたくないと思った遊井名田焔次だった。そりゃこっちの台詞だと高遠も心の中で呟くが、彼の兄で自分の友人でもある陽壱のすまなそうな顔を思い出し、それを口にするのを押し留めた。
「高遠“先輩”だ」
「はいはい、んで?高遠センパイ、大丈夫なんですか?体、この間鼻血止まらなかったって陽兄が言ってたけど」
「大事ない」
 実際のところ、まだ話したり息を鼻で吸ったりするときに鈍い痛みが走るが、そんな素振りは全く見せず、高遠の顔はいつものように隙のない表情だった。だが、僅かに青痣が残っているのは隠しようがなくそのままだったが。
「つーか、何で俺?陽兄と動けば良いだろ」
 高遠と陽壱が親しい間柄であるのは焔次も知っている。だから、高遠が執行部の手伝いをすると聞いた時はてっきり陽壱の手伝いをするのだと思っていたのだ。
 だが、高遠は何故か自分を連れてこうして歩いている。
「……陽壱には違う仕事を任せている」
 生徒会上層部を自由に出入りできなくなった自分に代わり、副会長である千宮路の様子を探ってもらっていた。気のせいか、自分がいなくなってから妙に彼らの身辺が慌しくなったような気がするのだ。まるで、この時を狙っていたかのような、そんな空気で。
 一体アイツは何を企んでいる?
 千宮路の読めない笑みを思い浮かべ、高遠は眉間を寄せた。
 ここ最近、胸騒ぎがしてならない。そう、あの薬の一件が始まってから。今までとは違う空気がこの学校に入り込み、それがじわじわと霧のように立ちこめ始めた気がする。
 元々、こんな奇怪な事件は今まで一度もなかったのだ。少なくとも、自分がこの学校にいた時は。初めてあの薬の被害者が出た昨年度は一人二人と、それでもまだ問題になる程ではない人数で。だが、今年になり、例の一戦に生徒を派遣した後、異変が発覚した。戦争にも薬を持って行ったのか、帰ってきた彼らは見事な中毒者となり、生徒を襲い、とうとう犠牲者が出た。保健委員長であった一登瀬の悔しげな顔を思い出す。そんな彼を、千宮路は笑いながら責めた。
 この責任、どう取るつもりかな、と。
 そして、これ以上の犠牲者を出さない為に、狂人に変貌する可能性がある中毒者の排除を彼に命じていた。排除とはすなわち、なかった事にするための手段。
 他に手段はあるだろうと一登瀬も食い下がったが、薬の効果は思った以上に激しかった。彼の配下である生徒が大怪我を負わせられることも少なくはなく……もうどうしようもないレベルにまで達していた。その惨い結果に、一登瀬が彼の委員会室で咽び泣いていたのも知っている。彼は、非道になりきれない人間で正義感も強く、彼の配下には慕われていた。この一連のことが終わったら、休暇を与えるのも良いかもしれない。彼と彼の婚約者に。
 それまでに、自分の身分が復活していればの話だけれど。
 高遠は小さく息を吐いて、正面を見据える。
「最近、川辺の近くに奇妙な女がうろつき始めた。その女を捕まえる」
 それを聞いて焔次は赤い目を大きくした。
「はぁ?川辺教官が好色なのは今に始まったことじゃ……」
「その女、この学校に在籍しているヤツじゃない」
 調べたところ、1年生にその女子らしき生徒はどこにもいなかった。外部の人間が忍び込んでいるとなると大問題だ。
 高遠の一言に焔次も顔を引き締め、執行部員らしい顔つきになった。
「で?その女、殺す?」
「いや。捕まえて目的を吐かせる……アレだ」
 高遠の視線をなぞると、確かにそこには見覚えのない長髪の少女がいた。しかし、焔次は鼻をひくつかせ、覚えのある匂いに首を傾げる。
「……んあ?」
「遊井名田はここにいろ。逃げようとしたら捕まえるんだ」
 しかし、高遠は気付いていないらしく、止める間もなく彼女のほうへと足を進めた。
「おい、お前」
「え?」
 呼び止められた彼女はくるりと振り返り、高遠の姿を捉えて目を大きくした。彼女の顔を見て高遠の方も瞠目した。真っ黒い髪に、色素の薄い茶色い瞳、白い肌。あまり見たことのない組み合わせの色彩だった。その所為か軽い違和感を覚える。
 だが、そうした恋愛事や男女の関係には興味がないわけではなかったが、日々雑務に追われていた所為か性欲処理のほうも大分御無沙汰だったとちらりと思い出す程度には彼女は好みの顔立ちをしていた。
 仕事だ、仕事。
 そう今浮かんだ感情を切り捨てて、高遠は再び彼女と向き合う。
「失礼だが、IDカードを見せてはくれないか。君の所在に不明瞭な点があってな。俺は生徒会の高遠静だ」
「え……あ、あの……」
 高遠に見下され、彼女は困惑したように視線を泳がす。即座に対応できない、ということは何か後ろめたい事があるということだ。それを素早く察した高遠は目を細めた。
「見せられない、というのなら、話を聞こう。一緒に来て貰おうか」
 彼女の肩を掴もうとした、その時
「やっぱ、ひなじゃん!」
 突然飛んできた焔次が彼女の体に抱きつき、高遠から彼女を遠ざける。突然の部下の愚行に高遠は唖然とするしかない。
「遊井名田、お前!?」
「ひなだーひなだー、久し振り、元気してた?」
 ごろごろとネコがじゃれつくように彼は彼女に頬ずりし、小さな体をめいっぱい抱き締めた。その様子に高遠は唖然としたが、彼女の方もだったらしい。突然の事にただただ茫然としている。
「相変わらず、いー匂い!この匂いはやっぱひなだ!」
「ちょ!離して……」
 必死にその腕から逃れようとする彼女の様子に、取り合えず捕獲は成功したのだと高遠は思うことにした。多分、焔次は彼女を放さない。しかし……焔次と知り合いらしい、ということはちゃんとこの学校の生徒なのか。
「おい、遊井名田弟。そいつは誰だ?」
 ため息を吐きながら問うと、彼は赤い目を瞬かせ、何を言っていると言いたげだ。
「は?ひなだぞ?」
 まるで、高遠も知っていると言うような返事には首を傾げるしかない。ひな、という知り合いは高遠の周りにはいなかった。が
「ひなじゃありません!ひゅーがです、ひゅうがっ!!」
 再び頬ずりをしようとした焔次の首をはり手で遠ざけた少女が叫んだ名前には、覚えがあった。
「日向?日向……翔?」
「日向翔です、ホラ、IDと……っ」
 片手でIDカードを取り出し、もう片方の手でカツラを脱ぎ捨てた彼は、間違いなく日向翔その人だった。
「……人騒がせな」
 思わず高遠はそう呟いていた。所在が確認出来ればもう充分だった。後は、個人の趣味に関わるつもりは全くない。
 受け取ったカードを本人に返し、思わずため息を吐く。
「君が川辺のような男が好みだとは意外だな。ま、好きにやってくれ」
 何気なく呟いたその高遠の言葉に、翔はハッと顔を上げた。
「……俺が、川辺教官と付き合ってるから今声かけたんですか?」
 その探るような翔の言葉に高遠は今の一言が失言だったのだと知る。意外と彼は聡かったらしい。
「生徒会が、川辺教官のこと探っているんですか。もしかして、薬の件で?」
「何のことか分からないな。遊井名田弟、帰るぞ」
「待って下さい、教えてくれ!」
 翔が慌てて焔次の腕から抜け出し、高遠の腕を掴む。それに高遠は盛大なため息を吐いて振り返った。
「君には関係のないこ」
 その時、ぼたり、と何かが自分の腕に落ちるのを高遠は感じた。雨かと思ったが、視界の端にある空は快晴だ。そしてようやく自分の鼻の奥の方が妙に熱いことに気付き、鼻を手で覆えばやはり、熱い液体が流れ落ちていた。
「おい!?」
 突然目の前の人間が鼻血を出せば何事かと驚いて当然だ。翔が目を大きくしたのに高遠は舌打ちしたが、次の瞬間眩暈まで感じ、その翔の手を借りる羽目になってしまう。へなへなと力を突然失った高遠の体に慌てて翔は手を伸ばした。
「ちょ……!高遠がひなの女装姿に鼻血噴いた!?」
「断じて違う!」
 いきなりの事で混乱したらしい焔次の一言には最後の気力を振り絞って否定したが、そこまでだった。貧血か、それとも最近の睡眠不足が祟っていたのか吐き気まで感じる。そんな高遠の様子に、翔もただ事ではない事を感じたのだろう。
「大丈夫ですか?えーと、遊井名田先輩?誰か呼んできて下さい!」
「要らん。一人で行ける」
 翔の腕を振り払い、二三歩歩いた高遠だったが、すぐにその場にへたり込み、歩くのも困難な状況に陥っているのだとその時思い知らされた。
 大人しくしてろ、と何故か焔次に言い聞かせられ、再び翔に手を借り、近くの水飲み場まで誘導される。その間も高遠は吐き気と頭痛に苛まれた。
 あまりにも間抜けすぎる。そう心の中で嘆くしかない。恐らく、この間千宮路に殴られた傷がまだキチンと癒えてなかったのだ。それがあの時傷が開き、こんな失態を1年生に見せることになってしまった。恨むべきは千宮路だ。
 不幸中の幸いは、その水飲み場に人がいなかったことか。
「大丈夫ですか?」
 普段ただ置いてあるだけに見えたベンチがこんなにありがたいものだとは思わなかった。高遠をその色あせたベンチに座らせた翔が、水で濡らした白いハンカチを差し出してきた。あまりにも真っ白で、それを受け取るのを躊躇ってしまう。
「……汚れるぞ」
「変なこと気にするんですね」
 その為に差し出した翔は首を傾げた。元々、このハンカチも普段の授業で習ったとおり、止血や傷口を覆うために持ち歩いているものだ。実はもう一枚持っている。それも、習ったとおりだが。
 受け取ったハンカチで高遠が鼻を押さえるとたちまち白いハンカチは真っ赤に汚れていった。まだ出血が止まらないのだから当然だが。
「……言っておくが、お前のその姿にこんな事になったんじゃないんだからな」
 もう一枚のハンカチも濡らしてきた翔に一応そう言っておくと、彼は驚いたように瞬きをした。
「言われなくてもわかってます。俺だって別に好きでこんなことしてるわけじゃ」
「何だ、趣味かと思った」
「違います!」
 病人でも口が減らない相手だ。翔は少し憤慨したが、青白い顔をしている相手にその怒りをぶつける気にはならなかった。見れば、渡したハンカチはもうすでに全面真っ赤に染まりつつある。酷い出血だ。のぼせた程度ではここまで出血はしないだろう。
 一体どうして、と彼の顔をよく見てみれば、青痣がうっすらと見えた。誰かに殴られたのだろうか。
 それを聞こうとしたが、高遠があっさりと答えてくれるわけもないし、知ったところでどうするというのだ。それを飲み込み、新しいハンカチを彼の前に差し出した。高遠はすぐその交換に応じ、翔は血まみれになったハンカチを今度は洗いにかかった。
 ……なんか、奇妙な事になっているな。
 水音を立ててそのハンカチを洗いながら、翔はぼんやりと今の状況に疑問を抱いた。この間、克己を倒そうとし自分を殺そうとまでして、今度は何かの嫌疑をかけてきた彼にどうして自分はここまでしているのだろう。いや、目の前で人が血を流して倒れたら解放してあげるのが人の道というものだ。遠也だって、怪我人に敵味方はないと言っていた。その志は見習うべきだと前々から思っていたのだから、自分のこの行動は間違っていないはず。
 克己には、馬鹿かと言われそうだけれど。
 ぱん、と洗い上げたハンカチを張り、水を切る。
「……君は、変な奴だな」
「え?」
 その音に混じって何か高遠が呟いたが、よく聞こえず聞き返すと、彼のため息が聞こえた。
「俺に恩を売ったところで、君が得する事は何もないぞ」
「別に、恩を売ろうとしてやってるわけじゃないんで、いいです」
「じゃあ……ああ、なるほど……悪いが、俺には男を好く趣味はない」
「違います!俺だってそんな趣味はないです!」
「川辺と付き合っているのに?」
 あ。
 ちらりと高遠の眼がこちらの様子を伺ったのを見て、しまったと心の中で呟いた。俯いた翔に高遠は血が止まりかけていることを確認してから、再びハンカチで鼻を覆う。
「深くは追求しないがな」
 すぐに興味を失ったような高遠の態度に少し安堵していた。
「……克己とは、どういう関係なんですか」
 生徒会という彼とこうして話す機会はきっとこれを逃したらない。真っ白まではいかなかったものの、汚れを洗い落としたハンカチを絞ってからそう問うと、高遠の背中が少し緊張した。
「……顔見知りだ」
「友達、ですか」
「違うな。そんなものあの方にも俺にもいない」
 色々と思い出して見たが、どこをどう見てもそんな甘い関係ではなかった。まず、高遠本人もその友人と思える相手を作ったことが今まで一度もない。今共にいるのは、利害関係が一致した相手しかいない。もしくは、いつの間にか造られた派閥、と呼ぶべきか。
「克己には友達いますよ」
 しかし、翔は首を振って高遠の言葉の一部分を否定した。
「うん?」
「俺が、克己の友達です」
 どことなく誇らしげに胸を張る彼の姿はこの学校の女子生徒の制服で、ひらりと舞ったスカートと黒いソックスの間に覗く絶対領域がどうも格好がつかない。
「君のような人間が友人か……お労しい」
 さっと目を逸らした高遠の態度には翔もムッとしたらしい。どかりと彼と少し距離を置いたところに座り、不機嫌をアピールしてきた。
「じゃあ、どんな人が克己の友達に相応しいと?」
「少なくとも君のような人間ではないことは確かだな。女装しているなら足を広げて座るのは止めるんだ。変装術の心得、まだ習っていないのか」
「……習っていません」
「そうか、なら常識で考えろ」
 どこまでも冷たい高遠には忌々しいと思いつつも翔は膝を閉じる。癪なのでついでに両手をその膝に置き、自分が知る限りの女らしいポーズを取って座れば、高遠の視線がそれを笑った。
「あの方に相応しいのは、少なくともそんな女々しい事をする男では無いな」
「な……!」
 男らしく座れば怒られ、常識で考えろと言われそれに従えばからかわれる、一体どうしろというのだ。
 苛立ちだけがつのるが、階級が果てしなく上の相手にそれをぶつけるわけにもいかず、翔は怒りを堪えた。親切心がとんだ仇になったものだ。
「あのな、アンタ」
「上司に向かってその口のききようは何だ」
 文句を言おうにも先手を取られてしまう。しかし、高遠の少し苦しそうなその横顔にそれ以上言うのを止めた。喋っていて気分が悪くなるのなら、黙っていればいいものを。
「血は止まった。世話になったな」
 出血が止まったのを確認し、高遠は止める間もなく早々に立ち上がろうとして、また後ろに倒れてベンチに舞い戻る。立ちくらみだ。
「……少し休んでた方が良いんじゃないんですか」
 額を押さえて何かを堪えているその姿に思わず声をかけると、「黙れ」と低い声で威嚇をされてしまった。まるで手負いの猛獣のような反応だ。
 恐らく、普段は機敏な動きを出来る猛獣なのだろうが、今その横顔は疲労の陰が濃い。
 仕方ない。
 彼の肩を引き、少々強引に引き倒した。
「おい、何を!」
 いきなり後ろに倒され、高遠は後頭部の衝撃に構えるがそれは無かった。突然反転した世界を見上げていると、そこに白いハンカチが置かれる。冷たく濡れたそれが心地良かった。
「少し寝た方が良いですよ、……えーと、たか、たか……」
「……高遠だ。高遠静」
「高遠静、先輩」
 ハンカチで視界は遮られているが、今翔が少しほっとしように微笑んでいるだろうことは容易に想像出来た。
「君は変な人間だな。普通、この間殺されかけた相手に介抱なんてしないだろう」
「それは、友達が……怪我人に敵も味方も無いって言ってたので」
「君の友達も変な人間だな」
「俺は尊敬していますけど」
「軍にはそんな人間必要ない」
「でも、その人いなかったら今頃高遠先輩一人で倒れていましたよ」
 その物悲しい光景を想像してしまたのか、思わず押し黙った高遠の反応に翔は苦笑する。
「良いから、さっきの赤い人が来るまで寝てて下さい」
「……まさか男に膝枕をされる日が来るとはな」
 深いため息を吐いた高遠の声にはすでに力は無く、現実から逃げたかったのかどうかは知らないがそれ以上彼が口を開くことは無かった。
「緊急事態なんだから我慢して下さい、これくらい」
 小さく抗議したものの、本人がどうせ聞いていないことは承知済みだった。寝てくれた方がこっちも都合が良い。
「克己のこと、放っておいてくれって言ったらきいてくれるかな……」
 思わず呟いていたが、多分言ったところで彼なら一笑して終わりだろう。もし、次に彼らが克己を狙ってきたら彼の前に立って戦うことになる。そんな相手だから、一つ貸しを作るのも良いと思わなかったというと嘘になる。
 しかし、まるで血を吐いたように汚れている高遠の口元を見て、何となくそれを口にするのは止めた。こんな交換条件は卑怯すぎるか。
「……借りが一つ出来たな」
 はぁ、とため息を吐いたそのタイミングを見計らったかのように眠っていると思った高遠が声を出したから堪らない。思わず体を揺らしてしまい、足ギリギリのところに置いていた高遠の頭がベンチに落ちた。
「うわ、ごごごごごめんなさい!そ、その……わざとじゃなくて!」
 しかし、高遠は大して気に止めていない様子で身を起こし、目の上に置いていたハンカチで汚れた顔を拭き、慌てる翔を手で制した。
「川辺の事、あいつは俺達の管轄だ」
「……え?」
「意味、分かるか。薬関連なら執行部は動かない。それは保健委員の管轄だ」
「それ、って」
 つまり、彼らは例の薬関連で川辺を追っているわけではない、ということだ。
 翔がそれを理解したと高遠の方も察し、じっと翔を見つめていた目を横へ動かした、次の瞬間
「伏せろ!」
「へっ?」
 今度は高遠に肩を引かれ、彼の腕に庇われたまま地に落ちた。その頭上で何かが木で出来たベンチに立て続けに突き刺さる音が聞こえる。
「な、何だ?何がっ」
 慌てて頭を上げようとしたが、上に覆いかぶさっていた高遠がそれを許さなかった。
「顔を上げるな、死ぬぞ!」
「へ、な、なんで……」
 高遠が焦ったように忠告してきたが、その言葉の意味が理解出来ない。どうしていきなりそんな状況に陥っているのか。
「……何で邪魔するんですか、高遠先輩」
 その時、翔のところからは見えなかったが、少年の声が夕日で赤くなっている世界に響く。
 顔を上げずに、首だけ動かして自分の上にいる高遠を見上げると、彼は体を起こして一点を見つめている。
「誰の命令だ、獅子丸」
 名字か名前かはよく分からなかったが、高遠には顔見知りの人間だったようで、咎めるようにその名を呼んでいた。
「そんなの、副会長に決まってるじゃないですか。何ですか、高遠先輩。また命令違反スか」
 相手は呆れたように言うが、その命令違反という単語に何かが引っ掛かった。この真面目そうな高遠が命令違反をするとは、あまり思えないのに。
「副会長から殴られたってのに、まだ懲りないんですか?」
 畳み掛けるようにその相手に言われ、高遠の表情が口惜しげに顰められる。そこで、彼が鼻血を出した原因を知った。
「昔の縁者だかなんだか知らないけど、1年、しかも北のヤツなんて庇ってどうするんですか、高遠先輩。珍しく馬鹿みたいですね」
 くすくすという笑い声に乗って飛んできた相手の言葉に、翔は思わず高遠を見上げていた。彼は、克己を庇ってその傷を負ったのだ。
 その翔の視線に気付いた高遠は小さく舌打ちをして立ち上がる。勿論、翔はまだそのままでいろと手で指示をして。
「こいつの件は解決した。うちの生徒がただ単に女装していただけだ。IDカードも確認済みだ」
 高遠は彼の挑発にも乗ることなく淡々とした説明をし、それが勘に障ったのか彼らの気配が急に緊張したのが翔にも分かる。所謂、一触即発の空気に変貌した。
「でも、殺してきて良いって言われてるんで」
「遊ぶつもりで来たんですよ。そんなオチ酷いじゃないっすか」
 一つだと思っていた声が二つに割れた。
 そこで翔は初めて高遠が二人の人間と対峙していることに気付いた。しかも、その二つの声は良く似ている。
「高遠先輩が遊んでくれるっていうなら話は別ですけどね!」
 再び声が重なり、気配が動く。そこでようやく気配が二つに割れたのに翔も素早く身を起こした。
「高遠先輩!」
「君は動くな!」
 しかし、そう怒声を飛ばした高遠の顔色はまだ悪く、二人も相手に出来るか怪しいところだ。
 二つの影が高遠目掛けて飛びかかったと同時に金属がぶつかり合う音が頭上で響く。それが普段翔が聞いていた音より激しかったのは、彼らの力もあるだろうが、その音が二つあるからだ。高遠は両手でナイフを逆手に持ち、二人の刃をそれぞれ受けていた。二人分の力をその一身に受けているというのに、押される事なく、それどころか弾き返している。
「やっべ、高遠先輩と戦ってるんだ……すっげ楽しいな、鏡次」
「落ち着きなよ、鏡哉。僕だって凄いわくわくしてるんだから」
 攻撃を返されたというのに、どこか楽しげに話す二人の顔は同じ笑顔を浮かべていた。まるで、そこに鏡を置いているように同じ動きで構えている二人は
「双子……?」
「厄介な奴らが来たな」
 翔の問いに答えるように高遠は舌打ちをし、先ほど盾代わりにしたベンチを邪魔だとばかりに蹴飛ばした。
「何を勘違いしているか知らないが、生徒の処罰はむやみやたらに行うものじゃない。生徒会は生徒を守る為に存在していることを忘れたか。処罰はそのために行われるに過ぎない」
 厳しい声で高遠が諭すが、二人は互いの顔を見合わせ、首を傾げるだけだ。そして、二人は同時に口を開いた。
「僕らは上の命令に従ってるだけですよ」
 二重に重なったその声が、高遠の眉間に皺を刻んだ。
「模範解答だな」
 褒めているのか貶しているのか解からないが、彼は忌々しげに呟いていた。そして
「おい、さっさと帰れ」
 そして、もう一つ邪魔なものを無くそうと思い出したように翔に顎で指示をする。
 って、ちょっと待て。
「え、でも」
「こいつらはもうお前のことはどうでもいいらしいぞ」
 高遠の言うとおり、双子の視線は翔ではなく武器を構える高遠へと向いている。確かに、もう彼らは翔のことなど忘れたかのように動いていた。
「でも、高遠先輩まだ具合が」
「君が気にすることじゃない」
 だがその返答に納得出来なかった翔が立ち上がろうとした時、その腕を高遠が引き寄せ、足元に転がっていたベンチを蹴り上げる。彼の奇怪な行動に目をやれば、そのベンチに小型ナイフが突き刺さった。その神業に目を見張っていると、高遠が口を開く。
「……君はあの方の友人だ。俺の目の前で傷をつけるわけにはいかない」
 高遠は言い終わるが早いか、蹴り飛ばしたベンチに足をかけ、その体格に似合わない身軽さで飛び出した。
「あ……」
 止める間もなく身を晒した高遠に双子が意気揚々と飛び掛っていく。だが、平気そうに振舞っていた高遠もやはり具合はそこまで良くないのだろう、少しふら付いていた。
 大丈夫じゃないだろ、どう見ても。
 辺りを見回して見つけたのは、ベンチにいくつも突き刺さってる小さなナイフだった。投げる用に改良しているのか、翔が普段持っているナイフの半分程度の大きさだ。まだ投げる訓練はしていないけれど、注意を逸らす程度には使えるかもしれない。突き刺さったそれをどうにか二つ抜いて、顔を上げたその時、高遠の背が大きく揺れた。前のめりに倒れるか、と思ったがそれをどうにか堪えたのは高遠の意地だったのかも知れない。しかし、その隙を見逃すわけが無く、双子の片割れがその背に駆け寄るより早く、翔が彼と高遠の間に滑り込んだ。
「な……」
 驚いたのは高遠の方だ。敵の刃を受けるのは避けようがない、ならばどうにか急所を避けようと腕を後ろに引いた、その視界の端に移ったのは敵ではなく流れる黒髪だった。キン、と軽い金属音が響いて、翔が相手の攻撃を小さなナイフで受け止めたことは解かったが、彼の向こう側にいた少年の眼が面白げに細められたのに、高遠は翔の肩を引いた。
「わ……」
「君は何をしているんだ……!」
「何、って……危なかったから」
 どうして怒鳴られているのかわからない、と言いたげに翔は目を上げ、それに高遠は貧血ではない眩暈を感じる。折角自分が双子の注意を引けたというのに、彼はそれを無に帰した。確かに高遠にはちょっとした危機的状況ではあったが、この程度のことは慣れているのだ。傷を負うことも。彼は自分がどんな立場に立っている人間か、わかっているのだろうかと呆れてしまった。
「君が気にすることじゃない。大体、君は1年だろう。君に庇われる筋合いは」
「筋とか、そういうの関係ないでしょう、こういうのは」
 翔がきっぱりと言い放った言葉に高遠は目を大きくし、口を閉じていた。
「痛いじゃないですか、怪我したら。1年でも3年でも、それは変わらないから」
「……は?」
 翔の言っている意味がよく解からず、高遠は一瞬思考が止まる。一体この1年生は何を言っているのだろう、怪我をしたら痛いのは当たり前だ。だが、そんなことを気にせず闘うのが自分たちの役目であり、国から求められている務めだ。
「最近の1年は何を考えているか解からん……」
 ジェネレーションギャップ、というやつなのだろうか。その時困惑する高遠の耳に、ようやく聞き慣れた声が届いた。
「このガキ共何遊んでいるんだ!」
 背後から双子の頭を叩いてその背を踏み倒したのは、一登瀬虎太郎だった。ようやく、焔次が人を呼んできてくれたようだった。
「うげ……子虎先輩」
「見た目は先輩の方がガキですって……」
 地面に倒れたまま双子は交互に呻き声を上げ、それに一登瀬は更に額の血管を浮き上がらせる。
「何だとう!?」
「まぁまぁ、虎ちゃん落ち着け。高遠、なんだ、焔次君から倒れたって聞いたのに意外とピンピンしてるねぇ」
 一登瀬を軽く嗜め、高遠のところまでやってきたのは何とも端正な顔を持った青年だった。何となく、彼の周りが煌めいて見えるのは気のせいだろうか。
「……八月朔日。何なんだ、この人選は」
 一登瀬と八月朔日の顔を見比べてから、ようやく息を切らして登場した焔次を高遠は睨み付けた。翔には解からなかったが、この小さな少年と輝く笑顔を持った美青年の組み合わせを高遠は気に食わなかったらしい。
「特に意味はねぇよ」
 そして、焔次の返事は明快だった。
 一登瀬がその短い茶色の髪を撫でながら、片手を高遠の前に差し出した。
「ったく、高遠お前、まだ無理すんなって言っただろ。おら、肩貸してやる」
「頭借りるぞ」
 しかし、高遠はその手ではなく彼の頭に自分の肘を置き、一息吐く。一登瀬では身長が低すぎて肩を借りる事が一苦労だ。
「……高遠……てめぇ」
 ふるふると怒りに震える一登瀬の頭を肘置きにする高遠の周りの空気が悪くなったのを翔は遠巻きに茫然としてみていた。そんな彼に近付いてきたのは
「大丈夫か?」
 先程の、空気を輝かせる美青年だ。その優美な笑みをぽかんと見上げていると、彼は不思議そうに首を傾げた。
「俺の顔に何かついてるかな?」
「い、いえいえいえそんな!」
 慌てて翔が首を振ると、彼はふっと笑みを漏らし、少し膝を折って翔の顔の正面に自分の顔を置く。
「怪我は?」
「ないです」
「そうか、良かった。君、名前は?」
 伺うように顔を覗きこまれ、翔は少し首を後ろに下げてしまう。そんな二人の様子を見ていた一登瀬も思い出したように、自分の頭に肘を乗せている高遠を眼だけで見上げ
「そうだ、あの女は誰なんだ?もしかして、お前のコレか」
 少し悪戯っぽく笑みながら、右手の小指を立てた。そんな仕草を高遠は眼の端で捉え、
「一登瀬、お前表現が80年代」
「……うるっせぇ」
 外見に似合わない表現をした彼は舌打ちをしてむくれた。その怒り方は外見相応だ。
 そんな二人の会話は美形に微笑まれた翔には届いていなかった。困惑しつつも、とりあえず名前を答えようと口を開いた。
「え、と……ひ」
「ひなに近寄んないで下さい、先輩!」
 その時翔の背後に飛んできたのは焔次だった。何だ、と思うより先に彼は翔の首に両腕をまわし、八月朔日から引き剥がす。
「先輩、墓場みたいな匂いするんだよ。ひなに移ったら困る」
「は、墓場っ!?」
 焔次のとんでもない一言に翔もぎょっとし、そんな反応に八月朔日はため息を吐いて軽くターンをした。その拍子に茶色いウルフカットの髪がふわりと揺れる。
「……焔次君」
 背を向けたのを良い事に、彼に向かってべぇ、と舌を出して子どものような態度を取る焔次に、八月朔日は額を押さえた、と思ったすぐに振り返って油断していた焔次の両頬を手で掴み、思いっきり横に引っ張っていた。
「前から言ってるんだが、これは線香の香りではなくて、香の香りだ!一束100円で買えるものと一緒にするんじゃない!」
 笑顔だけれど怒りが篭っている八月朔日に、焔次は「いひゃい」と必死に首を横に振ろうとしていたが、八月朔日のほうも相当力を入れているらしく、首さえ満足に動かせないようだった。なんと言う軍クォリティだろう。
「……お前、何で来た。仕事は」
 いまだに一登瀬の頭を肘置きにしていた高遠のどことなく冷えた言葉に、八月朔日も顔を上げ、ようやく焔次から手を離した。
「生徒会の仲間が倒れたというのに、のん気に仕事しているわけにはいかないからな」
「八月朔日……」
「仲間を助ける為に奔走する、格好良いじゃないか。いつも言ってるだろう俺は俺の美しいと思った道、美道に従って生きている、と!」
 その美声で朗々と語りながら、八月朔日はびしりと片手を空へと向けた。そして
「今日も俺、格好良い!」
 良い笑顔でどこか昔の特撮ヒーローの変身姿のようなポーズを決め、しばしその姿のまま静止する。
 翔は初めて出会った相手の奇行にただただ唖然としていたが、周りの空気は少々うんざりしたものになっていた辺り、どうやらいつもの事らしい。
 すっかり慣れた彼らはそんな八月朔日の行動を無言で見守るだけで、その空気に耐えられたくなったのか、ポーズはそのままで八月朔日は視線を高遠に向けた。
「え。突っ込み無し?」
「突っ込み待ちだったのか」
 はぁ、と高遠はため息を吐いてようやく一登瀬の頭から肘を下した。
「それなら一度美道を辞書で引いてみろ、泣くから」
「え。どういうことだい?」
 きょとんとする八月朔日を無視して高遠は他の面子を振り返る。
「帰るぞ、お前ら。仕事残っているんじゃないのか。それと19時には忘れずに見ること」
 帰る方向を手で振って示す高遠に、焔次が適当な返事をしながら、いまだに地に伏せていた双子を持ち上げて歩き始める。二人を持つのは流石にきつかったのか、もう一人は途中で一登瀬に渡していたが、自分より背の高い相手を抱えるその姿は何とも言えない。
 八月朔日もまたね、と翔に軽く手を振りそんな彼らの後をついていく。
 今のは、もしかしてさり気無くうちの学校のお偉方が集まっていたのだろうか。多分、もう二度とお目にかかることはないような人物だ。呆けていた翔に、仲間を見送った高遠が視線を投げる。
「おい」
「は、はい!」
 反射的に敬礼をした翔の反応に高遠は怪訝な表情を見せたが、すぐに決まり悪そうに目線を泳がせ、腕を組む。
「……ハンカチは後で買って返す。それと、今のことは他言無用だ。世話に、なった」
 どうしてそこまで言いにくそうに言うのか解からないが、取り合えず頷いておいた。
「はぁ……お大事に」
「さっき言った事、覚えておけ」
 そこで、すっと高遠の眼が細められ、翔も彼から教えられた事を思い出した。川辺を追っているのは生徒会で、保健委員ではないと。生徒会は主に委員会のまとめ役と、上の軍との仲立ち的位置にいるが、委員会では取り扱えない事を行うのも彼らだ。つまりは、保健委員やほかの委員会では、川辺の事例は当てはまらないということで。それは、一体。
 考え込んだ翔に高遠も一仕事終えた気分になったのだろう、肩の力を抜き、生徒会室に戻るために踵を返した。
「あ、高遠さん!」
 それを引き止めてしまったのは、まだ聞きたいことがあったからだ。
「……克己のこと、どう思っているんですか」
 振り返った高遠の眉が軽く動いたのを、じっと見つめた。
「どう、とは?」
「その……また、あんなことしようとか、思っているんですか?」
「それは、上に寄る」
「……命令されたら、克己を殺すつもりですか」
「ああ、それは勿論」
 あまりにもあっさりと答えられたが、自分が聞きたかったのはこんなことではなかったはずだと翔は困惑した。こんな聞き方では、答えなど分かりきっていたのに。では、何を聞きたかったのだろう、自分は。
「いや、そうじゃなくて……なんていうか」
 こういう時、自分の語彙不足を嘆きたくなる。もっと違う聞き方があったのではないか。きっと、遠也や克己なら、誘導尋問やそれに類した高レベルなことをやりこなしてしまうだろうに。
 悩み焦る翔に、高遠がため息を吐いた。
「君は?」
「はい?」
「君は、どう思っているんだ」
「そりゃ嫌ですよ!駄目です、絶対克己死なせたりしないですから。貴方がその気なら俺は何度だって」
「そうじゃない」
 熱く話し始めた翔の言葉をそこで止めさせ、高遠は目を細めた。
「君は、彼が好きなのか。自分の身を盾にして守ろうと思うくらいに」
「そりゃ勿論!」
「随分とはっきりきっぱりすっぱり言い切ってくれたな」
 少しは戸惑うだろうと予想していたのに、翔は困惑する事無く言い切った。別に恥じらいを期待したわけではないが、何だか拍子抜けしてしまう。
 そんな高遠の落胆を知ってか知らずか、翔は満面の笑みを浮かべた。
「大好きですから」
 尊敬もしているし、失いたくない友人の一人だ。
 しかし、そんな翔の一言に高遠は肩を落とし
「……………帰る」
「高遠さん?」
「アホらしい。全く……君もさっさとその奇怪な格好を止めて寮に帰ることだ」
「あ、はい……じゃ」
 唐突な彼の行動にようやく翔は戸惑いを見せたが、一礼してから先に背を向けた。そんな彼をちらりと見て、高遠は嘆息した。
「……有難う」
 翔に背を向ける寸前で、そう小さく呟いて。
「え?」
 しっかりと翔の耳にそれは届いて、振り返った時はすでに高遠はそこにいなかった。




 橘が生きてヨシワラに戻った。
 それは計算どおりかと言えばそうでもなかった。あの時、彼女には死んでもらうつもりだった。その為に彼をけしかけたのだが、なかなか上手くは行かないものだ。
 だが、上手く行かなかった時の対策はちゃんと用意してある。
 自分には想定外という言葉はないのだ。
「流石です」
 隣りに控えていた青年が静かに自分を賞賛し、それに口元を上げて答えた。
 カタカタとパソコンのキーボードを打っていると、背後に人の気配がし、手を止める。
「全てはアンタの思惑通りってことです、か」
 投げかけられた声にタイピングを再開し、男は口元を歪めた。
「何の、ことですか?」
「……まぁ、良いですけど。僕は君の言われた通りに動くだけだ。礼はきっちり頂きますが」
 彼のそのどこか横柄にも見える態度に自分の横についていた青年が不快感を露わに動こうとしたが、それを手で制す。
「よろしく頼みます。今回は誓に行って貰うことにしました」
 青年は目を細め、誓と呼ばれた自分に敵意を剥き出しにしている男へ視線を移す。一瞬、こんな自分の感情に正直な人間が役に立つのか?と思うが、思うだけに留めておいた。
「そうですか。なら僕は傍観させていただきますよ」
 御巫はにこりと人好きする笑みを浮かべ、誓と彼に親しげに手を振って背を向ける。
 そんな彼、誓は眉間を寄せて見送った。
「あんな者を使う必要があるのですか。俺は少々疑問ですね」
 自分がいるのに、と言いたげな誓の言葉を彼は笑った。
「アレはなかなかに使える人間なんだよ」
 そう答えながら、男は画面の中の送信ボタンを押す。「送信完了しました。」というメッセージ画面に変わり、男は一息吐いた。
「さて、私はちょっと出かけてきますか」
 



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美道を辞書で引いて泣きたくなったのは私です。