「よし、和泉のところにでもいってみるか!」
「和泉?」
その時だ。聞きなれない声が降ってきたのは。
「いーずみー!」
木の下から聞こえてきたのは、翔の声だった。それに答える気はなかったのだが、答えないと彼は帰らない。
「おい、和泉ってばー!」
能天気な声はまだ下から飛んでくる。
「……何だ」
舌打ちして木の上から飛び降りると、翔の隣りに奇妙な姿をした男が立っていた。白いコートに、それほど寒くないというのにマフラーをぐるぐる巻きにし、顔が殆ど見えない妖しげな男に和泉は眉間を寄せる。それに翔が彼を指差した。
「何か、和泉に会いたいっていう人が」
「ふざけるな。こんなあからさまに妖しい男をどうして……」
俺のところに連れて来るんだ、と和泉は続けようとして硬直した。マフラーから覗く黒い目が嬉しげに細められ、その色には見覚えがある。僅かな予感に、背筋に冷たいものが走った。
「和泉?」
そんな和泉の様子に気付いた翔は首を傾げるが、構っている暇は無かった。硬直が解けた瞬間にその男の手を掴み、その場から走り去る。男も、それに従う。それが決定打だった。なるべく人目につかないところを走り、ようやくたどり着いた自室の扉を閉め、鍵をかけた。そして荒い息を整えながら、和泉は彼を睨み上げた。
「どういう、おつもりですか……!」
「お。何だ、気付いていたのか。流石秀穂」
彼は白いマフラーをするすると解き、その下に隠れていた顔をさらけ出す。白い肌に白い髪、そして端正な顔立ちは間違いない。
「蒼龍、さま……!」
この国の第一皇太子で、後の帝になる予定の青年で、秀穂の本来の主が、何故か目の前に立っている。夢だったらどんなに良いだろう。
非難めいた和泉の一言に、蒼龍は苦笑した。
「安心しろ。嵩森から許可は得ている。軍内にも極秘視察ということで許可を得ている」
「どうしてそんな」
「私の可愛い部下の様子を見るために決まっているだろう?元気だったか、怪我はないか?虐められていないか?」
ぐしゃぐしゃと秀穂の色素の薄い髪を撫でる彼は心底楽しげで、それにため息を吐かずにはいられない。
「今すぐ、お帰り下さい」
「何故だ」
「何故って、貴方はこの状況が分かって……!」
ここは軍の敷地内なのだ。王室と軍の中はそれほど良くない上に、不審者にも厳しい。もし、彼が怪しげな格好でふらついているところを生徒会の人間にでも見つかりでもしたら、一瞬で殺されてしまっていただろう。たとえ彼が自分の身の上を明かしても、きっと聞き耳を持たずに引き金を引く。そう考えると、蒼龍が初めて会った人間が翔で良かった。本当に良かった。
はぁ、とため息を付いた和泉に、蒼龍は苦笑する。
「分かっている。今日、お前に会うために俺はここ連日仕事漬けだったからな」
「……はぁ?」
「20時に迎えが来る。それまで約6時間はある。そして今日はばれんたいんという日なのだろう?」
「……ばれんたいん?」
聞き覚えのない横文字に和泉は眉間を寄せた。そんな行事が、王室にあっただろうか。最近増えたのだろうかと思考を巡らせていると、蒼龍が苦笑する。
「庶民の祭りらしい。恋人の日、だそうだ」
「恋人……?」
「だから一番愛しい相手に会いたくなった。そして、会いに来たというわけだ」
恋人という言葉に怪訝な顔を見せた秀穂のそんな顔を見たくなくて、その体を抱きこんだ。
「秀穂こそ、この状況が分かっているのか。今日は恋人の日。俺は今日お前に会う為に仕事をこなした。そして後6時間ほど時間がある」
するりとネクタイを外され、ようやくシャツのボタンが外されている事に気付いた和泉は眩暈を感じた。
「蒼様……稚児遊びをしたいのであれば、宮にも沢山」
まさかその為だけにここに来たのかと思うと本当に今頃彼を心配している嵩森に申し訳ない。死んで詫びても足りないくらいだろう。性欲を満たす相手は、宮にも沢山いるというのに。
しかし、和泉の非難めいた一言に彼はムッとしたようだ。
「俺は遊びたいわけじゃない。恋をしたい。お前とな」
頬に擦寄られ、柄にもなく硬直してしまう。初心とも違うその反応に、蒼龍はその頭を撫でていた。
「ああ、知っている。お前の考えている事は。だからせめて今日一日くらい」
「……分かりました」
はぁ、とため息を吐きながらも和泉もそれほど悪い気はしていなかった。それに迎えが来るまで彼を守るのは自分の役目。そのついでに彼の望みをかなえるのも、自分の役目なのだろう。
「今日一日、恋人ごっこをすればいいのですね」
「秀穂」
表情を輝かせた蒼龍の、自分の手を握る手の力が強くなった。
「はい、蒼龍様」
しかし、秀穂にはある疑問があった。そして、蒼龍も同じ疑問を抱いていたようで、それを彼は口にする。
「ところで、恋人とは普段何をするものなんだろうか!」
……ですよねぇ。
お互い宮暮らしが長い所為か、庶民の生活というものを殆ど知らない。いや、文献では読んだことはあるが。世間知らずのおかげで、友人も作れない。いや、作ろうという努力をしたこともないが、基本的に話が合わないので、教室ではひたすら一人だ。最近は日向翔が話し相手だが……。
日向翔と言えば、彼から貰ったチョコレートがテーブルの上に乗せられている。先程あけたものだが、蒼龍が食べたいというので、和泉がまず毒見として一つ食べた。遅効性の毒だったらいけないので、と蒼龍は30分のお預け中だ。だが、妙な味は感じなかったから恐らく毒は盛られていない。まぁ、翔がそんなものを自分に渡してくるはずはないが。
「デートはどうだ?秀」
宮でのデートというと、庭を歩いたりする程度のことを指す。蒼龍が外に出たがっているのは分かるが
「駄目です。この部屋から出ることは許しません」
この顔はメディアに何度も晒されているのだ。誰かが気付けば、大騒動になる。この部屋の中が一番安全のはず。
コーヒーを入れながら、周りを物珍しそうに見ている蒼龍の姿を横目で見ていた。宮にはないものばかりのはずだ。彼から観れば別世界だろう。
「ふむ。で、この部屋は何の部屋だ?倉庫にしては狭いな」
「……私の部屋です、蒼龍様」
「何!可愛いな、秀穂!」
何故そんな感想を抱くのかは謎だが。
そして一応、ここは南寮だから北寮よりは絶対に広いのだ。彼から観れば北寮の一室など、ペット部屋のようなものだろう。いや、それより狭いかも知れない。
「あれもこれも秀穂サイズということか」
「……蒼龍様、私は一応平均身長より若干低い位なのですが」
まじまじとベッドや机を眺める蒼龍を眺めるだけでも何だか楽しい。そういえば、彼の洋装を見るのは初めてかもしれない。上物の白い革のコートを脱いだ彼は、やはり上物のセーターを着ている。そんな格好をしていると本当に王族の人間には見えない。ただの、一人の青年だ。ただの、というよりは良いところのお坊ちゃんと言う方が的を射ているかもしれない。
「……そんな姿をしている秀を見るのは初めてかもしれんな」
そして蒼龍も同じような事を考えていたらしく、気付けば自分に視線が定まっていた。自分は今、制服だ。流石に上司相手に私服ではいけないだろうと、帰ってきてからも着替えずにいた。
「宮では和服でしたからね」
「ああ。だが、似合っているぞ、秀」
物珍しそうにシャツの襟を引っ張ってくる蒼龍は、まるで子どもだ。
「……貴方もお似合いですよ、蒼龍様」
「そうだ、それがいけない」
そこで突然蒼龍が指を指してきた。
「え……何がですか?」
「俺に対する敬語と、敬称だ。それがあるから恋人同士に見えんのだ」
不満気に眉を上げる主に秀穂は困惑するしかない。それだけが要因とは思えないのだが。第一、誰に恋人同士に見せたいのだか。
「しかし、蒼龍様……私は貴方の」
「今は恋人だ。敬語と敬称は却下。それと、俺の事は名前で呼べ」
あまりにも無体な要求に挫けそうだった。
「秀」
だが、そんな笑顔で求められては、応えたいと思うのが普通だ。結局は自分もこの主には甘い。恐る恐る、その高貴な名を口に乗せた。
「……秘色、様」
「様は不要だ」
「……」
折角意を決して名を呼んだのに、更なるものを求められてしまった。
「今、ここにはそう呼んで咎める者は誰もいないぞ?」
「良心が、咎めます」
「秀」
「……どうか、御容赦下さい」
宮にいる時は良くやっていたように、秀穂はゆっくりと頭を下げる。下げたはいいが、頭を上げたくはなかった。今の彼の表情は見たくない。
「……良い。無理を言った俺が悪い」
声もどこか淋しげなのだ。表情もきっと同じのはず。だが、身分の差が重く秀穂の背に乗っかっていた。譲れない。譲るわけにはいけない。ここで譲ってしまったら、今まで自分が築き上げてきたものが一瞬にして崩壊してしまう。
「申し訳ありませ」
意を決して目を上げようとした時、ポロリと何かが床に落ちた。
あ?
まだいくつか落ちるそれを受け止めようと手を差し出すと、上に生温かい水滴が飛んだ。
「秀穂?」
「あ……申し訳ありません」
泣いている?自分が?しかも、上司の目の前で?
眼鏡を取り、コンタクトのズレかと思いそれも外したが、涙は流れるばかりだった。それどころか、感情さえも何故か物悲しい気分になってくる。これはあからさまにおかしい。そういう流れではなかったはずだ。心臓も、何故か異常なくらい高鳴り始めている。
「秀穂、どうした?俺が無茶を言ったからか?」
おろおろと慌てる蒼龍に首を横に振って見せるが、涙は一向に止まる気配がない。
どうしたのか。それを一番知りたいのは自分の方だ。
「そう、さま。何でも、無いので」
「そんな事無いだろう、お前が泣くなんてただ事じゃない」
確かに彼の前で泣いたことなど数えるくらいしかない。こんなことならばしょっちゅう泣いていれば良かったなどと、変な方向に考えが向かう。
ああ、もう、面倒だ。
「秀」
慌てる蒼龍の唇に秀穂は自ら口を寄せていた。
「……秀?」
喜ぶ以前に唖然としてしまった。まさかあの秀穂が自分からキスを仕掛けてくるなど、一生ない事だと思っていたのだが。
「蒼さま……ぁ、様……つけてしまったな」
ミスをした唇に手を当てて、彼は眉を下げ、困ったように微笑んでから蒼龍の口に再び自ら唇を寄せた。
「しゅ……!どうした?」
一度ならず二度までも。
こんな時に使う言葉でないものが脳裡に浮かんだのは、恐らく蒼龍自身頭が上手く回っていなかったからだ。そんな混乱した主に、秀穂はさらに爆弾を投下した。
「……秘色様が、好きなのです」
困ったように、そしてどこか拗ねたように言う秀穂の様子は今だかつて見たことがない。しかも何より、滅多に呼ばない名前で呼んでくれている。
「秀……?」
「貴方が望むなら、この体を好きにして欲しい」
するりとネクタイを外し、ボタンも外して隠れていた白い皮膚を除かせた仕草に、蒼龍は硬直するしかなかった。
普段、小姓というのは自ら誘うような真似はしない。小姓は小姓であって、娼妓ではないというプライドを持つようにと、教育をされているのだ。だから、主から誘われたら拒否はしないが、自ら求めるような仕草はしてはいけないと、嵩森から厳しく言われているはずなのだが。
「な、な………な!?秀穂!?」
一番小姓という仕事にプライドを持っていると思っていた秀穂が、誘っている。これは夢なのだろうか。
「……それとも俺は貴方の好みからもう外れてしまいましたか?」
蒼龍の硬直をどう捉えたのか、秀穂はしょんぼりと眉を下げ、哀しげに見上げてくる。
「まさかそんな事……あるわけないだろう」
「本当、ですか?」
表情を輝かせた秀穂の顔はどこか幼く、可愛い。いや、ここで流されてはいけない。
「だが、一体どうした……突然、こんな……小姓の仕事からは逸脱している気がする、が」
そう言われた瞬間、秀穂の眉が下がる。遠回しにたしなめられているような気がしたからだ。
「……はしたないと、お思いですか?」
確かに小姓と主人の関係であれば、こんな事はしない。
「ですが、今日は恋人同士と仰られたのは貴方です」
「秀穂」
「蒼様」
乱心したと思われた秀穂が突然意志の強い声で主の名を呼び、姿勢を正したのにつられ、蒼龍も思わず背を伸ばしていた。しかし、キリリとした姿勢や声に反し、秀穂の表情はどこか頼りなさげだ。
「……私には、子を育てる胸もないし子を成す子宮もありません。貴方の子種を受け入れることすら不可能です。それはつまり、確実に私は貴方に一つの人としての、男としての幸せを与える事が出来ないということ」
「秀」
「俺にあるのは、貴方に対する忠義と」
そこで一度秀穂は言葉を止め、何か戸惑うように視線を彷徨わせ、落ち着いたのは床だった。
「……それを若干上回る恋情だけです」
視線と共に落とされた言葉に蒼龍は息を呑んだ。こんなにもはっきりと好意を告げられたのは初めてのような気がする。
「ですから、蒼龍様……」
秀穂がその次に何を言おうとしたかは蒼龍は知らない。知る必要も、言わせる必要も無かった。
「それだけあれば、充分だ」
いや、しかし従順だ。
自分の下で大人しくされるがままになっている部下に驚くよりも感動さえ覚える。今日は恋人、つまりは対等な立場であると暗に示した時、密かにそれなら抱かせろと言って来るのではないかと少々心配していたのだが、杞憂だった。それどころか普段はどこか我を保とうとしていた彼が快楽に身を任せている。白い背が赤く染まっているのがその証拠だった。
「そうさま、ん、気持ち良い……」
あ。可愛い。
小姓として抱かれていた時はそうした甘えた声など上げてもらえなかった。娼妓ではなく小姓、その教えをしっかりと守っていたのだろうが、守りすぎだ。さらに、秀穂が成長し、体つきも男のそれになってきた頃、秀穂に抱きついたら「俺はもうそのような年齢ではありませんので」とあっさり断わられ、別な少年小姓を寄越されたこともあった。今思い出しても結構傷つく瞬間だった。
「秀……」
「あ、や……」
腰を押し進めるたびに甘い声を上げる背に今までの仕返しとばかりに舌を這わせると、細めの肩が震えた。前ならこの背に流れていた細い髪がないのは少し残念だが。
「……王座より、国より、お前一人を守りたいと言ったらお前は怒るんだろうな」
「え……?」
小さすぎる呟きを聞き取れなかった秀穂が後ろを振り返るが、それには曖昧な笑みを返す。
「俺も、お前一人だけを想えたら良かった」
今の一言はちゃんと秀穂も聞き取れ、熱に埋もれていた頭が少しだけ正常に戻る。僅かに体が硬直した事に繋がっている彼も気付いたのだろう。再び熱に溺れさせて今の言葉を誤魔化そうとしてるのだろうか、彼が律動を始めた。おかげで、言おうとしていた言葉の代わりに嬌声が口から漏れる。
前なら、自分も聞き流していたはずだ。ただの小姓が貰って良い言葉ではないし、受け取る度胸もない。
けれど、今日は恋人だと言ったのは、貴方だろう。
熱で白み始めていた意識の中、見つけたのは蒼龍の手だった。ベッドに置いて重心を保っていたその手に口を寄せる。手の甲への接吻は忠義の意だと聞いたことがある。そういう意味ではなかったが、蒼龍の動きが止まる。
「秘色、さま」
白い手を舐めるとその手が僅かに震える。何かに怯えているような震えのような気がしたのは気のせいだろうか。
彼が不安に思うようなことは何一つとしていないはずだ。蒼龍を不安に思わせるようなことは何一つとしてしてはいけないことだった。何の不安も無い中で、精一杯この国の運営をしてもらう。それが、部下である自分達の役目のはず。
いや、好きな相手の不安を取り除くのが、好いて好かれた立場の役目、というのが今は正しいのか。
「俺はちゃんと秘色さまをお慕いしております、から」
目の前にある白い手をそっと撫で、目を閉じた。
まるで夢を見ているような心地だ。温かくて気持ちが良い。いや、夢なのかも知れないけれど。
けれどこの一言だけは、彼に届いていれば良い。そう思う。
「和泉―、いるか?」
翔は南寮の扉を叩いていた。南寮に一人で来るのは流石に怖かったので、ルームメイトの克己と一緒に。
先ほど和泉に上げたチョコレートに一服盛られていたことを、何故か生徒会役員の高遠に教えられて、慌てて和泉のところに来たのだが、返事がない。
「いないんじゃないか」
克己の方は、変なものを翔が口にしなくて良かったと思っているので、和泉のことは大して気にかけていない。
しかし、本当に応答がないので、そう考えるのが妥当だ。
「うーん、でも何か置手紙とかしてった方が」
そう翔が考え込んだ時、扉が開いた。
「和泉!……って、あれ?」
ほっとして声を上げたけれど、そこにいたのは和泉ではなく、知らない青年だった。確か、和泉の所在を聞いてきたあの青年だ。
「……どうかしたかな?彼は寝ているが」
彼はにっこりと笑い、用件を尋ねてくる。どことなく高貴な空気に圧倒されていた翔はハッとして慌てて説明を始めた。
「あ、えーと……俺があげたチョコレートなんですけど、あれ、何か変な薬入ってたみたいで……あ、食べてもすぐに効果は切れるらしいんですけど、なるべく食べないようにって伝えて貰いますか?」
「……チョコレート?」
青年は少し不思議そうな顔をし、そして何かを納得したように目を上げ、笑う。
「そうか、有難う。君の名前は?」
「あ、日向って言えば分かります。日向翔です」
「日向くん。そうか……ところで、君、何か欲しい物とかあるか?」
「へ?」
「翔!帰るぞ」
そこで克己が突然横槍を入れる。彼は人一倍警戒心が強いので、見たことも無い相手を警戒しているらしい。しかし、そんな克己の態度を青年は小さく笑い
「ああ、別に他意は特にないから安心してくれ。軍は忙しいと聞く。ならば、休暇とかはどうだ?」
そう言い、彼は「少し待て」と言いまた部屋に帰って行った。その間に克己は帰りたがっていたが、待てといわれたので待ってみようと翔がたしなめていた頃、再び扉が開いた。
「これを、誰でも良いから生徒会の人間に渡すと良い」
顔を覗かせた青年が渡してきたのは、封書だった。しかもきちんと糊付けされていて、勝手に破く事も出来ず、仕方なくそのまま二人で高遠の元に行き、封書を渡す。
中身を見た高遠は眉間を寄せ、その手紙と1年生2人を見比べ、最後にため息を付いて一言
「……お前たち、二日間の休暇をやる。特別手当を出すから、温泉にでも行って来い」
「え?」
「良いから早く行け。金は会計から貰っていけ。俺は取り合えず関わりたくない」
1年生には理由をいう事は出来ないが、高遠は王室の人間にはなるべく関わりたくないのだ。そんな相手からこの手紙を持って行った二人に休暇と温泉旅行が出来る程度の特別給与を、と蒼龍の印入りで指示をされたのだ。逆らうわけにはいかない。逆らって面倒な事になるのも面倒だ。
生徒会から締め出された翔は思わぬ金一封に首を傾げる。
「……どーするよ、克己」
「……とりあえず、行くか?」
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