『ま、真弘!俺、お前が好きだ!』

 俺は、小学4年生の時に人生初めての告白をした。

『功くん……』

 相手は女の子に負けないくらい可愛かった立山真弘。

 で、返事は

『プリン……』

『え?』

『給食でプリンが出たら、僕にくれる?』

『やる!』

 妙な条件付だったけれどその時の俺は嬉し泣きまでしてしまった。

 でもそれは7年も前の話。












「功、プリン買ってきてくれた?」

「……はいはい、あるから」

 今では身長の高さは大逆転されてしまい、可愛かった真弘は180センチ。俺は167センチ……。

 けれど

「なぁ、今日駅前に新しいお菓子屋出来たんだ!一緒に行こう、功」

 真弘の甘いもの好きは健在だったりする。

 髪は茶色で今時の若者って感じの格好良さなのに、どうなんだ、オイ。

 ついでに言えば、俺はまだコイツが好きで、っていうかあの時の告白って結局どうなったんだろう。

 あの頃はガキで付き合うったって何をすればいいのか解らなかったから、結局友人の時と同じ。

 周りからはからかわれたりしたけれども。

 うあー、ぜってぇなかったことになってる。と、最近思ってみたり。

 だって、一応OKもらったけれど……確かに給食時にはプリンを捧げていたけど。

 恋人らしい行動なんてしたことないもんなぁ……。うむむ。

「功?」

 急に考え込む俺に真弘が不思議そうに呼びかけてくる。

「どうかしたのか?」

「……ナンデモナイデス」

 今更昔のことをほっくり返してもなぁ。

 かといってもう一度俺から告るのもなぁ。……一回告白しているわけだし。

「立山せんぱーいv」

 そして今日もあの後輩がやってくる。

「今日はクッキー作ってみたんです!」

 一年の山口貴樹。真弘と同じ天文部で、お菓子作りが得意らしい見た目可愛い後輩。

 なんだか知らんが真弘に懐いている。

 で、ほぼ毎日昼飯時にお菓子を持ってきてくれる。

「山口の作ったものは美味いからなぁ。楽しみにしてるんだよ」

 真弘も真弘で嬉しそうに差し出されたものを受け取っているし。ううう……、もうお前等付き合っちまえー。なんて思ってみたり。

「本当ですか?僕明日も何か作ってきます!何がいいですか!?」

 はいはいもう勝手にやってください。

 二人をほおって俺は一人で教室に入った。これが最近の俺の昼休みの状況。

「功!買出しごくろー。アレ、立山は?」

「……山口に捕まってる」

 俺の低い返答に相手も不味いことを聞いたと察したらしい。彼とは小学校からの付き合いだ。例の告白のことを知っている。

「また餌付けされてんのか?」

「餌付けって言うな」

 まぁ、確かにそれらしいところはあるが。

 頼まれたパンやらジュースを机にばら撒いてため息をつく。

「え?あの二人付き合ってんじゃねーの?」

 別なクラスメイトからの言葉に俺は硬直する。

「天文部の奴らが言ってたけど?あの二人付き合い始めたって」

「はぁ……?い、いつから!?」

「え、な、夏?」

 夏!!

 って3ヶ月も前じゃねーか。

「・・・・・・アレ、功・・・知らなかった・・・とか?」

 不味いことを言っちゃった・・・?とそいつは口元を引くつかせる。

 ああ。かなり不味いことを言ったよ、お前。

 今まで敵はプリンしかいないと思っていたのに!

 ってかあの山口はプリンにも勝利したということで……。

・・・・・俺、なにやってんだろ。

「アイツ……!」

「こ、功!落ち着け、な?」

 小学校の時からの付き合いで俺の気持ちを知っている林がわたわたと慌て始める。

「何かの間違いだって、な?」

「くそ……俺の5年間分のプリンを返せ!」

「……って、そっちかよ」

 俺だってプリン好きだったのにー!

 なんだか段々腹立ってきた。

 くるりと振り返ると丁度真弘と山口が一緒に教室に入ってくるところ。

 真弘の手には先程俺が買ってやったプリン。

 頭のどこかで何かが切れた。

 机にあった自分の昼用の焼きそばパンを引っつかんで彼らのほうに向かって歩き始める。

「俺、今日外で食べるから」

 林たちにはそう言って。

「功?」

 教室の外に向かう俺に真弘が不思議そうに声をかけてくる。

 すれ違う寸前に彼の手にあるプリンを取り上げた。

「功!?」

「……真弘の馬鹿!!」



 こうして俺は3ヶ月遅れの失恋を知ったのだった。


「ちくしょ〜〜〜」

 人通りの少ない中庭でえぐえぐ泣きながら焼きそばパンに噛り付いた。

 情けなくて泣けてくる。

 ……情けなくて泣けるのか?真弘に対する失恋ではなく?

 ああもう、わっけわっかんねー!!

 左手にはさっき奪い返したプリンが。

 食う気しないけど・・・7年ぶりのプリンだ。

 元恋敵・・・・・・。

 そう思うとやっぱり食う気しない。

「・・・・・・なにやっているんですか?」

 プリンを睨んでいると、頭上から声がかけられた

 上を向いても誰も居なくて、首を傾げていると背もたれに使っていた木の葉がわざとらしいほど鳴る。

「ここです」

 木の上でのんびり寝転んでいる男発見。

 彼は自分が気付いたからなのかすぐそこから飛び降りてきた。

「お前、誰?」

 格好良さげなルックスを持っているから、同輩だったら噂が聞こえてきそうだ。

 彼はちょっと笑って一年です、と答えた。

 って・・・・・・この身長差で後輩かよ。真弘並に高いじゃねーか・・・・・・。

 うおおお、思い出すな俺!!

「コレ、お前にやる!」

 手に持っていたプリンを差し出すと相手はきょとんとした顔になる。

「・・・・・・泣くほど食べたかったんじゃないんですか?」

「違うッ!」

 そんな感激の涙じゃねーんだよ、この涙は――!!

「嫌い、なのッ!俺には勝ったくせにアイツにはあっさり負けやがって!」

「?先輩……俺にはよく分からないのですが」

「いいから、食え!」

 紙スプーンを投げ付けると相手も仕方ない、という感じでアルミの蓋をびりり〜と開けた。

 ああ、ちくしょう・・・美味そうじゃねーか。

「先輩、いただきます」

「どーぞ」

 答えながら俺は涙を拭いた。

 真弘の馬鹿―。

 なんて思っていたら

「先輩」

 目の前にプリンの乗ったスプーンをつき付けられ、条件反射で口を開けてしまう。

 カスタードの甘い香りとカラメルのほろ苦い甘さが・・・・・・。

「ちくしょー、おいしい〜〜」

 涙復活。

 なんだかもう何で泣いてるのかわかんなくなってきた。

「そんなに好きなんですか・・・・・・?」

 せこせこプリンを食べさせてくれる後輩の質問に、さらに涙が溢れてくる。

「そうだよ、ずっと好きだったんだよ!7年!なのに、なのに」

 真弘の馬鹿――!

 そう叫ぶと後輩の手がぴくりと止まった。

「・・・・・・振られたんですか」

「うるさーい!」


 昼休み中俺はその後輩に泣きながら愚痴を言っていた。

 名前も知らない相手になにやってんだと自己嫌悪に陥ったのはその日の夜だった。


 泣き顔を見られてしまった俺としてはあの顔の良い後輩は二度と会いたくない相手ナンバーワン。

 絶対に会わないように気をつけないと、と意気込みながら学校へ登校し、一日をすごした。

 のに。


「先輩、一緒に帰りませんか」

 何故かソイツはわざわざウチのクラスにやってきた。

「お前!」

「あはは。そんなに喜ばないでくださいよ」

「喜んでねーっての!」

 否定されても何故かコイツは嬉しそうで。

「功?どうした」

 いつも一緒に帰っている真弘が不思議そうにこっちを見てくる。

「あー、何でもない!」

「そうです。何でもないですよ。俺は功先輩をデートに誘っているだけです」

 っていきなり名前呼びかよ。

 ・・・・・・・アレ?今、デートって言わなかったか?

「そういうわけで、行きましょう功先輩」

「悪い、俺知らない人についていっちゃ行けませんって言われてるんだよ」

「1−5の内海正紘です」

 え?

 俺はヤツの名を聞いて少し驚いた。

 まさひろ、だって。真弘と一緒だ。

「これでいいですね、さぁ行きましょう」

 ずるずると引きずられるように俺は内海に連行された。

 

 連れて来られたのは街の中の喫茶店。



「さぁ、どうぞ先輩。好きなだけ食べてください」

 笑顔でいうヤツの言葉に俺は目が点。

 テーブルいっぱいに並べられたプリンプリンプリン・・・・・・・・・・・・。

「・・・・・・内海」

「なんですか?」

「嫌がらせか?」

「とんでもない。ここ、俺の叔父さんが経営している店なんですよ。遠慮なく食べてください」

「や・・・・・・お前」

「これ、一応全部俺作なんですよ」

 お前今さらりと凄い事言っただろう・・・・・・。

 俺の目の前に並べられているのはプリンが必ず鎮座しているパフェやらアラモードやら。

 ただのプリンじゃなくて、抹茶とかチョコのものもある。

 盛り付けも完璧だ。

「結構好きなんですよね、こういうの作るの」

 好きの範囲でここまで出来るのなら大したものだ。

 拒否するのも勿体ないのでそれなりの覚悟をしてスプーンを握った。

「先輩、食べながらでいいんで聞いてもらえます?」

「ん?あ、お前コレ美味い!」

「有難う御座います。で、俺先輩が好きなんですよ」

 だからさらりと凄い事言うな!折角のプリン噴出すところだったろうが!

「はぁ〜〜?」

「本当ですよ、俺あの木の上でずっと先輩をどうやって落とそうか考えていたんですから」

 そんな時に丁度良く先輩が、と彼は苦笑する。

 そんな、鴨が葱背負ってきたみたいに言うな。

「あの木に登ると、先輩のクラスが見えるんですよ。で、あの・・・・・・立山先輩がプリンを食べているのを見て物欲しそうにしている

先輩の顔凄く可愛くて」

「そんな顔してない!」

「いーえ。してました。で、この人に俺の作ったお菓子食べて欲しいなーって思ったんですよ、俺は」

 胸を張る内海に俺はどうすればいいのかわからず、とりあえずプリンを食べる事にした。

 お世辞無しで美味いし。

「今はまだダメでも、いつか絶対俺の事名前で呼ばせてみせますから」

「無理だよ。お前真弘と名前被ってんじゃん」

「だから、立山先輩のほうを苗字で呼べばいいじゃないですか」

「はぁ?」

「遠まわしに言ってもダメなら直接的に言いますよ。俺の存在を、立山先輩より大きくしてみせるって言っているんです」

 何でそんなに自信満々。

「無理だね。俺、一応7年片想いしてたんだぜ?」

 鼻で笑ってやると内海はにっこり笑った。

「俺結構自信ありますよ」

 上等じゃねぇか。

 喧嘩を売られている気分で俺もにやりと笑ってみせる。

「面白い。やってみろ」

 
 妙な駆け引きが始まって、俺は最初気付いていなかった。

 失恋したはずなのに、感傷に浸ることがないのは内海のお陰だということに。

 最初から負けていたのだと知るのは、もう少し先の話。

 











end






ギャグです。

俺、プリン好きなので・・・・・・・。