昔から可愛い、と言われ続けてきた。
 
 確かに女顔ということは自分でも認めているし、そう言われるのも慣れた。

 ついでに男に告白されるのも慣れた。それを振るのも慣れた。

 けれど



「矩さんが好きです!付き合ってください」



 と、目の前に顔を紅くして叫ぶ少年。ここまではいつもどおりなんだけれど。

 それが自分より可愛くてちっこい相手の場合、どうすればいいんだろう。


「・・・・・・俺のどこが好きなの?」


 そう聞くと彼は可愛い顔を紅くして



「可愛いところです!」



 クリティカルヒットだった。


 自分より可愛い少年に可愛いと言われてしまった。

「駄目ですか・・・・・・?」

 そんな子犬みたいな目で俺を見るな!犬は好きなんだよ!

 ガタイのいい男相手なら冷たくも出来るけれど、こんな小動物相手に冷たく出来るほど俺は冷徹な人間じゃない。

「あ・・・・・・のさ、でも俺君の事何も知らないし・・・・・・」

「芝浦雄大、3−Aでサッカー部やってます!」

「って年上かよ!」

 思わず叫んだ事に芝浦は目を丸くした。
 だって俺だって背低いんだ!160有るか無いかだし・・・・・・。
 そんな俺より低いんだぞ!?どんだけ発育途上なんだ!

「年上は、嫌い?」
 
 けれど彼はこりん、と小首をかしげてきた。
 その動作、計算してやってんじゃねぇだろうな・・・・・・。

「き、嫌いじゃない・・・・・・デス」

「よし!じゃあ決まり!」


 え。


 何故そんな早い展開になるんだ!

「ちょ、待って、芝浦先輩、俺は」

「・・・・・・矩君俺のこと嫌い?」


 上目遣いで涙を浮かべられ、陥落させられてしまった。






 俺は、小さい頃からちっこいものや可愛いものに弱かった。

 でも、そんなことが周りにばれるとまた「可愛い」とか「らしい」とか言われてしまうので、その事をひた隠しにしてきた。

 今も隠せている、と思うけど。

 放課後の教室の窓から校庭を走り回っている小さな体を見つめながら俺はため息をついていた。

 芝浦雄大先輩は今日も部活でハッスル中。

 俺は、それが終わるのをひたすら教室で待っている。勿論、一緒に帰る為だ。

 好きとかはまだよくわからないけど、一応俺たちは付き合っている。それを知られた友人たちには百合だとかなんとか言われまくったが。


 でもまぁ。


 こっちの視線に気がついたらしく、芝浦先輩の表情が満面の笑顔に変わりぶんぶんこっちに手を振ってきた。

「ただすくーん!!」

 先輩が可愛いから個人的にはオールOK!!

 俺も誰かと恋人同士になるなんて初めてだから、正直どうなるかと思ったけど。多分なんとかなっているんだろうなぁと思う。

 先輩の走る姿はパピヨンみたいにちゃかちゃかしてて、先輩の食べる姿は子リスみたいにもしゃもしゃしてる。

 なんかこう、衝動的にぎゅーってしたくなるんだよなぁ。最近はその衝動を抑えずに抱きしめてるけど。

 恋愛感情ではないけれど、俺はそんな先輩が大好きだ。

「矩君!」

 練習が終わった先輩は急いで俺の待つ教室にやってくる。その姿は本当に子犬だ。

「ごめんね、またせて〜〜」

 ぎゅう、と彼が抱き付いてくるのを子犬がじゃれてくるような感覚で答える。あぁ、可愛い。

「いいよ。早く帰ろう」

 思わず強く彼を抱きしめると腕の中で先輩が笑う。

「矩君、可愛い」

 いや、あんたの方が可愛いから!!

「先輩のほうが可愛いよ」

 そう言いながら彼の体を抱きしめてると不意に彼の腕の力が弛んだような気がした。

 気のせいか?

「ね、矩君、なんか食べて帰ろう。俺お腹減った」

 先輩は運動部だからそうなっちゃうのも仕方が無い。

 食べてる姿を見るのも俺の楽しみの一つになっていたから、頷いた。

 大体は財布に優しいファーストフードで放課後を過ごす。

 先輩はハンバーガーを5個くらいぺろりと食べる。そのちっこい体のどこに入るのか知らないけど取り合えず俺はアイスティーのみでその姿を愛でるんだ。

 さらさらした黒髪でそれと同じくらい黒い大きい目を持つ先輩の食べる姿に目が行くのは俺だけじゃないようで、視線を感じるときがある。

 こういう時に働くのは保護欲っていうのかな?

 なんか、悪い虫から先輩を守らないと!とついまわりを威嚇してしまう。

「どうしたの?矩君。機嫌悪い?」

 そんな俺の様子に先輩は首をかしげ・・・・・・あぁ可愛い。

「いや、そんなことないよ」

「そうかな?」

 うぅーん??と彼はさらに首を傾げる。

 いや、本当に可愛いから止めて下さい。

「あ、じゃあ俺ん家行こうか?」

 場所が悪いと判断したのか彼はそんな提案をしてくる。勿論、俺は目を輝かせて頷いた。

「行く!」


 だって、だって、先輩の家には!!



「りょん!久し振りぃ〜〜」

 先輩の家に着いて玄関を開けた途端に小さい毛玉の塊が俺に飛びついてくる。

 わん、と元気良く鳴くのは先輩が飼っているパピヨンのりょん。

 これがまた可愛いんだよ、飼い主に似るって本当だなぁ。

 やわらかい毛に顔を埋めていると頬を舐められた。うわぁ、もう可愛い!

「矩君、俺の部屋に行こ」

「うん!あ、りょんも連れて行っていい?」

 腕に抱えたりょんを手放すのは凄く惜しくて、いつもみたいに聞いた。

 そしたら、先輩はむぅと顔を膨らませる。

「ダメ!」

「へ?」

 そして俺の腕からりょんを奪い取って先輩の部屋の隣のお兄さんの部屋にりょんを投げ込んだ。

「先輩?」

 強く手を引かれて部屋に入ると、彼は俺を強く睨んでくる。睨むというより、拗ねてるって感じか?

「矩君は俺とりょんとどっちが大事なんだよ?」

 へ?

 えーと・・・・・・。

「いっつもりょんとばっかり遊んでるんだもん。俺つまんないよ」

 ヤキモチ、妬いてる?先輩。

 うっわぁぁぁ。

「先輩可愛いー」

「もー!矩君!」

 ちっこい体を抱きしめると困ったように彼は俺の背中を叩いてきた。

「ラブラブはいいけど、りょんを巻き込むなよ」

 ごろごろじゃれていたら後で凄く低い声がした。

 先輩のお兄さんの高智さんだ。大学生の彼にしては珍しく家にいたらしい。俺も二三回しか会った事ないけど、実は無茶苦茶カッコイイ。背も多分180以上あるし、先輩と並ぶと大人と子供の身長差だ。

 そんな高智さんはりょんを片手にドアのところに立っていた。

「あ、お邪魔してます」

「いらっしゃい、矩君。相変わらず可愛いね」

 高智さんくらいの人に可愛いと言われると流石にときめく。

「兄貴・・・・・・りょん連れて出てけ」

「おーや。ゆうくんったら怖ぁい」

 あはははははと笑いながら高智さんは部屋から出て行った。何しに来たんだ。

「矩君!」

 と、思ってたらいきなり先輩が背中に飛びついてくる。うさぎが乗っかったみたいだ・・・。

「ねぇ、俺のこと好き?」

 そして彼は時々唐突にこの台詞を言ってくる。

「?好きだよ」

 だって可愛いし。

 そう笑顔で答えるといつも先輩は顔にキスをしてくる。なんか、うさぎあたりに鼻をこすりつけられてるみたいだ。

 可愛いなぁ。

 俺は、この生活に結構満足だったんだけど。




「先輩も難儀だよなぁ」

「は?何が」

 そんな俺たちの生活を、俺は友人である間野に時々惚気たりする。

 惚気っていうか、先輩観察日記っていうか。

「だって、先輩も男だぞ?可愛い可愛い連発されて、しかもお前くらい可愛い相手に。嬉しいわけないだろ?」

「って・・・・・・俺も可愛いって言われてるんだけど」

「お前は別格!」


 何故。


「なんか、お前先輩のこと恋人じゃなくて愛玩動物かなんかだと思ってねぇ?」

 間野の指摘は図星だった。

 そんな事、言われても可愛いもんは可愛いんだから仕方ないじゃん。

 そう思いながらいつものように教室から子犬みたいに校庭を走り回る先輩を眺めていた。

 まぁ、可愛い事はやっぱり可愛いんだけどさ。

 シュートを決めてガッツポーズ決めてる姿とか、ボール取られて悔しがってる顔とか、なんだか今日はよく目に付いた。

 サッカーをやる先輩の横顔は普通に格好良くて。

 可愛いだけじゃなくて、カッコイイ面もあるんだなぁと。

「あ、矩くーん!」

 俺を見つけて満面の笑みで手を振ってくる姿は可愛いとしか言いようが無いけど。

 後で、格好良かったね、とでも言ってあげようかな。

 なんて思っていたら。

「お、居た居た。お前、衛藤矩だろ」

 聞き覚えの無い声が俺の背を叩いた。

 振り返ると知らない顔の男子生徒が3人、俺を見てにやにやしている。


 ・・・・・・?何だ?


「あの芝浦と付き合ってるっていう?」

 1人が近付いてきて嫌な笑い方をした。

「どうして可愛いもん同士がくっ付いちまうかねぇ。てか、お前らどっちが上なわけ?」

 よくわからないけど、なんだか俺は絡まれているらしいことはどうにか理解できた。

「俺に、何の用?」

 後ずさっても後は窓。因みにここは3階だ。飛び降りれる高さじゃない。

 くそ、3対1なんて卑怯すぎる!

 身構えるとそれを見た奴等は面白そうに声を立てて笑った。

「やめとけやめとけ。怪我するだけだ」

「そうそ。大人しくしてたらそれなりに気持ち良くしてあげるし」

 んんー??

 状況が理解できない俺に一人が飛びついて来て床に押し倒した。後頭部が思いっきり床にぶつかり、一瞬意識が飛んだ。

「ちょ・・・・・・っ何するんだよ!」

 自分が危険なことになっていることはわかったから、上に乗っかってきた男のアゴを思いっきり殴ってやった。と思ったのにその拳は男の大きな手に受け止められていた。

「大人しくしてろよ」

 しゅるりと俺のネクタイは外され、Yシャツは男が乱暴に引っ張りボタンが弾け飛ぶ。

 な、なんだ?どういう状況なんだ、コレ!!

 パニックになりつつある俺の耳にサッカー部の部長の「今日はここまで」という声が入ってきた。

 先輩が、ここに来る!

 それを知ったのは俺だけじゃなくて、彼らもだったらしい。

 これで慌てて逃げるだろうと思ったが、俺のそんな考えは甘かった。

「じゃあ、アイツも混ぜて5Pか?」

「いいねぇ」

 はぁぁぁぁ!?

「ちょっ!お前ら!先輩には手ぇ出すなよ!?」

 あの人は無茶苦茶可愛い人なんだー!こんな奴等に手をだされて堪るかよ!!

 けれど、両手を拘束された俺の訴えはあっさり阻却され、っつーか聞く耳持たないしこいつ等!!

「聞けよこの馬鹿!!」

 唯一自由になる足で、上に乗っかっているヤツには攻撃できなかったけどその隣に居るやつのわき腹を思いっきり蹴り飛ばしてやった。それが相当痛かったらしく、そいつは低く呻いていた。

 ざまぁみろ!

 けれど、その攻撃は思いっきり裏目に出てしまった。

「少し大人しくしてろよ、もう少しでセンパイも来るんだし」

「痛!」

 上に乗っかっていたヤツがいきなり俺の首元噛んできやがった。

 ガリって音がした気がする。

 え、つか・・・・・・。

「矩くーん遅くなってゴメン」

 タイミング悪く教室のドアがガラリと開いた。

 男の影になって俺には見えないけど、他二人が動いたのを見て俺は咄嗟に叫んでいた。

「先輩!逃げて!」

 その瞬間、聞こえたのは、悲鳴。

 ああ、先輩お願いだから逃げてくれ!!

 思わず俺は強く目を閉じていた。なんか、殴るような音が聞こえる。

 先輩が危ない!?

 ぱっと目を開けると同時に俺の上に乗っかっていた体重が消えた。

 ・・・・・・アレ?

「矩君!」
「先輩・・・・・・?」

 気がついたら教室には俺と先輩しか居なかった。

 ・・・・・・あれぇ?

「大丈夫?」

「・・・・・・あいつ等は?」

「ん?ちょっと殴った」

 ちょ、ちょっと?

 なんか、結構骨とか折れていそうな音がしたんだけど・・・・・・。

「先輩、怪我は!?」

 慌てて身を起こして先輩の両肩を掴むと、彼は首を横に振る。

 よ、よかったぁぁぁぁ・・・・・・。

「矩君」
「はい?」

 ほっとしていた俺の顔にずい、と先輩の顔が近寄る。

「“逃げて”って、何?」

 へ?

 その時初めて気がついた。先輩が、なんか凄く不機嫌なのに。

「先輩?」

 ど、どうしたんだろう。

 なんか、スゴイ焦る。だって、俺先輩に睨まれるなんて初めてだし。

 ワケが解かっていない俺に、先輩はとうとう怒鳴る。

「好きな人が、他の男に何かされてるってのに、逃げれるわけないだろ!?」

 ・・・・・・えーっと・・・・・・。

「何怒ってんの?先輩・・・・・・」

 だって、俺だって先輩のこと好きなわけで、俺もそれを助けようとしただけで。

「何って、矩君!何が起こったかわかってないだろ!!」

 何って、男に襲われかけた・・・・・・けど。

「でも、俺、こういうこと結構あるし」

「はい!?」

「電車とかに乗ってても痴漢とか会うし」

「あぁ!?」

「だから別にどうにか出来るかなーって・・・・・・」

 うん。一応こんな顔だからそういう危険な目にあったことはある。

 そのたびにどうにかなってたから、今回もどうにか出来るだろうなーって思ってて。

 でも先輩を庇えるほどの力は無いから逃げて・・・って言ったんだけど。

「矩君・・・・・・」

 何故かがっくりと脱力する先輩。俺は何か変なことを言ったか・・・・・・?

「なんでそういう事俺に言わないんだよ!」

 へ?

「だ、だって・・・・・・」

「俺じゃ、どうにも出来ないって思った?」


 ・・・・・・これ、頷いちゃったら怒られるよな。


 だって、先輩俺より可愛いし、ほっそいし。反対に何かされそうだもん。

「先輩を危険な目に合わせるわけには」

「やっぱりそんなこと思ってんだ・・・・・・」

「だって・・・・・・先輩だし」

「言っとくけどね、矩君。俺だって体ちっこいけどスキあれば矩君襲ってやろうと思ってるんだけど」

 お、襲う・・・・・・って。

 先輩がぁ?

 こんな子犬みたいな先輩が俺を襲うって・・・・・・。

「あ、矩君、何笑ってんの?」

 笑って・・・・・・るのか、俺。

「だって、想像つかないよ、俺が先輩に襲われてるなんて」

 犬みたいにじゃれ付いてるような感じにしか見えない。

「・・・・・・なんなら今襲ってやろうか・・・・・・」

 ボソッと呟かれた不穏な言葉を俺は聞き逃していた。

「だって、先輩俺より身長低いじゃん」

 それに、可愛いし。俺の方が襲うほうじゃない?

「・・・・・・じゃあ、矩君、こうしない?」

 先輩は可愛い笑顔で俺の顔を覗きこんできた。

「先に身長が180になった方が、男役っていうのは?」

 ・・・・・・男役?

「男役って、何の?」

 俺の頭の中では社交ダンスをする男役、が。

 俺、それじゃあ男役も女役も出来ないよ。だって、ダンス出来ないし。

「・・・・・・何って、セ」

「言わなくて良いです!」

 あっさりと先輩の小さな口から驚きの単語が飛び出した。

 って、それって男同士で出来るのか?

 それを、俺と、先輩でぇ?

「あ、ちょっと、何また笑ってんの!?矩君!なんか可愛いけどムカつくよ!」

 なんか怒ってる先輩にぐにーと頬をつねられた。

 だって、マジで想像出来ないんだよ、そんなの。

「それとも矩君、180になる自身、無い?」

 ム。今、俺の身長160ちょい。

 180はあこがれの身長だ。

「ありますよ!」

「んじゃ、決定ねー」

 あ。

 嬉しそうな先輩の声に何となく早まったような気がした。

 でもまぁ、俺より先輩背低いし、俺の方が早いだろう、多分。

 さて、帰ろうとして、俺の足元には3人の男がまだ転がってる。・・・・・・これ、どうすればいいんだ?

「あ、矩君、ちょっと先に昇降口に行ってて。俺、この人達保健室に運んでくから」

 保健室?

 わー、先輩やっぱり優しいなぁ・・・・・・。

 俺は先輩の可愛い笑顔に疑いもせず頷いていた。

「俺も手伝うよ!」

「あ、いい。俺一人で充分だから〜」

 可愛い笑顔に押されて、俺は先に昇降口に行く事にした。

 でも、大丈夫かなぁ・・・。いきなり襲われたりしないかな・・・・・・。


 昇降口で5分待っても来なかったら引き返そう。



   ×××




 俺は矩君を笑顔で彼の背が見えなくなるまで見送り、教室の扉を閉めた。

 矩君、可愛いんだけど、ちょーっと鈍いからなぁ・・・・・・まぁ、そこも可愛いんだけど。

 床に転がっている3人を振り返り、俺は笑顔を消した。


「おい、ゴルァ!目ェ覚ましやがれ!」


 思いきり失神中の男一人の頭を蹴り上げると、痛みに呻く声が。相当痛いはずだ、何たって俺はサッカー部のエースだからな。

 えーと、多分矩君の事だから、5分経ったら様子見に来ようとか思ってるだろうから、4分くらいだな。

「う・・・・・・っ、し、芝浦・・・・・・っ?」

 今まで見たことも無い俺の様子に3人は悪い夢でも見ているような顔で俺を見る。まぁ、お望みどおり悪い夢を見せてやるけど。

「テメェらよくもまぁ、他人のモノに手ぇ出してくれたよなぁ?この落とし前どうつけてくれるんだよ、あぁ!?」

 可愛い、とよく言われる顔だけど、今はそんな事言えるような表情じゃないだろう。3人の恐怖の顔を見ればそれが良く解かる。

 因みに、体術の方もかなり自信がある。小さい頃から空手と柔道やっていたからな。これでなんで本当にこんなに体が小さいのか不思議だけど、遺伝なんだから仕方ない。

「それなりの覚悟があっての行動だと思っていいんだな?」

 少し手に力を入れるとゴキ、と骨が鳴る。

「し、芝浦、ち、違うんだ。俺たち、アイツに誘われたんだよ!」

 今日はこれくらいで許してやろうと思ったのに、彼の言い訳にその優しさも吹っ飛んだ。

 矩君が、誘った?あっは。

「ざけた事言ってんじゃねぇぞ!」

 サッカーで鍛えた蹴りが炸裂し、教室は3分間阿鼻叫喚地獄絵図と化す。

 矩君には絶対みせられない俺の本性、と、18禁指定されそうな教室の状況。


 返り血、気付かれないように洗っていこうっと。




     ×××



「矩君、お待たせ〜〜」

 可愛い笑顔でてこてこやってきた先輩の姿にほっとする。

「大丈夫だったの?先輩」

「ん〜〜?何がぁ?あ、ちゃんと保健室に連れてったから!」

 偉い、先輩偉いよ!!

 その笑顔に俺は感動していた。

「ね、矩君、朝電車ってどこから乗ってくるの?」

「ん?笠の江駅だけど」

「じゃあ、俺も明日からそこから乗るから、学校に一緒にいこ?」

 大きい目にじっと見つめられてのお願いに俺は首を縦に振っていたけど・・・・・・。

「え、でも先輩、一駅先じゃ」

「いいの!だって、矩君痴漢に会うんでしょ?俺が退治してやるの!」

 ぷんぷん怒ってる先輩のほうが狙われそうだよぉ・・・・・・。

「でも、先輩〜〜」

 だって、本当に痴漢に会わない日の方が少ないくらいで、先輩なんて良いカモだよ!

 わたわた慌てる俺に先輩は首を横に振った。

「俺だって、男なんだから。好きな人守りたいって思うんだ!それに・・・・・・」

 突然先輩は俯いて、くっと何かを堪えるような声を出していた。

「先輩?」

「俺、情けないよ・・・・・・。好きな人がピンチの時に、“逃げて”なんて言われるの。俺、もっと矩君に頼って欲しい」

 ぱっと顔を上げた先輩の目が本当に真剣で、なんていうか、格好良くて。

 胸が、少し高鳴ったのは気のせいか?

 可愛いなーって、毎日ドキドキしてるけど、それとは少し違う。

 あ、あれ?どうしたんだろう、俺・・・・・・。

 少し顔も熱くなって来た気がする。何だ、コレ・・・・・・。

「わかった?矩君」

 思わずこくこく頷いていた俺に先輩は満足げに笑う。

「じゃ、帰ろっか。今日もウチに寄ってくでしょ?」

 手を繋いで帰る俺達を、周りにいた人達は微笑ましいものを見る目で見送ってくれる。多分、俺の顔と先輩の顔が可愛くないと出来ない芸当だ。


 それに気付いて、初めて自分の顔の造りがコレでよかったと思った。


「おー、矩君〜〜いらっしゃーい」

 先輩の家には高智さんが居て、リビングでテレビを観ていた。

「高智さん、お邪魔します」

「矩君、俺の部屋に行ってて。兄貴なんか無視して」

 先輩の言うとおりにしようとしたら、ソファに座っていた高智さんに腕を引かれ、抱き込まれた。

「うわぁ!?」

「矩君可愛いなぁー。たまには俺の相手もしてよー」

「ちょ、困るんですけど」

 だって、俺先輩の恋人じゃん。

 抵抗しても体格差でなかなか彼の腕から逃れる事が出来ず、俺はジタバタするしかなかった。

「で、どうなのよ。キス位はした?」

 しかも耳元で変なこと聞いてこないでよ!!

「しましたよ、その・・・・・・頬とかに」

「ははは!頬かぁ。まぁ、学生らしいんじゃね?」

 ムー。もしかして馬鹿にされてる?

 くすくす笑う高智さんにそっぽ向いたところに、写真立てが置いてあった。家族の写真だ。中学生の先輩と、高校生の高智さ・・・・・・・・・。



 アレ?



「高智さん」

「ん?何?」

「その、ウチの高校の制服着てるの、高智さん?」

 俺がその写真立てを指差すと彼はあっさり頷いた。

「そーだよ。可愛いだろ?」

 確かに、無茶苦茶可愛かった。

 今の高智さんとは似ても似つかない・・・・・・っていうと失礼になるかもしれないけど、高智さん、凄く小さくて、多分今の俺より背が低い。中学の時の先輩と並ぶと美少年兄弟だ。


 でも


「ちょ、何でこんなに成長しちゃったんですか!?」

 この写真が正しいという事は、僅か数年で30センチは背が伸びた事になる。

 成長期過ぎてるんじゃないのか!?高校って!!



「何でって・・・・・・ウチの家系、成長期が人より遅いんだよ。そいでもってデカくなるから・・・・・・親父も身長高いんだよ」


 高智さんの説明を茫然としながら聞いていた。


 って、ことは、だ。


「兄貴!!矩君になにしてるんだよ!!」

 先輩も、高智さんと同じくらいの身長になる可能性が、高いってことで。

 キッチンから出てきた先輩の姿はまだ可愛いし、その腕にりょんが居たら倍可愛い。


 ・・・・・・ってか、先輩、身長180以上も夢じゃない?


「?矩君?どうかした?」

「・・・・・・なんでもない」

「あ、なんか飲む?お茶とジュースと・・・・・・」

「牛乳でお願いします」




 俺は今日から毎日牛乳1リットル飲むことを決意した。






パソの奥に眠っていたモノを掘り起こしてきました・・・。

どうなるのか、続きとか機会が有れば・・・・・・。

というか本当に題名のセンス無いな自分。

TOP