流れていく風景を眺めながら、俺は車を運転している彼に声をかけた。
「すみません、誠一郎さん。忙しいのに」
「これくらい大したことじゃないから気にするな」
俺は今、誠一郎さんの車に乗せられて学校に向かっていた。最近、何故かコレが普通の状況になっていた。誠一郎さんが俺を学校まで送り、兄さんが深継を学校まで送るという・・・・・・兄さんの場合は深継と出来るだけ長く一緒にいたいからと明言していたから、まぁいいんだけど。
ことの発端は、深継が何の前触れも無くぽろっと
「そういえば、最近蒼生痴漢にあってないのか?大丈夫?」
と言ってくれたおかげだった。
最近、深継が生徒会の仕事で忙しくて一緒に電車で学校に行っていなかったから、深継は純粋に心配してくれていたらしい。
けど、問題だったのは、俺が今まで電車で痴漢に遭っていたことを兄さんに言っていなかったこと。
初めて聞いた事実に兄さんの笑顔が強張り、新聞を読んでいた誠一郎さんも顔を上げた。
「み、深継っ」
慌てて彼の口に手を覆おうとしたけど、後の祭り。
「何それ、蒼生・・・・・・僕そんな話一度も聞いたことないんだけど?」
最近の兄さんは、怖い。つい最近まで俺の兄さんのイメージは“可愛い”だったのに、最近兄さんがとても男らしく見えてきてちょっと怖い。
「や・・・・・・だって、恥ずかしいじゃん」
男なのに、痴漢されるなんて。
俺の気持ちを兄さんは察してくれたらしく、すぐに怒りを静めてくれた。でも、顔はまだ少し怒ってる。
実は昨日また痴漢に遭いましたなんて言ったら、怒るだろうなぁ。
「僕が迂闊だった・・・・・・そうだよ、蒼生くらい可愛かったら満員電車の欲望の餌食になって当然だったね」
「・・・・・・いや、当然とか言わないでよ兄さん」
ソレ、俺男としてなんか情けない。けど、兄さんは俺の言葉を聞いているのか聞いていないのか、顎に手を当てて考え始めた。
「兄さんが蒼生を学校まで送ってあげろよ」
兄さんが何を言い出すかハラハラしていた俺の耳に届いたのは、警戒していた兄さんの声ではなく、深継の声だった。一瞬、彼が何を言ったのか理解出来なかったけれど。
深継の「兄さん」は、間違いなく、誠一郎さんの事で。
慌てて久慈兄弟を振り返ると、丁度誠一郎さんが「そうだな」と頷いた光景があった。
って、えぇ!?
「えー。何で誠一郎が!僕が深継君と蒼生を送る!」
「じゃあ、全さんは俺を送ってくれよ。でも、俺最近家出るの早いから、蒼生と時間が合わないんだよ」
深継はそう言って兄さんをたしなめていた・・・・・・けど。
茫然とする俺に気付いた彼は、にっと笑った。悪戯っぽい顔に、彼の真意に気付く。
この人、俺と誠一郎さんを二人きりにしようとしてる・・・・・・!!
それに気付いた俺はその後一週間くらいは誠一郎さんと二人きりの車内にドキドキしていたけれど、当然何かがあるわけでもなく、今ではすっかり二人きりに慣れてしまっていた。いいのか、悪いのか。
誠一郎さんは、格好良い。男の俺から観ても、第一印象も漠然とした“格好良い”だった。けど段々その“格好良い”が形作り始めて、気が付いたら“好き”に変貌していた。
格好いい上に優しいなんて、反則だろ。
でも、男の俺が男に惚れるなんて自分でも正直信じられない展開で、戸惑ってはいるけれど後戻り出来ないくらい、否定出来ないくらいに気持ちが大きくなっていた。
けど、出会った時からこの人には決められた婚約者がいて。
絶対に叶う事のない恋を、俺は胸に秘めていた。
「着いたぞ」
車が学校から少し離れた場所に停まり俺はほっと息を吐いた。慣れた、と言っても緊張に慣れただけでドキドキしていないわけじゃあない。
「有難う御座います・・・・・・いつもスミマセン」
シートベルトを外して軽く頭を下げると、その頭の上に軽い重みを感じた。
「行ってこい」
・・・・・・俺、今頭撫でられてる?
「うわ」
思わず、身体全体で後退したら、後頭部が狭い車内の天井に当たった。ゴンッとかなり大きな音が車内にも俺の頭の中にも響く。
「蒼生!大丈夫か!」
「だ、大丈夫です・・・・・・」
痛む頭を撫でながら外に出て、俺は誠一郎さんに手を振って学校に向かう。少し遠くに停めてもらったのは、変な噂を立てられないためだ。普通の学校でわざわざ送り迎えしてもらってるヤツなんて普通いないし。
後数分で予鈴が鳴るところだったから、俺は誠一郎さんが少し複雑そうな顔で俺を見送っていたなんて知らなかった。
「外村、大会お疲れー。県大会6位?だっけ?うちのガッコでは快挙なんだろ」
「まぁな。全国にはいけなかったけど・・・・・・次の大会では行く!島崎を倒す!」
「島崎って、県大会一位のヤツだろー?お前、6位で勝てんの」
「うるっさいなー。でも、島崎相手には良いとこまで行ったんだぜー。それに、今日成城剣道部と練習試合やるんだ。島崎も来るっつーからコテンパンにしてやる!」
「成城って、確か個人戦三位まで独占した上に団体でも優勝したところだろ?」
「うちの部じゃあコテンパンにされるのがオチだねー」
「お前らなあ!」
春の大会が終わったらしく、運動部系の友人達はその話で持ちきりだ。友人達と笑いながら俺も話を聞いていたら、突然隣りにいた佐々木が振り返って
「あ、そういえば・・・・・・なぁ、蒼生。あの人誰?」
勿論、他の友達の目が俺に集まった。
「あの人・・・・・・って?」
突然の事に俺は彼が言う人が誰だか解からず、首を傾げる。と
「朝送って貰ってただろ。全さんじゃないし、誰?」
・・・・・・誠一郎さんか。
すぐに誰か思い立ったけど、どう説明していいのか解からず俺はしばし沈黙してしまった。
ここで気が付くことは、俺と誠一郎さんの間には名前を付けられる関係が何もない、ということだ。
「・・・・・・兄さんの恋人の、おにーさん」
正直に説明したこの言葉の中に、俺の存在はない。
急に、さっきまで普通に飲んでいたパックの紅茶が苦く感じられた。
「全さんの恋人のお兄さん?何で、それが蒼生と」
「一緒に住んでんだ。今日は遅刻しそうになったから送ってもらっただけ」
全部本当のことだ。まぁ、流石に兄さんの恋人が現役高校生でしかも男で、なんてことは言えないけど。
「ふぅん。蒼生も大変だなー。家に居辛くねぇの?いきなりそんな事になって」
「二人共いい人だったから、平気」
「辛くなったらいつでも俺達んち泊まりに来ていいからな!」
「あっは。マジでー?」
とりあえずその場は笑っておさまったけれど、俺の心は深く沈んでしまった。
友人。
仲間。
家族。
兄弟。
恋人。
人と人との繋がりを表す日本語はたくさんあるけど、俺とあの人を繋ぐ言葉は一つもない。
説明するのなら、俺の兄さんの恋人の兄さん。この長さに無性にやりきれない気分になった。
「蒼生?何やってんだ、お前」
友人の帯刀が、辞書とにらめっこしている俺の顔を覗きこんできた。
「・・・・・・ちょっとな」
甥姪従兄弟従姉妹又従兄弟二従兄弟・・・・・・と他人に分類されそうなところまで血族の表現はあるのに、何で俺が欲しい単語は見つからないんだろう。
はぁ、とため息を吐くと帯刀がちょっと呆れたように前の席に座った。
「蒼生が元気ないと、こっちまで調子が狂うんだけど?」
「・・・・・・ごめん」
「謝るところじゃないって。で、どうしたんだ?」
「・・・・・・好き、な人が出来たんだ」
正直に漏らすとある程度予想の範囲内だったのか帯刀は驚く事も無く、それで?と次を促してくれる。
「でも、俺その人とは何の繋がりもないんだよ」
俺と、兄さんは兄弟。
深継と、誠一郎さんは兄弟。
兄さんと深継は、恋人。
俺と深継は友達。
じゃあ、俺と誠一郎さんは?
まだ名前のない関係。それが、妙に不安にさせる。
兄さんと深継が、無いとは思うけどもし別れるようなことがあれば、俺と誠一郎さんの関係は自然消滅する。
友達というには、歳が離れすぎてて。
もともと久慈と奈良崎は仲が悪かった。今は和解しているにしても、顔を合わせる機会は無いだろう。特に俺は、奈良崎の表に立てる人間じゃない。
今、最も俺と誠一郎さんに相応しい単語は“他人”だ。
「大丈夫だよ、蒼生」
「帯刀?」
「人と人との繋がりなんて、段々出来ていくものなんだから。まだ、会って間もないんだろ?しばらく付き合ってたら、いつかお前が欲しかった答えが見つかるよ」
大丈夫だから落ち着け、と言われた。
・・・・・・確かに、焦りすぎだったかもしれない。
「にしても、蒼生が恋をするとは・・・・・・相手どんな人?可愛いんだろうなぁ」
「・・・・・・あはははは」
まさか、可愛いなんて言葉からは程遠い男ですなんて正直に言える訳も無く、ただ乾いた笑いを返すことしか出来ない。
「優しい人だよ」
とりあえず。
「そっか」
帯刀はにこりと笑って俺の頭を撫でてきた。
ちらりと時計を見ると、もう4時近い。夕飯の買い物していかないといけないからそろそろ帰らないと。
「帯刀、俺そろそろ帰るわ」
「夕飯作りか?大変だな」
「・・・・・・そうでもないよ」
最近は、食べてくれる人が増えて、おいしいという声が増えて、ちょっと嬉しいから。
笑って否定した俺を見て、帯刀はどこか呆れたような顔をしたけど、すぐに手を振ってくれた。
校門を出てすぐ、ちょこっと歩いたところに見覚えのある車と人が立っていて、見間違いかと思う。
「・・・・・・誠一郎さん?」
彼はくるりとこっちを振り返り、俺の顔を見て少しほっとしたように笑う。
「蒼生」
「どうして・・・・・・仕事はどうしたんですか?」
「切り上げてきた」
何で?と聞く前に誠一郎さんの方が先に口を開いた。
「今朝の事が、気になってな」
「今朝?」
「お前、頭ぶつけただろ?」
「あぁ・・・・・・もう痛くないですよ?」
思い切りぶつけたけれど、今は全然痛くない。
けれど、誠一郎さんは首を横に振る。
「そうじゃ、なくて」
「久慈?」
その時、誠一郎さんの後ろから男の人の声が聞こえた。俺は知らない人だけど、誠一郎さんは振り返ってその人を見て、驚いたように声を上げる。
「久我!お前、何でこんなところに」
「そりゃこっちの台詞だ・・・・・・」
久我と呼ばれた人は驚きながらも俺の方に視線をやる。背の高い人が二人並ぶと、小人気分を味わえる。彼は物珍しげに俺を見て、「彼は?」と再び誠一郎さんの方に眼をやった。
「奈良崎の、秘蔵っ子だ」
「あぁ!あの奈良崎の・・・・・・へぇ、彼が」
ん?んん?
久我さんは俺を興味深げに眺めて、にこりと笑う。
「初めまして、奈良崎蒼生くん?俺は久我日月。奈良崎には時々お世話になっているから、もしかしたらどこかでまた顔を合わせるかもな」
・・・・・・ってこの人ももしかして兄さんや誠一郎さんと同類の人か!?
意味深な自己紹介にちょっと怯えつつ「は、はい・・・・・・」と答えると久我さんは笑みを深めた。
「お前、何でこんなところにいるんだ。確かフランスに行ったんじゃなかったのか?」
誠一郎さんの言葉に久我さんは顔を上げて「今帰り」と簡単に返事をしていた。そんな、外国帰りをそこら辺のコンビニに行ってきたくらいの感覚で言うなんて・・・・・・やっぱりこの人も兄さん達と同じ人種だ。
「二週間いなかったから、甥っ子の様子が気になって様子見に」
甥っ子?
久我さんの言い方からして、保育園児かそこら辺の歳かと思ったけれど、ここら辺にあるのは俺の高校くらいだ。
「そろそろ来るはずなんだが」
と、久我さんが携帯電話で時間を確認した時だ。
「久我さん!」
「お。要、久し振りだなー。元気してたか?」
俺の学校のほうから走ってきた学ランの人物に、俺は正直驚いた。
えぇ?と思わず声をあげていたのを誠一郎さんには聞かれていたらしい。怪訝な眼で見られた。
「知り合いか?」
「知り合い・・・・・・じゃないけど」
流石に学校が違うから、知り合いじゃない。でも学年は一緒だから、噂は良く聞く。友達に剣道部のヤツがいるから。ついでに、そいつの試合を観に行った事が二三回あるから、顔を知っていた。
「島崎、要・・・・・・くん?」
恐る恐るその名前を口にすると彼は俺に視線をやり、首をかしげた。
「どこかで、会ったか?剣道部?」
率直な問いに俺は首を振るしかない。俺は彼を見て知っているけれど、彼は俺を見たことは無いはずだ。
県大会一位の実力を持つ彼の顔は、忘れたくても忘れられないほど綺麗な顔で、授賞式の時異彩を放っていたのを覚えている。そうか、練習試合に来るとか何とか言ってたな。
「久我さん、フランスから帰ってくるのは明日だって言ってただろ。何で早いんだよ。つか、何でここだって解かったんだ」
「未成年を一人で長い時間置いとくとロクなことしないから早めに帰ってきた。お前のガッコ行ったら水瀬くんがここだと」
「利哉のやつ・・・・・・」
島崎くんは疲れたようなため息を吐き、また俺達のほうに眼をやった。
「ああ、要。コイツは久慈誠一郎。うちの商売敵。こちらは奈良崎蒼生くん。うちのお仲間の御曹司」
久我さんの島崎君にしたその説明に、久我さんと久慈さんの関係を何となく察した。商売敵ってことは、商売敵なんだろうな・・・・・・。で、奈良崎とは友好関係築いてるんだ、久我さんのとこは。
「久慈と奈良崎?何で、久慈と奈良崎が一緒にいるんだ」
島崎くんは久慈とウチが仲が悪いってことを知っている人種だったらしい。怪訝な顔をして久我さんを見上げていたけれど、久我さんのほうも上手く説明できないらしく、肩を竦めるだけだ。
まさか、うちの兄さんと深継が恋仲だから一緒に住んでます・・・・・・なんて言える訳ないよなぁ。と俺が困っていたら
「今、久慈と奈良崎は友好的な関係を結ぼうと努力している」
誠一郎さんが口を開いた。その説明に久我さんは興味深げに「ふぅん」と呟き俺を見る。その視線に気付いた誠一郎さんは
「俺も、蒼生とは兄弟のように親しくさせて貰っている」
兄弟。
その単語に、一瞬頭が真っ白になった。
何で、だろう。
「なら、うちも久慈と仲良くできるってことかな・・・・・・奈良崎の総帥はうるさかったからなぁ。こちらも助かるな、そうして貰うと」
「別に、久我の利益を上げる為に仲良くしようとしているわけじゃないんだが・・・・・・」
「ああ、コイツは俺の甥だ。島崎要。蒼生君は知っていたようだけどな?」
左から右に通り過ぎていっていた二人の会話だったけれど、久我さんに名前を呼ばれてはっと我に返る。
「はい、まぁ・・・・・・」
「何?要って結構有名人なのか?」
興味深深に久我さんは聞いてくるけれど、隣りにいた島崎君は嫌そうな顔で彼を見ていた。
「久我さん・・・・・・」
「いいだろう?可愛い甥っ子の俺の知らない顔知っても」
「知らなくていい」
「俺は知りたいが」
「アンタはすぐにからかうネタにするから、嫌だ」
「仕方ない・・・・・・蒼生君、もし良ければメルアド教えてくれる?後でこっそりメールで教えてくれないか?」
「久我さん!」
「久我!」
携帯電話を取り出しながら本気の顔で聞いて来た久我さんの腕を島崎君が引っ張り、戸惑う俺の肩を誠一郎さんが引いた。
「アンタはそうやってすぐに俺をからかうんだな・・・・・・っ」
「あははははは要くんコワーイ。可愛い顔が台無しだぞ?」
「可愛くなくて良し!つか可愛いとか言うな!」
「嘘嘘、要は可愛いですよー」
「この、馬鹿叔父がーっ!」
・・・・・・。
・・・・・・何か。
・・・・・・仲いいなぁ。
ちょっと羨ましいくらい仲のいい二人の姿に、誠一郎さんも同じ事を考えたんだろう「仲いいな・・・」と呟いていた。
叔父と甥だと言っていた二人は、仲が良くて羨ましい。
きちんと呼称出来る関係の二人の姿に・・・・・・何だか胸が苦しい。
「・・・・・・蒼生?」
「誠一郎さん、俺そろそろ帰ります。夕飯の材料買いに行かないと」
「なら、俺も行く。車に」
「良いです。歩いていけます」
てくてく歩き出した俺に、久我さんたちの声も消えた。
「蒼生、どうしたんだ」
俺の後に、誠一郎さんもついてくる。
嬉しいけど、放っておいて欲しい、そんな複雑な気分に胸が痛い。
「蒼生」
追ってくる誠一郎さんを振り返ると、その後ろにいる久我さん達も視界に入る。
さっき、帯刀には付き合ってれば俺が欲しい答えが見つかるって言われたけど、突然突きつけられた答えは俺が望んでいたものではなかった。
「俺、兄弟は嫌です」
もしかしたら、この答えは一番今の俺と誠一郎さんに相応しい仮称かもしれない。でも、安全ラインに囲まれてるこの言葉は俺には一番キツイ答えだった。
兄弟なんて、恋愛対象のどこにもかすらないと言われたようなもんだ。
そりゃあ、俺は、男だけど。しかも、年下だし、奈良崎だし。でも、我がままかもしれないけど
「弟は、嫌だ!」
それだけ叫んで、俺はその場から走った。
そりゃ、そう思われた方があの人の側に長くいられるだろうけど、何か、嫌だ。
一路通い慣れたスーパーへの道を俺は走っていた。
「・・・・・・今の、どういう意味だと思う?」
「俺に聞くな」
蒼生の姿を見送ってから、誠一郎は後ろに控えているだろう二人に問いかける。代表して答えてくれた久我の返事は素っ気無いものだった。
少し前から気が付いていたのだ。最近、蒼生の自分に対する反応がおかしい事に。
どことなくよそよそしい。
何となく、原因は自分にあるような気がしてはいた。
蒼生は可愛い。今まで本当の弟である深継は自分に懐いてくれず、何をしても眼に見える反応を返してくれなかったが、蒼生は嬉しければ笑うし、残念ならそういう顔をするし、とにかく感情表現が豊かで可愛い。深継の事は今は恋人である全が甘やかしてくれているようだったから、二人目の弟が出来たと考えて蒼生に接していたのだが。
ちょっと、やりすぎたのだろうか。
深継も蒼生も多感な時期だ。構いすぎもあまり良くない、ということなんだろうか。
今朝も、蒼生の様子がおかしかったからそれを聞きに来たのだが・・・・・・。
もしかして。
いや、もしかしなくとも。
「嫌われてるのか?お前」
やっぱり奈良崎と久慈じゃあ仲良く出来ないってことか。
久我の言葉が胸に刺さる。
やっぱり、そうなのだろうか。
「キツイな」
淋しいなんて、久々に思った。深継に恋人が出来た時でさえこんな気分にならなかったのに。
悲痛な叫びが耳に残って、心がざわつく。
もし、この事を全に話したらヤツは絶対に「蒼生の兄は俺だけで充分だってこと!」と喜ぶんだろうけれど。
何故か、その光景を思い浮かべてみたら苛立ちを感じた。
終わり。
TOP
アンケでプッシュを頂いたのでー。有り難う御座います。
ついでに、久我さんの方は小ネタブログにその後をあげときます。
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