ヤドリギの木の下で。
赤や緑を貴重とした色とりどりのイルミネーション。
本来なんの日だか理解せずに楽しむ人々。
見慣れた街並みが活気付くこの日は何故か恋人の日と定義づけられていて。
でも俺は、クリスマスなんて大嫌いだ。
「あぁ、またクリスマスかぁ・・・・・・」
テストも終わってもうすぐ冬休みだからか、教室の雰囲気もどことなく明るい。
そんな雰囲気に溶けこめることが俺には出来なかった。
がっくりと机に突っ伏す俺に、まわりで彼女がどーのクリスマスがどーのと盛り上がっていた友人たちの笑い声が止まる。
「・・・・・・そっか、真尋はクリスマスが厄日なんだっけ」
多分一番事情を良く知っている小学校からの付き合いの友人、鐘崎に同情の目を向けられて何となくムカっときた。
だってコイツ、この間彼女出来たとか言ってたし。
「え?でも真尋、クリスマス確か誕生日じゃなかったっけ?」
別な友人田島の驚いたような声に俺はため息を吐きながら頷くしかなかった。
そう、12月25日は俺の誕生日でもある。
クリスマスが厄日ということは誕生日が厄日ということで。
「コイツ、恋人が出来ると必ずクリスマスに振られてんだよ」
鐘崎は俺が暗い理由を知らない友人たちにわざわざ解説してくれた。
そう、アレは忘れもしない高校一年のクリスマス。その日から俺の悲惨なクリスマスが始まった。
半年間付き合ってきた年上の恋人、その時彼は大学生で、うー、まぁ、男で。結構格好良くて優しくて俺は彼が大好きだった。高校受験のときにお世話になった家庭教師だったし。
誰かと恋人という関係になるのも初めてで、ついでにクリスマスに恋人と過ごすっていうのも初めてで、ドキドキしながら待ち合わせ場所に行った。しかもお約束通り1時間前に。
でも、彼がその場所に来る事は無かった。
携帯に彼が事故を起こしたという連絡が来るのはそれから2時間後で、慌てて病院に行ったら彼は全治3ヶ月と、まぁ重傷だけど命には別状の無い状態で、心底ほっとしたのを覚えている。
問題はその後だ。
彼はその病院に勤務している看護士さん(女)とラブラブになり、俺は彼の退院の日にあっさり振られてしまった。
はぁ!?はぁ!?って感じで。
しかもその二人は結婚して、今は二人の子供に恵まれている。
もう恋人なんかつくるもんかー!と思った1ヶ月後に出来た恋人、まぁこれも男だけどやっぱ年上で。
彼は・・・・・・実は今通っている高校の数学教師。
今年のクリスマスこそ!と思って気合入れてデートに望んで、普通のデートだったんだけど、別れる間際に
「ごめん、真尋。俺、ケッコンするんだ」
はぁ!?
つーかクリスマスって恋人同士の日じゃねぇのかよ!何で俺振られてるわけ!?
とか思いながらも、こんなヤツの前で涙を見せるのも相当癪なんで
「あっそ。おめでとう御座います、センセ。良いんじゃない?俺もそろそろ潮時かなーって思ってたし」
「あ、やっぱり?そうだよなぁ、明るく笑って別れような、俺しんみりしたの嫌なんだよ。よかったー、泣き喚かれるかと思って心配してたんだよ〜〜」
あっはっはっは・・・・・・。
恋人同士であふれた街角で、男同士高笑いをする姿はそれはもう滑稽だったと思う。
それでも俺は笑っていないと泣き出しそうだったし、相手は笑って誤魔化していた節もあったし。お互い笑うしかない状況だったわけで。
その後、彼が学校で紹介した結婚相手は、俺も知っている、男子生徒の憧れの的の美人国語教師で、彼女の口から「彼とはもう3年の付き合いで・・・・・・」という言葉を聞いた時にはあの男を本気で殴ってやろうかと思った。
んだよ、俺は二股で単なる遊びだったのかよ。
授業中にじろりと睨んでやったのに、彼は気付かず「どうした、加野真尋。質問か?」と笑顔で聞いてきやがった。
ぶっ殺す。
怒りのゲージが上がっていくのが解かったけれど、こんなヤツの所為で俺の一生無茶苦茶にされて堪るかとどうにか押さえてワイドショーの話題になるのは避ける事が出来た。
今のクラス担任がこの男っていう展開も相当最低だけどな。
そんな彼は今、一児のパパ。出来ちゃった結婚だったんだってさ、ケッ。
「うーわ、最悪・・・・・・」
鐘崎が色々不味いところは避けて話を終えると、みんなの同情の視線が俺に集まってくる。
一番悲惨だったのがこの高校の二回のクリスマスだけど、その前にもクリスマスに振られたことが多い。
やっぱりクリスマスは俺にとって厄日なんだなー、と。
「真尋、顔は可愛いのに・・・・・・」
どっかから聞こえてきた呟きに俺はまたがっくり来た。
そう、俺は顔だけは女よりずっと可愛い、らしい。そのお陰で元々ノンケの男もふらふら〜〜っときちゃうらしく、ちょこっと味見程度に俺に声をかけてくる。
だから、俺は、本気じゃなくてただのキープ君。
そんな結論に至った時に、男不信症に陥った。
「じゃ、じゃあ真尋、今年のクリスマスは俺たちと合コンに行こうぜ!」
モテない男のクリスマスの過ごし方代表例に誘われ、俺は首を横に振った。
「クリスマスはデート」
「は!?」
「だから、クリスマスはデートなの。」
振られてからすぐに俺は新しい相手を見つけていた。それもそれでどーなのと思うけど、ちゃんと好きだから別にいいじゃん?
驚く彼らの視線を感じながら、俺はカバンを持って教室から出た。だって、クリスマスのプレゼントを買いに行かないといけないし。
廊下ですれ違った元恋人に笑顔でさようならの挨拶をして、俺はクリスマス一色の街に出た。
今年こそ、今年こそ!と、心の中で呟きながら。
そんなクリスマスだけど、一つだけ楽しみがある。
26日の朝に起きると、枕元にプレゼントが置いてあるんだ。
しかも、クリスマスカラーの赤も緑も使っていない包装で、カードには「メリークリスマス」ではなく「ハッピーバースディ」。
サンタの存在は信じてないから、親父か母さんか、とも思ったけど二人は別に誕生日プレゼントをくれるし。二つもプレゼントをくれるほどあの人達は甘くない。
サンタ、って本当にいるのかな・・・・・・。
少し幻想的な想いを抱きながら街を歩くと、あちこちにサンタの紅い服を着たサンドイッチマンが。
あれって、子供の夢壊してるよな、確実に・・・・・・。
「あ。」
そのサンタの中に、ひときわ目立つ長身を見つけて、俺は彼に走り寄った。
「隆哉」
紅い服を掴んで引っ張ると、彼はこっちを振り返って唯一見える目で笑う。目が若いのに、顔半分白いひげで覆われてるから、何か似合ってない。
「真尋か」
「バイト?」
話をするのに邪魔なヒゲを引っ張って露わになった顔は、結構格好良い。同じ歳とは思えない程大人っぽいし。
そんな彼、西宮隆哉は俺の家の隣りに住む幼馴染だ。
「そうそう、バイト。クリスマスまでにある程度稼いでおかないとな」
彼の持つプラカードには“クリスマスセール”と紅い文字ででかでかと書いてある。
何だ、隆哉も恋人が出来たのか。少し淋しい気もするけど、彼くらいカッコよければ女がほっとかないだろうし・・・・・・。
「そっちは、プレゼント購入?」
俺の手にある近くのショップの袋を見て彼は無表情で聞いてくる。
「そうそう。今年は少し頑張って高めのを買ったんだ」
「中身何?」
「ん?ネクタイだよ」
「ネクタイ?俺まだ必要ないけど・・・・・・」
っておい、隆哉・・・・・・。
「別にお前にやるもんじゃないんだけど」
「つか、俺に回ってくんじゃん、どーせ」
ふっと嫌な笑い方をする彼も、俺がクリスマスに振られるという事を知る人間だ。
毎回、あげる必要の無くなったプレゼントを隆哉に回してるからなぁ、俺。
「今年は回さないもん!」
そうだ、今年こそ彼とラブラブな!!
「さぁ、どーだか。プレゼント楽しみにしてるぞー。大学の入学式に使えるかも知れないし」
「隆哉にはあげねぇっての!!」
「振られたらいつでも来い。いつもどーり慰めてやるからな」
怒る俺の叫びに手を振りながら、隆哉は白ひげを付け直して人ごみの方に行ってしまった。
ったく、縁起でもないことを・・・・・・。
今年は、毎年のように隆哉の部屋で酒を浴びるように飲んで騒ぎまくるようなクリスマス、もとい誕生日にはしたくない!
ぐっと気合を入れて俺は次の店に足を踏み入れた。
今年はもう一つ、プレゼントを買っておこうと思って。
「あ、もしもし海野さん?25日のことなんですけど・・・はい、じゃあ25日で。え、そんな別に良いですってば。俺は学校休みですけど、海野さん用事あるんでしょう?じゃ、16時に、はい」
電話を切って、少し暗い気分で天井を見上げた。
今付き合っているのは、街でナンパされて付き合うようになった人。ナンパって出会いが微妙だなーと思うけど、良い人だし別に俺は構わない。
俺、年上好きなんだよなー。きっと。
海野さんは会社員で、それなりの地位がある人。仕事が忙しくて滅多に会えないから俺としては結構淋しいけど。それに、誕生日である25日に会えないってのは更に淋しいけど。
まぁ、ここを堪えてなんぼだろ!
プレゼントも買ったし。
今年こそ、ラブラブなクリスマスを俺にプレゼントしてください、神様!
「デートの約束か?」
「わぁ!隆哉!」
いつからそこに居たのか、窓のところに隆哉が居た。俺と隆哉の部屋は窓で行き来出来るから。
「驚かすなよ・・・・・・」
小さい頃から、だから彼が部屋に侵入してくることに俺は別に何の疑問も抱かず、手に持っていた携帯を机の上に放り投げる。
サンタの衣装を脱いだ隆哉は黒髪で、パッと見硬派なイメージを与える。多分、ケッコンとかの挨拶に行って一発で相手方の両親に気に入られる見た目だ。
「また相手男?お前も良くやるな」
「・・・・・・仕方ないだろ、この見た目じゃ。俺だって隆哉くらいだったらなぁ、女の子にキャーキャー言われてるよ!」
彼と同じ学校だった中学時代の思い出は、隆哉がしょっちゅう女の子にキャーキャー言われていたくらいしかない。
そういえば、一度隆哉のことが好きな子に「西宮くんをホモにしないで!」と怒鳴られた覚えがあるなぁ、ははは。俺はコイツに何もしてないぞ。
「可愛いじゃん、真尋ちゃん」
「嬉しくねぇよ・・・・・・」
こんな外見だったら、いっそ女に生まれてくれば良かったのに。
そうしたら、前の彼氏も前々の彼氏の時も、出来ちゃったーとか言ってさぁ・・・・・・。
「今年は良いクリスマスになるといいな」
段々暗くなってきた俺の頭を隆哉は撫でてきた。
うん、イイヤツだよ、ホント。
「そだな」
前の事ばかり考えていても仕方ない。先を見なきゃ、先を!
24日、つまりはクリスマスイブ。
明日は俺の18歳の誕生日で、まぁ、クリスマスだ。
明日が海野さんと会う日だから今日は友達と街をぶらぶらしていた。
「ちぇー。男同士でクリスマスイブを過ごすなんて不純だよなァ」
・・・・・・悪かったな、俺は明日も男とクリスマスを過ごす予定だよ・・・・・・。
一人の呟きにちょっとイラついたけど、そんなこと言えるわけも無く。
いいんだよ、俺は好きな人とクリスマス、っていうか誕生日を過ごす予定なんだから。
「ああ、あそこのカップルキスしてるー、羨ましいな・・・・・・邪魔してやろうか・・・・・・」
やさぐれすぎだ、お前ら。
それでも、野次馬根性はある。興味深々に他の友人たちがそのカップルの同行を伺い始めたので、俺もそっちに視線をやって硬直した。
白いコートを着た綺麗な女の人と、黒いコートを着た格好良い男の人。二人は楽しげに微笑んでいて、親密そうな空気は恋人のそれだったし、友人たちが言うようにキスしていた。
問題なのは、その相手の男のほうが、明日会うはずだった俺の恋人だったことで。
「なー、どうしてやろうか?真尋」
意地悪そうに笑った友人は、多分石投げるとかそこら辺のガキっぽい悪戯程度の報復をしてやろうと思っていたに違いない。
でも、俺はそれだけじゃあ納まらないわけで。
「ぶっ飛ばす・・・・・・」
俺の目が据わった本気の呟きに、今まで邪魔する気だった友人たちの盛り上がりが一気に下降していった。
「ちょ、ま、真尋!!直接的なのはヤバイって!」
「そうそう!真尋位の顔だったら、恋人なんてすぐできるだろうし!!」
「だから落ち着けぇぇぇ!!」
落ち着いてられるかぁぁぁ!!
友人三人に羽交い絞めにされていたけど俺はどうにかそれから逃れようともがいていた。
あっちはこっちの奮闘なんて気付かずに、キスを終わらせたらさっさと歩き出していた。その方向がホテル街なのは気のせいじゃないだろう。
海野さんの馬鹿!クリスマスの馬鹿―!!
「・・・・・・何やっているんだ?」
「西宮!いいところに!!」
そこにやってきたのは呆れ顔の隆哉だった。因みに、紅いサンタの服とヒゲ着用中。
彼と俺が幼馴染だという事を知っている友人達はさっさと俺を隆哉に預けてナンパしに行ってしまった。
は、薄情モノー!!
「あ。雨」
隆哉の呟きに顔を上げると、さっきまで曇っていた空からぽつぽつと水が落ちてきた。
彼に腕を引かれて、早々に店じまいをしていたケーキ屋の軒下で雨宿りをする羽目に。ああ、ついてない・・・・・・。
「雪じゃなくて雨か。温暖化の所為かな・・・・・・」
物珍しいものを見る隆哉の一言に今年はホワイトクリスマスじゃなくてブルークリスマスかとぼんやり思ってヘコんだ。俺の心もブルーだよ・・・。
「で、どうした?」
白ヒゲをとりながら隆哉がため息を吐く。ため息を吐きたいのはこっちだっての・・・。
「振られた・・・・・・」
「早いな」
記録更新?と彼は首を傾げてきたが俺は何も返す事が出来なかった。
なんていうか、彼のことはある程度好きだったけど、哀しいとかじゃなくてどっちかというと
「悔しい・・・・・・」
何でクリスマスに振られてんだろう、俺・・・・・・。
「くっそ、これも全部クリスマスの所為だ!来年こそ!来年こそみてろよー!!クリスマスー!!」
空に向かって思いっきり叫ぶと少し鬱憤が晴れた。
「・・・・・・真尋・・・お前なぁ」
そんな俺の態度を見てサンタはがっくりと肩を落とす。
「何かそれって違くねぇ?」
「は?何が?」
「お前、クリスマスに振られなければそれで良いわけ?」
「振られないに越した事ないじゃん」
何言ってんの、隆哉のヤツ。
胸張ってやったら彼は少し考えこんでいた。
「そりゃそうだけど・・・・・・じゃあ、質問変える。お前、さっき振られた男の事好きだった?」
「好きじゃなきゃ付き合ったりしてねぇよ」
「・・・・・・じゃあ、キスしたいと思った?」
「へ?」
何でそんな質問を?
キス・・・・・・どうだろう。別に、そんなこと考えもしなかった。
「お前、なんか意地になってるように見えるけど?俺には」
隆哉の一言に、俺はなにも言い返せなかった。
だって、本当に悔しかったんだ。
だから、だから、今年は、来年は、って・・・・・・。
多分、今までクリスマスに振られた相手で、本気で好きだと思った人は居なかった。
「だって・・・・・・」
何て言い訳をするのか考えていないうちに、そんな言葉が口から零れた。
だって。
その先を繋ぐ言葉が見つからず、ただ隆哉を見つめていると、突然視界が暗くなり、口に冷たい感触が触れた。
え・・・?何だぁ?
「ヤドリギ」
へ?
隆哉は俺から離れてすぐに指を一本天井に向かって突きたてる。
「ヤドリギの下では誰にでもキスしていいって、知ってるか?」
や、ヤドリギ・・・・・・?
って、俺、き、キス・・・・・・されたのか!?隆哉にぃ!?
「た、た、た隆哉!?」
「いいじゃん。ヤドリギの木の下なんだから、別に」
ひょうひょうと事も無げに言ってくれる彼に、何故か俺は少し落胆していた。
「ま、そ、そうだよな・・・・・・ヤドリギの木の下だから・・・・・・」
ヤドリギの木の下だったら、誰とでもするのかよ、コイツ・・・・・・。
そう思うと何だか少しイライラしてきて。
つか、俺ファーストキスなのに、そんな理由で奪われたわけ?
悶々と考えこみ始めた俺に、隆哉はため息を吐いた。
「ったく、誰のためにクリスマスに毎年バイトしてると思ってんだよ」
えぇ?
彼はヒゲを付け直し、壁に立てかけていたプラカードを手に持って、まだ降り続いている雨の中に飛び出していった。
止める暇も無かった。
ヤドリギ、キス、隆哉。
その3つの単語がぐるぐる頭を回り、俺はどうしていいのか解からず、彼が指したところを見上げた。
ヤドリギの話は、知ってるけどさ。
けどさ・・・・・・。
「ヤドリギなんて、どこにもないじゃん・・・・・・」
隆哉の指差していた場所には、それらしいものは何も無く、クリスマスリースだけが壁に引っ掛かっていた。
誰の為にバイト、と言われて脳裏を過ぎったのは毎年枕元に置かれているプレゼント。
え、何?えぇ?アレ、隆哉?まさか。
でもなんで、どうして。
その答えを見つけるのには、ヤドリギの下じゃないキスの意味を考えた方が早そうで。
えーと、どうしよう・・・・・・。
な、なんだか照れくさいぞ?
明日は俺の誕生日。
もしかしたら、初めて甘いクリスマスを過ごすことになるのかもしれない。
終わり。
く・・・・・・っ。
くっついてなくてゴメンナサイ。くっついてなくてゴメンナサイ!!
ってゆーか軽いですよねハハハ。
個人的にはこういう雰囲気が結構好きなんですが・・・・・・・・。
うひぃ!WEB拍手にでも続きのショート載せておきます!えーと、えーと、クリスマス限定で・・・。