ゆめ、というモノは本当に不思議なモノだと思う。
目覚めても覚えているモノと、忘れてしまうモノ。
忘れてしまう夢があるのは、覚えていても意味がないから?
それともそれが自分にとって忘れてしまった方がいいからなのだろうか。
どちらにしろ。
忘れてしまう夢を見る。
何度も、多分同じ夢を。
夢見が悪く、気分は最悪。
そんな日に限って、登校初日。
「日向!初登校おめでとう」
克己と共に教室に入ってすぐ、正紀がひらひらと手を振ってきた。昨日とは違う、制服の姿で。
そしてその近くの席には遠也も居て、静かに本を読んでいた。読書好きは相変わらずだ。
「お前の席はそこだ」
克己が指したところは窓際の一番後ろの席。どうやら、遅い入学の所為で一番教卓から遠いところへ追いやられてしまったようだ。
けれど、幸い隣は克己。
彼もその長身の所為で後ろへ追いやられたようだ。
ざっとクラスを見てみると、男ばかり。女子とはクラスが分かれているのだろう。
隣のクラスから女の子の声が聞こえてくる。
学校、と呼ばれているだけ有って教室などすべて普通の学校のままだ。
本当に、軍隊の勉強なんてするのだろうかと甘い考えがよぎった。
が、チャイムと共に現実を突きつけられる事になる。
聞き慣れた始業を告げる音楽と共に、談笑をしていたクラスメイト達がすばやく自分の席に着く。
中学ではチャイムが鳴っても構わず話を続けていることが多かったのに。そして教師の登場でようやく席に着いていた、というのが現状で。
けれど今の教室にはただならぬ緊張感が漂っている。
一応、それに習って翔も席に着いたが、同年代とは思えないほどきちんとした態度に驚愕していた。
そして、教室のドアが少々乱暴な音をたてて開いたと同時に皆、いっせいに立ち上がる。
「教官殿に、敬礼!」
誰かの号令と共に、皆動きをあわせて敬礼。
自分の居なかった一ヶ月間、きっとたたき込まれたのだ。
けれどこの見慣れない光景が怖かった。
「はい、おはよう〜」
そして担任はのんびりと返事をして出席簿を上下に振った。
「着席!」
OKを貰えたので皆いっせいに座る。
怖いほど足並みのそろった動作に怯えるしかない。
それに唖然としていたから教壇に立った若い教師が自分に視線をやったことに気が付かなかった。
「ああ、来たね。日向君」
「!は、はい!」
いきなり名を呼ばれたので慌てて立ち上がると隣の克己が低く「敬礼」と呟く。
その通りに動くと教師は満足そうに笑んだ。
「一ヶ月遅れだけど、頑張ってついていけよ。でないと死ぬぞー?」
さらりと怖いことを言って、彼はHRを終了した。
窓の外にある蒼い空は前と全然変わらないのに、別世界がココにある。
心が荒むと綺麗なモノが綺麗だと思えなくなると何かの本に書いてあった。
いつか自分もこの空が灰色にしか見えなくなるのかも知れない。
そんな予感の始まりだった。
終
2006.09.04 加筆修正