「克己!マジゴメン!!」
人に呼び出されて帰ってきた瞬間、翔がいきなり頭を下げた。
「何が・・・・・・?」
登校時間の今はまだ教室に人は少ないが他の生徒からも不思議そうな視線が集まる。
「その、今、俺告白されて」
かぁ、と翔の顔が紅くなった。教室の雰囲気がほんわか暖かくなる。恐らくそんなことで顔を赤らめるなんて純だ・・・・・・とかなんとか思っているのだろう。
「でも、それが男で」
けれどすぐ翔のオーラが暗くなる。
「それで、俺・・・・・・克己が好きなんだっていっちまった、マジゴメン!!」
机に額を叩き付ける勢いで頭を下げた。
詳しい話はこうだった。
『日向君、僕と付き合って下さい!』
どこかで見たことのある顔にとまどいつつ、翔は愛想笑いを浮かべた。
『ゴメン、その俺・・・・・・』
『やっぱり、甲賀さんと付き合っているんですか!?』
『な、何でそうなるんだぁぁ?』
『だって、仲いい・・・・・・ですよね、見ていて本当、仲睦まじいって言うか・・・・・・』
果てしなく誤解だ。
けれど、朝なのが悪かった。まだ頭が正常な判断を出来ない時間帯だったのだ。
正直、否定するのが面倒だったのだ。
『うん』
何故か頷いてしまった。
しまった、と思ったのは頷いた2秒後。
『やっぱり!!』
『や、あの!ち、違うんだ!!』
『何が違うんです?今頷いたじゃないですか!』
『ああああ、あの、その、俺の片想いなんだよ!克己は俺のことこれっぽっちも何とも思ってなくて!』
『じゃあ僕にもまだチャンスは有るってことですね!頑張ります!!』
『うああああ、自己完結しないでくれ!!』
「一応、克己の名誉は守ったんだけど」
にしても、意外と強引な相手だった。
「どうしよう?」
「どうしようって・・・・・・俺に聞かれても」
親友は困惑顔一つ見せない。
何か、ムカツク。
「告白してきたヤツって、誰?」
「ん?ああ、そういや名前知らないやぁ。言われなかったし。でも結構可愛い子だったよ」
「・・・・・・付きあえば?」
「やだー。克己他人事だからって」
「日向、甲賀、おはよう」
正紀が教室に入って来、いつもの朝の挨拶を口にする。
と、思ったら
「日向、お前甲賀に気があったんだってな」
「はい?」
さっそくだった。
「告白そう言って断ったんだろ?すげえ噂になってるぞ」
彼がしゃべったのか、と思いきや
「まぁ、登校中に告白されると大変だな」
いずるがにっこり笑う。
そうだ、登校時間はあちこちに人通りが多いのだった。
何人かがそれを目撃していてもおかしくない。
さっと血の気が引いた。克己がため息を吐くのが聞こえる。
「克己!どうしよう!!」
「知るか」
「っていうか、ってことは、アイツにも聞かれて!!」
アイツというのは、もちろん
「日向・・・・・・」
黒いオーラを振りまきながらこちらにやってくる本上のことで。
「これは僕に対する挑戦状だね・・・・・・?」
にやりと笑われ翔は奈落のどん底に突き落とされた気がした。
これからどれだけ嫌がらせをされるのだろう・・・・・・。
本上は何かタガがはずれたようにくくくく、と笑い自分の席へ帰っていった。
コワイ、怖すぎる。
「日向さん!」
そしてタイミングが良いのか悪いのか、告白してきた本人が現れたのだ。この教室に。
「1年C組の田原です!」
身長は翔と同じくらい。顔も結構可愛い系。
何故、そんな子が自分に惚れる。
「さっきはどうも・・・・・・」
翔が何とか笑顔で迎えると、彼は翔の隣にいる克己を睨み付けた。
「宣戦布告しにきたんです!甲賀克己に!」
止めてくれ。
翔は頭を抱えていた。
「僕は、助けて貰ったんです、日向さんに」
田原の言葉にああ、あの時のだ、と思い出す。
顔が災いして男に襲われていた田原を一度助け出したことがあった。
階級が上でも、自分の相手ではなかった男達はすぐに逃げ出したのだが・・・・・・。
「お前なんかに渡さない!」
その男らしさをあの男達に見せつけてやりたい。
克己は軽く笑い、田原に近付いていく。
「か、克己?」
まさか殴りはしないだろうな。
が、翔の心配は杞憂に終わる。
「俺に勝てると?」
少し腰をかがめて克己はにっこり笑ってみせる。
瞬間、さっと田原の頬に赤みが走った。
多分、克己の顔を初めて間近で見たのだろう。
そして、彼は硬直した。
その反応に、翔はもしや、と思う。
「日向さん、朝の撤回しても」
「むしろして下さい」
そして予想通り
「甲賀克己さん、僕と付き合って下さい!」
こっちで出火した火は火花で飛んだあちらで本燃えしたらしかった。
熱い戦いが今始まる!!