「寒いー」
季節は冬。しかも雪まで積もっている。
毎朝の早朝訓練が辛い時期だった。
訓練服、という制服とは違い、軍服より戦闘服に近い服を着て震えていた。
運動目的の服の為、確かに軽くて動きやすい。
が、通気性を良くしている所為か風の冷たさが直接肌を切りつける。
唯一暖かいのは防水加工のブーツ。
「克己ー、寒いー」
「いや、俺に言われてもな・・・・・・」
そして、本日の早朝訓練のメニューは何故か雪合戦だった。
昨日はマラソン、という比較的頷けるメニューだったが・・・・・・。
確か2年生はそろそろ雪山越えの季節だと、スキーの授業が入っていると聞いた。
(八甲田山!)
そのうちスケートでもやり始めるんじゃないか?
次の瞬間、教官が一際大きな声で叫んだ。
「と、いうわけで、氷上雪合戦を行う。全員、靴にスケートの歯を付けろ!」
ほら、やっぱり。
予想が当たったが嬉しくとも何ともない。
眠気半分寒さで体が動かない半分、皆だらだらと足にスケートの歯をくっつけて目の前にある凍った湖の上をすいすい滑り始めた。
いつ用意したのか、氷上にはすでに大きな雪の固まりが二カ所に用意されている。
「俺、スケートなんて1年ぶりだよー」
「ははは、俺なんて小学生以来だぜ」
クラスメイト達は意外と楽しそうで。
・・・・・・まぁ、内容的にはお遊びみたいなモノだからな・・・・・・・。
翔はどうにか靴裏に歯をくっつけて立ち上がった。
「因みにー、雪合戦用としてー、既に雪玉は作成されているがー」
教官は湖の中には入らず、畔で見守っていた。
「その雪玉には小爆弾が入っているー。当たったらもれなく爆発するので気を付けるように!」
楽しげな笑い声が消えた。
「安心しろー、爆竹程度の爆発だー」
それでも十二分に危険。
「遠也?どうかした?」
大志の声に翔が横を見ると、遠也が氷の地面を睨み付けている。
直感的に翔は同類だと知る。
「翔も、早く来い」
氷上から克己が手招きしてくるが、その誘いには乗りたくても乗れない。
「あー、俺滑れないんだけど・・・・・・」
そう告白すると克己が軽く目を見開いた。
意外だったらしい。
「え、じゃあもしかして遠也も!?」
大志が慌てて聞くと遠也も頷いた。
「今までスケートなんてしたことないですから」
その返答には何故か説得力がある気がする。
「プフー!天才、スケート出来ねーの!?」
話を聞いた正紀はここぞとばかりに笑い始め、遠也の怒りを買っていた。
「出来ないんじゃなくて、やったことが無いだけです!やってみればきっと・・・・・・っ!」
一歩未知の世界へ踏み出したが、意外性無くバランスをくずすがそこを大志がどうにか支えた。
「練習しようか、遠也」
大志の暖かい言葉に、頷くしかない。
一部始終を眺めていて、翔は安易に踏み込めば遠也の二の舞だと察した。
さて、どうしよう・・・・・・。
「来い」
氷を睨んでいたら目の前に克己の手が現れる。
「お前は運動神経はいいんだ。慣れれば佐木より早く滑れるようになる」
「・・・・・・本当?」
「ああ」
「おし!頑張る!」
黒い革手袋を着けた克己の手を取り、どうにか氷の上に立つことが出来た。
「最初は滑る、より歩く、を意識しろよ」
「うあー!克己、お前ぜってぇ手を離すなよ!!」
その後の雪合戦は色々な意味で散々でした。
終
俺はスケート滑れますよ!!
っていうか好きです