「うーん」
「・・・・・・何いつまでも悩んでいるんだよ」
遠也は同室の大志が何時までも帰ってこないので、朝食のメニューが並んでいるカウンターへ行ってみた。
案の定、まだ今日のメニューを悩んでいる。
「Aランチ焼きたてパンとDランチの目覚ましゼリーが俺を悩ませるんだ・・・・・・」
彼の言葉にメニューを見てみると、Aランチには香ばしい香りを漂わせる食パンとクロワッサン。
Dランチには太陽印のゼリー(葡萄)が。因みにDはご飯とみそ汁という和食メニュー。
メニューはカロリー計算をされているので付け足しや排除は許されていない。
「相変わらず優柔不断だな・・・・・・」
こういう時にしか大志の悩む表情は拝めない。
「遠也〜おはよー」
「日向」
308号室の住人が二人、自分たちを発見して手を振ってくる。
それに続いて
「おーっす」
正紀、いずるのペアもあくびをしながらのご登場。
そして4人の視線が大志に集まった。
「相変わらず悩んでいるんだな・・・・・・」
すでに朝の風物詩と化していた。
あははは、と笑ってから皆それぞれ食を求めて散っていく。
恐らく、友人達が来たということにも気付かないほど大志は悩んでいた。
「大志、いい加減にしないと、時間が」
見かねた遠也が口を開いた時、Bランチを手にしたいずるが悩む大志の肩を叩いた。
「三宅、早く頼まないと焼きたてパンがただのパンに変わってしまうぞ?」
「はっ!そうだな!おばさん、Aランチ!」
「あいよー」
・・・・・・。
って、それでいいのか・・・・・・?
さりげなく大志を丸め込んだ(?)いずるは何事もなかったかのように食卓へ向かう。
いや、何事も無かったんだろうけど。
何か、腑に落ちないものが。
「ん?どうした?遠也」
機嫌良くAランチのトレイを受け取る大志の顔を見、すでに朝食を頂いているいずると見比べ。
矢張り腑に落ちない・・・・・・。
「何故、そんなに悩む必要があるんだ」
あんな一言で丸め込まれるほど単純なのに。
そういう意味で聞いたのだが、大志はにまっと笑って
「遠也は食にこだわり無さ過ぎなんだよ。だからいつまで経っても背が伸びないんだぞ?」
「余計なお世話だ」
その前にあんな一言であっさり決めてしまうお前こそ食にこだわりが無いんじゃないか!?
遠也の朝食は大体お粥。低血圧なので寝起きも悪い。しっかりは食べれない。
それでもカロリーは自分で計算してどうにかしているのだ。
朝からカレーを食べているどこぞの元不良とは体と頭のつくりが違う。
匂いもキツイのでなるべく正紀の隣の席には座りたくない、と思うと今日は翔の隣り。
「遠也、今日もお粥?よく昼まで持つよなぁー」
感心する翔の朝食は大志と同じくAランチのパンとスープ、サラダと焼きハムにスクランブルエッグというバランスのとれたもの。
因みにデザートはヨーグルト。
彼の向かいに座る克己は毎朝和食で先程大志が悩んでいたDランチ。白いご飯とみそ汁、卵焼きは多分だし巻きだろう。それに野菜と海苔、梅干し。魚も付いている。
そして、太陽印のゼリー。
「いるか?」
克己が自分の横にに座るにいずるにゼリーを渡す。
彼はこういうあからさまに体に悪そうな色のついた食べ物が苦手らしい。
人に勧めるな。
しかし、対するいずるはお菓子が結構好き。
「え?いいよ、ヨーグルト有るし・・・・・・あ、佐木どう?」
「はい?」
驚く遠也より先に翔が同乗する。
「そうだよ、遠也食えよ。カロリーがどうのって言ってるけど見た目絶対足りてねーって!」
失敬な。
そうは思うが、昔からの友人にそんな事を言えるわけが無く。
「いや、俺は遠慮します・・・・・・」
「駄目だ、食え!!」
「なら、大志に回してやってください。アイツ、それでずっと悩んで・・・・・・」
「俺、要らない」
話を聞いていた大志がきっぱりと断った。
「遠也食えよ。お前食細すぎ。大きくなれないどころか、早死にするぞ?」
・・・・・ゼリー一つで長生きできたら医者要らないだろう。
しかもこの中に入っている着色料・保存料・香料の方が命を縮めそうな予感。
「手作りなら食べるんですけどねー・・・・・・」
あからさまに人体に悪そうじゃないですか、この色、この匂い。
確か発ガン物質が入っていた気がする。
そう説明すると、周りは納得し、ゼリーを見つめた。
克己は知っている事項だったらしく素知らぬ顔。
その態度にいずるはわざとらしい笑顔を浮かべた。
「へぇ・・・・・・普段は日向にそういうものを勧めるのに、俺に渡してきたのはそういう事?」
「お前の身長なら成長が止まっても大丈夫だと思ったまでだ」
「それ、少し関係ない上にフォローになっていないよ?甲賀。あ、正紀、ゼリー食べない?」
「・・・・・・いずる・・・・・・俺とお前は本当に友人なのか・・・・・・?」
「朝からカレーを食べれるんだからこれくらい大丈夫だろ?」
元ヤンキー虐められる。
微笑ましい光景を止める者は居なかった。
けれど、ゼリーだけはみんなの手をあちこち移動したせいか、人肌でほどよく暖まった状態で克己の手元に帰ってきた。
人害以前に生暖かくなったゼリーなんて食べたくもない。
「どうすんだよ、それ」
そろそろ北寮の食事タイムは終わり、南寮の人間達がやってくる。
「俺、食べようか?」
翔が申し出ると正面と横から
「駄目だ」
「駄目です」
と、即座に返ってきた。
「あ、俺始末してきてやるよ」
そこを正紀がゼリーを奪い、どこかへ行ってしまった。
ひとまず、解決?
じゃあ、とりあえず。
「ごちそうさまでしたっ!」
「で、正紀あのゼリーどうしたんだ?」
いずるの問いに正紀は笑顔で答えた。
「ん?本上に『甲賀から』って言って渡してきた」
哀れ。
劇終!!
楽しかったです・・・・・・。
目覚ましゼリー。ネーミングは笑うところです。