「かーなーめ、要!」

 小春日和と言ってもいい季節なのか、今日はとても日差しが暖かい。

 それ幸いと窓側の席で朝から爆睡している友人の肩を揺らすが、一向に目覚めの気配を見せてくれない。

「ったく・・・・・・さっきから人の呼び出しが溜まってるってのに」

 利哉はひたすら寝ている親友にため息をついた。

 教室の扉にはこちらの様子を伺っている視線が一つ二つ三つ。どれもこの王子様のお目覚めを願っている視線だ。

 どうやら目覚まし時計の役目を任されているらしい自分の背には女生徒達の願いを背負わされている。


 本日は年に一度のバレンタインデー。


 に、すやすや寝ていられるのは色々な意味で無神経で無関心な島崎要、彼くらいのものだろう。

 いや、もしかしたらコレは寝ていたら呼び出しに応じなくて済むという彼なりの作戦なのかもしれない。

「ってか、要。もう放課後だって。部活遅れるぞ」

 最終手段は部活という単語。

 それが効いたのか、机に伏せていた要がゆっくりと体を起こす。

「放課後・・・・・・?」

 寝惚けた声に頷いてやると彼は幼い仕草で眠い目を擦った。

「ほら、行・・・・・・」

「利哉ぁ・・・・・・カバンと机に見慣れないモノが入ってるんだけど」

 帰る準備をし始めた要がカバンと机の中からカラフルな包装紙に包まれたものを机の上にばら撒いた。

 その数は8個。

 何故そんなモノが入っているのか解からないらしく、要は首を傾げている。

「落し物・・・・・・?」

 が、机やカバンの中にピンポイントで入っているわけないだろう。

「・・・・・・盗まれるならともかく、増えてるって一体・・・・・・」

 真剣に考え始める要は恐らくまだ半分眠っている状態なのだろう。思考が滅茶苦茶だ。

「お前、良く考えてみろ。今日は何の日だ?」

 仕方なくヒントをやると、要はぼーっとする頭をゆっくり動かして本日の日付を口にした。

「にがつじゅうよっか・・・・・・あ、俺の誕生日・・・・・・」

 ・・・・・・そういやそうだったな。

 本当はバレンタインの方を思い出して欲しかったのだけれど、本日は要の誕生日でもある。本人としては、バレンタインより先に思い出す事項だ。

「これ、プレゼント?俺に?」

「まぁ、そんなもんか」

「そうか・・・・・・でも誰だろ、こんなに」

 嬉しそうに笑う要には悪いが、多分今日が彼の誕生日だと知る人間は少ないと思う。

 ついでに、リサーチ不足な女生徒には悪いが、ホワイトデーのお返しは望めないと思う。

 知ったことじゃないけれど。

「要、ついでに言わせてもらえば今日はバレンタインだ」

「・・・・・・あ」

 何だ、誕生日プレゼントじゃないのか。

 そう言いたげに眉を寄せる要は観念したようにカバンにプレゼントの山を入れた。

「じゃあ中身チョコレートか・・・・・・」

 中身がわかるプレゼント程つまらないものは無い。

 しかも、チョコレートの甘さが苦手な要としてはあまり嬉しくないプレゼントだったり。

 面と向かって渡されたら断わるのだけれど、こうやって渡されたらどうすればいいか解からない。最終的には、家で待っている両親のお腹の中に収まるのだけれど。

「にしても、要が甘いの苦手なのって結構意外だよな」

「チョコレートは駄目ってだけだ。チョコレートケーキあたりだったら食えるけど」

「・・・・・・何が駄目で何が良いんだかよくわからないぞ、要」

 廊下を歩きながら、要は利哉の荷物を何となく見てみる。

 朝と同じ量の荷物が彼の手にある。それだけ。

「・・・・・・何だよ、要」

 じっと見つめられていた事に気がついた利哉が首を傾げる。

 首を傾げたいのはこっちだ。

「お前、チョコレートは?」

 それなりに女性に人気があるはずの利哉が一個も持っていないというのは意外というか、予想外というか。

 ストレートに聞くと「貰っていない」と返される。

「貰ってないって、何で・・・・・・」

「あ、ホラ要、お前の下駄箱すっげぇの」

 部室は外にあるから、一度外靴に履き替えないといけない。

 そんな自分の下駄箱には、似たようなラッピングのモノが詰め込まれていた。そりゃあもうみっちりと。

 一個取ったら崩れてしまいそうな微妙なバランスを保っているそれに、思わずその場に立ち尽くしてしまう。

 茫然としている要に利哉はいい気味と笑う。

「寝てるからだって。直接断るチャンスを自分から無くしてるんだもんな。自業自得」

「な・・・・・・と、利哉だって!」

 親友の下駄箱を振り返り、その量を指摘してやろうと思ったけれど、それは無駄な足掻きだった。

 彼の下駄箱には何も入ってはいないから。いや、彼の靴は入っていたけれど。

「な、何で?」

「俺はお前と違ってマメなんだ」

 それは、直接来た人からは断わって、下駄箱に入っていたモノは送り主を突き止めて返したという事なのだろうか。いや、そこまでするだろうか、普通。

 そういえば、近年、彼がチョコレートを貰っている姿を見たことが無い。

 モテない、と言うわけではないだろう。頭もある程度良し運動も出来る、と来て女子がほっておくわけが無い。


 ・・・・・・何でだ?


「お疲れ様でした」

 部活が終わり、顔を洗ってから着替えようと考えているとぽん、と肩を叩かれる。

「お疲れ様、要くん」

「あ、美和先輩・・・・・・」

 マネージャーである美和は剣道部員の憧れの的というもので、爽やかな空気をまとっている辺りは要も嫌いではない。

 姉御肌な彼女に剣道部員が引っ張られているというだけなのかもしれないけれど。

「はい、コレ。バレンタインチョコでーす」

 部員全員に配っているらしい小さなチョコレートを彼女は要の手に乗せてにっこりと笑う。

「あ、ども・・・・・・」

 その笑顔を何故か直視できず、要は相手に気取られない程度に彼女から目をそらした。

「まぁ、要くんにはあげなくてもいいほどチョコが集まってるんだろうけどねー。利哉君にも渡しておいてよ」

「はぁ・・・・・・」

 もう一個同じ形のチョコレートを渡され、要は適当に返事をする。どうしてチョコレートを渡す習慣が出来たのだろう。美和からモノを貰うのはそれなりに嬉しいが、その中身が嬉しくない。

「断われるかもしれないけど、そしたら要君が食べちゃってよ」

「断るわけ無いじゃないですか、義理だってわかってんのに・・・・・・」

 美和の思いがけない言葉に口を出すと、彼女は少し残念そうに微笑んだ。

「うーうん。あたし、去年利哉君に断わられちゃったもん。好きな子以外からは貰う気無いんじゃない?」

「好きな子ぉ?」

 そんな話、聞いたことが無い・・・・・・。

 と、続けようとしたが、実は心当たりはある。

 毎朝毎朝、彼は要の母親をべた褒めしているのだ。まさかとは思うが・・・・・・。

「要、早く着替えろ」

 さっさと制服に着替え終えていた利哉が、まだ道着のままでいる要に声をかけてきた。

「あ、利哉君、要くんに君の分のチョコ渡しておいたからね」

 美和の一言に彼は特に喜びもせず、むしろ迷惑気な表情を見せる。

「先輩・・・・・・。去年要らないって言ったのに。まぁいいや、要、お前が喰え」

「お前、俺がチョコ苦手な事知っててソレ言うか」

「えぇー?要くんチョコ苦手なの?」

 間延びした女性の声にはっとする。先ほどチョコレートを渡してくれた美和が意外と言わんばかりの表情で要を見つめていた。

「意外―。甘党なのかと思ってたのに」

「い、いや、あの、先輩・・・・・・」

「残念。じゃあ、コレはあげない方がいいよね」

 止める間もなく彼女は要の手から2つのチョコレートを取り上げて、それを別の男子に渡そうとさっさと行ってしまった。

「あぁ・・・・・・ぅ」

 引きとめようとしてあげた手はその用途を果たすことなく、要はがっくりと肩を落とすしかない。

「初恋は叶わないってのが常識だ、諦めろ、要」

 笑いを堪えるような利哉の慰めなのか良く解からない台詞に要は彼を睨みつける。

「は、初恋とか言うな。そんなんじゃない」

「憧れ、ってヤツ?まぁな、美和先輩は美人だしサバサバしてるし。気持ちは解かるよ」

 彼女が部長である名和宗史と付き合っているということは部内では有名な話。だから部員にとって彼女は高嶺の花なのだ。

 だから、困る。

「違う・・・・・・。あのチョコ、絶対部長のとこに回るだろ?後で受け取らなかったこと、怒られるんだよ」

 更に、二人がバカップルだということも部内では有名な話。

 何だか解からないが、昨年は彼女からチョコレートを貰うのを断わったら、翌日彼に怒られるのだ。人の好意を云々と、お説教をくらう。

 その事を忘れていたらしい利哉もそういえば・・・・・・と昨年の出来事を振り返っていた。

「・・・・・・明日は一緒に怒られようか、要」

「・・・・・・だな」

 多少の犠牲ははらったが、二人の友情が更に確かなものになった瞬間だった。

「そういや、利哉」

「何だよ」

「お前、好きな子いるのか?さっき美和先輩が言ってたけど」

 あの先輩も余計な事を。

 利哉は思わず頭を抱えそうになったのを寸でのところで止めた。

 じっと自分を見つめて返事を待つ幼馴染は、本質的には鈍感で、色恋沙汰には興味が無い方だ。

 けれど、親友である自分のこととなると、また違ってくるようで。

「居るんだな、で、誰?」

 ひたすら沈黙している利哉の反応をそうとって、要は質問を変える。

「誰って・・・・・・お前」

「返答に困るってことは、俺の知っている奴だろ」

 しかも、要らないところで勘が鋭い。それは弁護士である両親譲りだろうか。

「言え。お前、まさかと思うけど・・・・・・」

 要は要で、彼の好きな相手がまさか自分の母親なのでは無いかと気が気で無かった。もし、これが昼ドラ的展開になって、両親が離婚したら、次の自分の父親はこの親友!?とまで要の考えが飛躍している事に利哉は気付いていなかった。

「要には絶対言わねぇ」

 気付いていたら、多分こんな返事はしなかっただろう。

「何でだよ」

 本気か!?本気か!?

 要には、とどこか意味深な返答に要は更に自分の予想が当たっているのではないかと確信しつつあった。

 利哉のほうは何故要がそんなに焦っているのかわからず、密かに首を傾げていたが、そこら辺は友情関係を要が危惧しているのだろうと別な勘違いをしていた。

「・・・・・・だって、言っちまうと俺とお前の関係、多分気まずくなるし・・・・・・だって、お前が俺の・・・・・・」

「マジで!?」

 関係が気まずくなるというのは、彼と自分がもしかしたら親子になるかも知れないという事で。

 利哉の一言に要は目を見開き、彼を凝視する。

 いや、多分コレは自分が焦っても仕方ない事だ。焦るべきなのは恐らく自分の父親だ。

 いや、でも自分も焦るべきなのだろうか。下手したら彼を父と呼ばないといけないわけだし。

 いや、それ以前に自分は両親が離婚したら母親の方に引き取られることになるのだろうか。でもそうなったとしたら父親の方についていくかも知れない。

 いや、でもこういう息子の立場って多分

「ウチが滅茶苦茶になったのはお前の所為だ・・・・・・?」

 昼ドラでよく使われる台詞を首を傾げながら言うと、利哉も首を傾げていた。

「何だソレ」

「うんにゃ、俺にも良く解からん」

 自分で言ったくせに・・・・・・。

 要の無責任な台詞に苦笑していると、視界に彼女の姿が入り、利哉はすっと目を細めた。

 両手に上質な紙で出来た小さなバックを持って、誰かをきょろきょろと探す彼女に、仕方なく手を上げてやる。

 その目印に彼女はすぐに気がつき、心底嬉しそうに表情を輝かせた。

 その輝きが、自分の為だったらいいのだけれど。

「島崎、水瀬」

 何だか頭がこんがらがってきた要は、突然目の前に現れた人物に驚いたけれど、これくらいで驚いていては彼女の知り合いはやっていけない。

「名和か、そっち部活終わったのか?」

 名和真白は女子部のほうの剣道部のエース。制服を着ているあたり、そっちも本日の活動が終了したのだろう。

「うん。はい」

 彼女は手に持っていたバックから一つ、ラッピングが施された小さなものを要に渡す。

「今日誕生日でしょ、島崎」

「え、俺にくれるのか?」

 手作りらしいそれはチョコレートは使われていないカップケーキ。それと、チェーン付きの犬のマスコットだった。

「あ、犬だー」

 犬好きの要は愛犬に似たそのマスコットが気に入ったらしく、ぱっと表情を明るくする。

 その表情を見て彼女が心底安心していることなんて、気付きもしない。

「相変わらずだね。そんなガキっぽいのに喜ぶなんて」

 彼女も言わなきゃいいのに、でも言わないと自分のスタンスを守れないのか、ついつい憎まれ口をきいていた。

「ガキっぽいって何だよ。良いだろ、別に」

 むっとする要を無視して彼女は利哉にも別なプレゼントを渡していた。

「はい、水瀬。これバレンタインのチョコ」

 綺麗に包装されたそれは、恐らく有名店のチョコレートだろう。

「サンキュ、名和」

 笑顔でそれを受け取ると、二人の雰囲気を感じ取った要がそれ以上文句を言うのを諦めていた。

 要は、彼女が利哉を好きだと思っている。

 それは、こちらには好都合な勘違いで。

「悪いな、わざわざ。お返しは3倍返しだっけ?」

 にっこりと笑うと彼女も少し困惑ながらも、笑う。

 要の時とは違う笑い方に、多少苛立ちを感じるのは大人気ないだろうか。

 彼女が自分に対して戸惑ったような態度を向けるのが、要から見て彼女が利哉を好きだという態度に見えるらしい。

 その真相を彼は知らない。

「お返しなんていいよ、私がしたいから、してるだけだし・・・・・・」

 控えめな彼女の態度を見ていられないと思ったのか、要はため息を吐いて部室に向かう。多分、着替えに行ったのだろう。

 それにいち早く気がついた真白の視線が彼の背を追っている。

「いーの?要、行っちまったぞ?」

 利哉のからかうような口調に彼女は眉を下げてぐっと唇を噛み締めていた。

 こんな風にからかう自分も自分だけれど。

「名和、お前な・・・・・・ドツボにはまってるってこと、自覚してるか?」

「解かってる。でも、どうすれば良いか解からないんだもん、仕方ないじゃん・・・・・・」

 彼女の今にも泣き出しそうな顔を見ているのは自分だけ。・・・・・・少なくとも、要は見ていないだろうから。

 でも、こんな顔をさせているのはあの親友で。

 キリが無い思考はどこかで諦めという見切りをつけるしかなく。

 ・・・・・・ドツボにはまっているのは自分の方か。

「じゃ、ね。水瀬」

「おー。気をつけて帰れよ」

 真白を見送ってすぐに着替えた要が荷物を持ってやってきた。その両手には本日の収穫が。

 彼女が居なくなってからで良かった、と利哉は一人安堵していた。

 その収穫の中に、彼女のものも混ざっていたのには憤りを感じたけれど、そんな事を注意する権限を自分は持ち合わせていない。

「名和、帰ったのか?」

「ああ。さっき」

「ホント、俺アイツに邪魔者扱いされてるよなぁ・・・・・・」

 苦笑する要は本当に鈍い。

 それとも、彼女の演技の賜物なのだろうか。

 両方とも自分にとっては好都合だけれど、軽い罪悪感が胸に重石を乗っけていた。

「要、俺からも誕生日プレゼント」

 ずっと手に持っていた緑色の袋を要に差し出した。

 荷物が多くなって大変だろう、というちょっとした自分の思惑にも気付かず要はちょっと驚いたような顔をしてから笑った。

「ありがと。さっすが親友。俺の誕生日忘れてなかったんだな」

 お前の誕生日忘れていなかったヤツはもう一人いただろう。

 そう言いそうになるのを堪えて、ただ笑う。言ってしまったら自分はただの人の良いキューピッドになるかも知れないから。

 もってやる、という意味で手を差し出すと要はまた礼を言いながら荷物を渡してきた。

 渡された、色んな意味で重い荷物には、彼女のものが一番上にあった。

 要は多分気付いていない。

 自分に渡されたプレゼントが、彼女が色々考慮してチョコレートじゃないこと、更にそれが手作りだという事の意味を。

 利哉に渡してきたモノが、買ったものだった事の意味も。

 教えてやる気はさらさら無い。

 適当な会話を交わして、家に着く。

「サンキュ、利哉」

 利哉が持っていた荷物を受け取り、要は家に入ろうとした。

 彼と自分は親友で。

 まぁ、それなりに大切な相手でもあるのだけれど。

 ・・・・・・あるからだけれど。

「要」

 でも、彼が何も知らずに悠々と過ごしているっていうのは、少し腹ただしい。

「俺が、お前に俺の好きな相手の名前を言えないのは」

 まさかここでその話を蒸し返されるとは彼も思わなかったらしい。女子に人気の顔に少し動揺が見えた。

「お前が、俺の恋敵だからだよ」
 
 言ってみたら少し心がすっとした。

 それと同時に、小さな不安の種から芽が出てしまう。


 茫然としている要にいつもの笑顔で「またな」と告げて自分の家のドアを開けた。


 この程度の告白で十何年間培ってきた友情が壊れるとは思っていない。

 そこら辺は、多分自分は要に甘えている。

 本日手元に残ったたった一つのチョコレートを見つめ、ふっと息を吐いた。

「一番欲しくない義理だな」

 友情も壊したくないし、恋愛も諦めたくない。

 そんな貪欲な想いを引きずって、もう2年くらいになる。

 その事に気付かない要にはついああ言ってしまったけれど、八つ当たり以外の何物でもない。

 不安定な胸の中には着々と何かが育っていた。




「要?何やっているんだ?」

 父親に声をかけられても、要は目の前にある大量のチョコを凝視していた。

 今まであまりやったことはなかったけれど、一つ一つ形を確かめたり、手紙を読んでみて、名前を顔を一致させてみる。

 手紙の内容は、義理の方が本命よりやや多いといったところか。

 ってゆーか、もう。

「どれだろう・・・・・・」

 頑張っても名前と顔は一致せず・・・・・・というか名前も知らないものが多くて、要はため息を吐く。

 この中に、親友の想い人がいるのだろうけど。

 彼の趣味が年上、なのは知っている。ということは3年生か2年生。何人か年上はいたけれど、矢張り全然見当がつかない。

 幼馴染、親友。彼と自分の間柄の名称にさらに恋敵なんて面倒臭いものが追加された。

「まいったなぁ・・・・・・」

 気付かなかった自分は最低だ。

 利哉は自分より大人で、多分ずっと黙っていたんだろう。今日言ったということは今日何かの切っ掛けがあって、堪え切れなかったという事で。

 それが、このチョコレートの山の中にある・・・・・・。

 もう一度、頑張ってみよう。

 一瞬うんざりしかけたけれど、親友の為だと自分に言い聞かせて再び手元にあった手紙を開いた。

「お。要今年もモッテモテだなぁ」

 チョコレートの山に気がついた父親がネクタイを外しながら苦笑する。

「あ、父さん、食うなよ。今年は俺が全部食うから」

 無神経な態度を取ったから、せめてものつぐないに決意したのだ。手紙を読んで、チョコレートをくれた人にちゃんとお礼と断わりを言う、と。

 彼が、この中の誰かの為にしたように。

「喰う・・・・・・ってお前、チョコレート嫌いじゃ」

「それでも食べるんだ!」

 気合を入れてがさがさと包装紙を破き始めた自分の息子の奇行に周星は首を傾げたが、たまにはいいだろうと思い直す。

 箱を開けて現れたチョコレートを、要は素早く摘みあげて口に入れていた。

「う・・・・・・甘・・・・・・苦ぃ」

 すでに涙目になっている息子を微笑ましい目で見て、周星は本日付の新聞に視線を落とした。

 ここで何があったのだと聞いていただけで父親の株が上がっただろうに。

 ナギが死にそうな顔でチョコレートを食べている要に気付くまで、後1時間ちょっと。


 要がさらにチョコレート嫌いになったのは言うまでも無い。


 終わり。


 青春だね。
 にしても、ラブコメ・・・・・・か?
 むしろ、ナギと利哉が夫婦になる昼ドラ的な話が書きたい。


 ・・・・・・・・・・・・・・。


 書いちゃおっかなぁ・・・・・・。