暖かい。
家の暖炉の近くで昼寝をしている時とはまた違った暖かさだ。
あの炎より、ずっと暖かくて気持ちが良い。
父さんや兄さん達と狼の姿でくっついて寝ている時とも違う暖かさ。
人間って、毛皮ないのに、暖かいのな・・・・・・。
・・・・・・って、人間?
・・・・・・あれ?
「大丈夫?紬ちゃん」
目を開けると保健室のベッドの上、じゃなくて更科の家の天井だった。
ついでに、更科も居た。
「おれ・・・・・・?」
確か倒れて保健室に行って、それで・・・・・・。
記憶が鮮明になっていくに連れて顔が熱くなっていった。
お陰さまで体調はすこぶるイイ、というのが何よりの証拠だろう。
それと
「ね、紬ちゃん・・・・・・コレって、契約関係?」
更科が俺の胸と自分の胸元を指す。そこには小さな刺青みたいな、狼の牙のマークが。
「う、ん・・・・・・契約完了のシルシ・・・かも」
契約完了っていうのは、えーと、つまり一番最初の力の受け渡しの後ってことで・・・・・・。
恥ずかしいッたら。
かぁぁと顔を紅くする俺を見て更科はにやにやと笑う。
「可愛かったよ。最後の乱れっぷりは凄かったー」
この状況でそんなこと言うんじゃない!
っていうか、最後の乱れっぷりって何!?俺覚えてないけど!?
「耳、やっぱり消えちまったねぇ。勿体ない」
更科に言われて慌てて耳に手をやった。
人間の耳だ、毛が無い。
「よかった・・・・・・」
治らなかったらどうしようかと思った。
ほっとしている俺を更科はひたすらにこにこして見つめている。
何か、微笑ましいものを見ているようなそんな目で。
な、なんか恥ずかしいんですけど。
「どうする?紬ちゃん、家帰る?」
「あ・・・・・・」
家に帰る?と聞かれ真っ先に浮かんだのが臣の顔。
アイツに好きだと言われて、ちゃんとした返事もしてないのに、更科とこんな事になっちゃって。
今帰ったら、絶対更科とのコトばれるだろうし・・・・・・。
「俺としては、取り敢えず朝まで紬ちゃん拘束しておきたいなーって思うんだけど?」
うーんと悩み始めた俺をベッドに腰掛けている更科がぎゅーっと抱き締めてくる。
・・・・・・さっき散々感じた体温が、ちょっと嬉しかった。
「俺も、一緒に居たい」
「・・・・・・・・紬ちゃん」
頭の上の方から何故かため息が聞こえてきた。
「あんまり可愛い事言うとまた食べるけど?」
「・・・・・・そ、それはちょっと」
気分は良いけど実は腰が無茶苦茶痛いんだよなぁ・・・・・・。
俺が何を言いたいのか察した更科は口に軽いキスをしてくるだけに留めてくれた。
「くっ付いているだけならいいっしょ?」
「う、うん・・・・・・それなら」
さっきはあんなに意地悪いヤツだったのに、普通の時はかなり甘やかしてくれる。
上手に飴と鞭を使い分けていやがる・・・・・・。
何だか悔しいような、負けた気分になっても仕方ないだろう。
それから、更科の体温の心地良さに負けて俺はまた眠りの中に引きずり込まれていった。
「って、何でこの男と一緒なんだよ!!」
次の日、更科に連れられて実家に戻ったら、心配していた臣がソファに座ってお茶を飲んでいた更科を指差して叫んでいた。
「ごめんな、臣君。君の大事なお兄さんは俺が貰ったから」
更科のにっこりと爽やかな笑みを浮かべながらの台詞に俺は顔を真っ赤にするしかなかった。
も、貰ったって・・・・・・確かに昨日は色々貰ったりあげたり・・・・・・って俺何考えてんだぁぁ!
「な、何言ってんだよ、更科ぁ!」
「あ。」
ん!?
俺の発言に何故か更科はにやりと笑う。え、俺なんか変なこと・・・・・・。
なんて考え始めようとしていた時に、口にふにっとした感触。
へ!?
離れていく更科の顔を茫然と見上げると、またにやりと笑われた。
「下の名前で呼ばなかったら、キス一回って言ったじゃん」
あ・・・・・・。
そ、そんな事言われても相当恥ずかしいんだぞ、ってかそれって学校でも!?
「ちょ、それナシにしてくれよ更科」
「あ、ホラもっかい」
今度は額にされて、恥ずかしくて顔が上げられない。
「カンベンしてくれよ、さら・・・・・・」
うおお、俺の馬鹿―!
3回連続ミスをした俺に更科が3度目のキスをした時
「お前ら、ワザとか?」
広貴兄さんの冷たい突っ込みが入った。
わ、ワザとなわけ無いだろ、俺は心底真面目だった!
「えぇ、まぁー、少し?」
でも更科は苦笑しながら思いも寄らない返事をしていた。って、お前がワザとだったのかよ!
「だって、紬ちゃん可愛いから」
家族の前でそんな事を言われる俺の身になってくれ・・・・・・。
顔を紅くして更科の背に隠れる俺の様子を見てかどうだかはわからないけれど、今まで沈黙していた臣が、切れた。
「ぶっ殺す・・・・・・」
何か目が殺気立ってるよー!!
「俺は絶対認めないからな!いつかぜってぇつー兄奪ってやる!!」
「ははは。何だったら誰か紹介してあげようか?男でも女でも好きなほうを」
更科の交友関係は中々広い。
あ、それだったら臣にもいい相手が見つかるかも!とちょこっと思ってしまった。
「何だか、凄くイイ性格の人見つけてきたね」
臣と更科が騒いでいるのを見ていた俺に譲兄さんがこそりと話しかけてくる。
それって、褒めてるって思ってもいいのかな・・・・・・。
「・・・・・・紬、幸せそうだな」
「へ!?」
俺はただ臣と更科がぎゃいぎゃい騒いでいる・・・・・・騒いでるのは正確には臣だけだけど。のを見てただけなのに、譲兄さんはそう呟いて満足そうに笑った。
「良かったな。臣には悪いけど、良かったよ」
「うん、まぁ・・・・・・」
よかったのかな?
あれから、木佐貫が耳の生えた俺の姿を見ても更科に例の条件の話を持ちかけなかったという事を聞いて、更科以外の人間の考え方もちょこっと変わってきた。
「じゃ、紬ちゃんかえろっか」
「え?」
臣をからかいつくした更科が俺を振り返ってにっこり笑う。
「ちょっと待て!つー兄の家はここだ!お前一人で帰れ!」
それに噛み付くように反論したのは臣だった。確かに、俺・・・・・・更科にただ送られてきたんじゃなかったのか?
「行け行け。これだけ騒いだんだ、紬、今夜あたり腹減るぞ」
すでに俺たちに興味を失っていた広貴兄さんが雑誌に目をやりながら犬を追い払うようなジェスチャーをする。
あ。そっか・・・・・・って、またもしかしてアレするの?
食事法を思い出し、顔を紅くした俺を更科は抱き締めてくる。だから家族の前でこんなことすんなって!
「ぜってぇぶっ殺す!!」
そんな臣の叫びに送られて俺たちは家から出た。
「お。月だ」
すでに夜になっていた道路、前は一人で歩いていた道をまさか人間体で更科と二人で歩く事になるとは。
「そういえば、初めて犬姿の紬ちゃんに会った時もこんな月のある夜だったな」
「犬じゃなくて狼!」
一体何回目の訂正だ。これこそバツゲームしてやりたいぞ。
「だって、狼にみえな」
「黙れ更科」
「あ、ホラバツゲーム」
「お前、俺のこと犬だって言ったろ?それで相殺・・・・・・」
相殺だって、言ってるのに。
月明かりの下、っていうかココ外じゃん。男二人がキスしてるところなんて、誰が観たいと思う?
「俺がしたかったからしたんだ」
恨みがましい俺の目を見て更科はにんまり笑う。
「月に、見せ付けてやりたかったし」
月?
空には今まで力を貰っていた月の姿。まぁ、もう俺には更科がいるから必要ないけど。
「次散歩する時は俺も一緒な?」
「・・・・・・狼の姿でな」
次からは一匹の犬の影に人間の陰も加えられるんだろうな、と思いながら素足で歩いていた頃は無茶苦茶冷たかったアスファルトを見た。
「それも良いな。紬ちゃんちっこいから胸に入れて歩こうかな。あったかそー」
コートを着ている更科の胸元を見て、そんな事になっている俺の状況を思い浮かべた。
う。それは苦しそう・・・・・・俺が。
確かに、俺毛玉だから胸に入れたら相当暖かいだろうけど・・・・・・。
「こっちの方が暖かいけど」
「へ?」
何かと思ったら、いきなり手ぇ繋いできたぞ、コイツ!
「さ・・・・・・じゃなくて、ゆー、せぇ」
怒鳴りつけるつもりだったのに、名前を呼ぼうとするとどうしても小声になってしまう。
「んー?何?紬ちゃん」
多分、俺の言いたいことはわかっているんだろうけど、わからない振りをするのはずるいだろ。
あー、もう。
悪くないかも、と思ってしまう辺り俺も相当だけど。
「悪くないでしょ?」
しかも、更科は俺の事なんてさりげなくお見通しみたいで。
「・・・・・・悪くねぇよ」
人間って、毛皮無いのに暖かいんだなぁ。
月の光が照らす道を、俺は初めて誰かと二人で歩いた。
まさか、ずっと昔の狼男は人間と狼男が手を繋いで月の下を歩く事になるとは思わなかっただろう。
・・・・・・ついでに、狼男が人間に喰われることになるとも。
それってどうなんだ、とか思うけど、狼男としては。
まぁ、いいか。
誰かと歩いていくっていうのも、悪くないから。
狼男が月の下で誰かを襲って一人で生きていく、というのはもう昔の話なんだ、ということで。
今は、月の下を人間と手を繋いで歩く時代らしい。
終。
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終わりました!ワー!!読んで下さってありがとう御座います!!
エロがぬるくてすみません・・・・・・。
第一声がコレですみません・・・・・・。
壊れた紬も書きたかったんですけどね・・・・・・。ま、また次の機会にでも・・・。
実は、もっとこのネタで書きたいネタがゴロゴロ・・・・・・。
木佐貫にはこれから頑張って貰いたいというか。
てか、更科、浮かれすぎです。