「飲んだぞー!!」
 ケラケラ笑いながら翔は克己と共に自室に帰ってきた。久々に飲んで騒いだ一夜だった。こんな楽しい時間が待っているのであれば、監禁役を引き受けるのも悪くない。
「でも、山川さんも良い人だな!俺達の作戦に乗ってくれるなんて」
 山川は今日突然顔を出したイレギュラーだったのだが、彼に事情を説明すると二つ返事で協力してくれた、と遠也から聞いた。元々、克己を取り囲んでいた女子達も人脈で集めたエキストラだった。アレを見たB組の生徒が更に怒りを増幅させればこちらのものだったのだ。
「……あいつはああいう厄介事が好きなんだ」
「そうか。今度会ったらちゃんとお礼言っておかないと……んな、もう盗聴器とか全部取ったんだろ?」
「ああ、全部外してある……っと翔?」
 突然腰に抱きついてきた彼に、克己は慌てて抱きとめる。酔っぱらいの力は意外と強いもので、そのまま倒れるようにベッドに座るが、翔の方は気に止めずに腰に引っ付いたままだ。
「何か、久々な感じがする……克己、一日声出さなかったからかなー……」
「そうだな」
 克己の膝に座り、翔はにへらっと締まりの無い笑みを浮かべた。その笑顔の意図が読めずにいる克己の口にキスをすると目の前の目が大きくなった。
「えへ。今日は助けてくれてありがとな!」
「……酔ってるのか?」
「ちょっとな。良い気分。んでも、俺ちょっとは焦ったんだからな、山川さんのこと」
 恋人が目の前で他人にホワイトデーのプレゼントらしき物を渡せば、それは焦るというものだ。別に女の子じゃないから、とバレンタインの時にお互い何かを贈ることは無かったのだか、というか翔が頑なに拒否をしたのだが、その時それを激しく後悔した。
 むぅ、と眉を上げて拳を握る彼のその手を克己はやんわり片手で包んだ。
「違うだろ、翔」
「へ……」
 捕まえられた手にじゃれ付き始めた克己の顔は自分の顔より少し下にある。新鮮なその体勢を堪能する暇もそれほど無かった。
「そういうのは焦ったではなく、妬いたって言うんだ」
「……そ、そうとも言う……かもしれねぇけど」
 ふいっと顔を紅く染めながら背ける翔に克己は小さく笑う。その笑いに軽い敗北感を覚え、翔は相手を睨み上げた。
「克己こそ、あの写真見てすっげ怒ってたって山川さんが……それ、妬いてたってことだろ?」
 山川の楽しげに教えてくれたあの時の事を思い出し、そこを指摘すれば、克己の動きがぴたりと止まる。
いやー、甲賀ほんっと君大好きだよなぁ、とどこか感心したような山川の言葉の後に続けられたのは「でも、君もあいつの事大好きだよな」。その瞬間に顔を紅くした翔に、山川は可愛いと言って克己にまた後頭部を叩かれていた。
「あぁ……あれは嫉妬というより殺意だな」
「殺意!?」
「安心しろ、写真はネガごと燃やした」
 アレを目にした時は怒りを通り越して純粋な殺意しか生まれなかった。恋人を誰かに犯された後のようなものを見せられ、普通でいられる方がおかしいだろう。だが、実際あの白濁はただの生クリームだった。心底ホッとしたのは、言うまでも無い。
「まったく、散々な一日だったな……」
「……あのさ、克己」
 疲れきった友人に声をかけると、彼は素直に目を上げる。その目に気まずさを感じつつ、翔は目をきょろきょろと動かし、落ち着く場所を探していた。
「その、なんつーか、俺も色々と学習したので……」
 結局視線が落ち着いたのは相手の顔だったが。
「……来年は、バレンタイン、俺も、頑張ります」
 女の子に負けないように。
 恥ずかしさで心なしか力があまり入っていない声だったが、相手の耳には届いているはずだ。
「あぁ、ああ、その代わり、お前もホワイトデー、三倍返し!ちゃんと三倍返しだからな!って、うわぁ!」
 突然体をベッドの上に投げ出され、痛みはないものの驚かされた。身を起こす前に抱き締められ、また驚く羽目になったが、抵抗はしない。
「可愛いな、翔」
「……何でそうなるんだ」
「三倍か……何が良い?家かマンションか、それとも島1つか」
「ちょ、待て……!その三分の一って俺何お前に望まれてるんだ!?」
 頑張れて手作りチョコレートだと考えていたところだったのに、突然値段の大きな話になり、その三分の一に相当するものを考えた。が、何一つ思い浮かばない。
「俺は、翔しか望まない」
「勘弁して下さいよ、克己さん……!」
 何で素でそんな事言えるんだこいつは。
 恥ずかしすぎて顔を上げる事が出来ず、翔はひたすら腕に抱いた枕に顔を押し付けた。顔が熱いのは酔いだけの所為じゃないはず。
 ひたすら顔を上げられない翔の頭を撫で、克己は部屋の電気を消す。明日も早いからさっさと寝るつもりだ。それは翔も依存は無かった。今日は妙に疲れた。
 隣りに寝たらしく、狭いベッドの中背中が触れ合う。そんな状況で、ひたすら枕を抱き締めた。言おうか言わないか、悩むだけで緊張したが
「つーか……俺はもう克己のものだっての」
 こそりとどうにか言い切って、ほっと肩の力を抜いた、そのすぐに
「ああ、俺も翔のものだ」
「てめ、人が頑張って言った台詞をさらりと言うな……!」





ラブラブえんど。
お疲れ様でした!