駒、か。



 早良は冗談と笑っていたけれど、眼が本気だった。

 多分、というより絶対に駒の一つに過ぎないのだろう。

 解かっていたつもりだけれど、何だかイライラする。

 「遠也!よかった、追いついたー」

 背中からかけられた声に振り返ると息を切らした友人が居た。後ろから、ということは彼はわざわざ

 科学科にまで自分を探しにきたのか。

 「大志」

 「足、大丈夫?そんなに早く歩いたら駄目だって」

 「あぁ・・・・・・」

 さりげなく鎮痛作用のある湿布も早良に貼られていたのもあって今はあまり痛みを感じない。

 本当に、流石だなと言うしかなく。

 早良の顔を思い出したら何だか胸が重くなる。

 「・・・・・・なぁ、遠也」

 少し伺うような大志の声は珍しいものだった。

 「なんだ?」

 「あの人、遠也の何?」

 「あの人?」

 「あの、早良って人だよ」

 機嫌が悪いのか少し怒ったように大志はびしっと指を一本立てる。

 彼は自分を探して早良に会ったのだ。そして、何か言われたか。

 人のいい大志が怒りを感じるほど、一体彼は何を言ったのだろう。

 「早良は、俺の恩師だ」

 仕方なく彼と自分の関係を言うと大志は驚いたように目を見開いた。予想と大きく反していたのだろう。

 一体どんな予想を立てられていたんだか。

 「俺の家が大病院だという事は知っているだろう?彼はウチで一時期働いていた事があって、

 研究室に小さい頃から出入りしていた俺に色々教えてくれた。今の俺の知識はすべてヤツに
 
 叩き込まれたものだ」

 一応、恩師だ。

 彼の目的の為に育てられていたのだとしても。

 「あぁー・・・・・・そうだったんだぁ」

 遠也の説明に大志のさっきまでどこか不機嫌だった表情は一変して安堵の笑みになる。

 彼ののほほんとした笑顔をみるとこっちも気分が落ち着く気がした。

 「一体、どんな関係だと思っていたんだ?」

 苦笑交じりに聞いてみれば、彼も苦笑しながら自分の頭を撫でる。

 「いや、主従関係とか・・・・・・遠也が主で」

 ・・・・・・とんでもない誤解だ。

 でもまぁ、元上司の息子だからそれも有り得ないとは言い切れない。

 「・・・・・まぁ、それもあながち嘘じゃない」

 「えぇ!?」

 遠也がぼそりと呟くと面白いくらい大志が反応してくれた。

 こういうタイプは今まで自分の近くに居なかったから本当に新鮮だ。

 「冗談だ」

 どちらかといえば自分が従、なのだろうし。今の段階だと。

 「なんだ、驚かすなって遠也」

 「驚かしたつもりはあまり無いけどな・・・・・・」

 大袈裟にほっと胸を撫で下ろす大志には笑ってしまった。

 ここで、犬は自分の方だと言ったら彼はどんな反応を見せてくれるのだろう。

 さっきまでイライラしていたのを多分大志で解消している。

 彼には悪いな、とは思うけれどそれに気付いていなさそうだから、まぁいい。

 「じゃ、帰ろ、遠也」
 
 「そうだな」
 

 駒、と言っても別に自分は何の考えも無く彼に操られているわけじゃない。
 
 忠誠を誓っている振りだって出来るし、犬という位置に甘んじている振りだって出来る。

 きっといつか、彼は気付くだろう。


 「・・・・・・俺にとっても貴方はただの駒なんですよ」


 ほんの少し背中に感じた視線に口の中で呟いて口元を歪めた。





 「手負い」の続き。
 「忠誠」「あなたの犬です」「主従関係」
 喧嘩売ってんのかっていう感じの集まりです。