「あ、あの・・・・・・」
「ん?何だ」
にっこりとすぐ近くにあった顔が微笑み、一瞬その格好良さに見惚れてしまうが、ここで負けるわけにはいかない、
と己を奮い立たせた。
「克己・・・・・・恥ずかしいんですけど」
紅い顔と涙目で克己に訴えるけれど、彼は聞き入れてくれない。
「気にするな」
気にするっつーの!!
思わず心の中で大絶叫してしまった。
今現在、射撃の授業中だった。
が、前の時間のナイフ演習で翔は手に傷を負ってしまい、白い包帯を巻いている。
そんな手で銃器を扱えるわけがないのに、教官は
「戦場じゃどこに怪我をするか解からないから」
の一言で翔に授業を受ける事を強要した。
いくらなんでも酷すぎる。
それでも上官に逆らうわけにはいかず、どこかでこの展開になるだろうと予感していた翔は肩を落とすだけだった。
けれど近くにいてその話を聞いていた克己は違ったらしく。
「コイツが撃てば、どんな撃ち方でもいいですよね」
と。
どこか強気な台詞に担当教官は首を傾げながら頷く。
それで、こんな状況になってしまったのだ。
こんな状況とは、銃を握る翔の手の上に克己の手が重なり、構えの姿勢をとる翔の体の後ろに克己の体が重なる、
いわゆるテニスとかでよくある手取り足取り指導。
授業中にこんな体勢をとることになると思わなかった翔は軽いパニックに陥っていた。
克己のおかげで、的はすべて真ん中に的中しているのだが。
確かに、この格好は楽だった。引き金を引く力は半分・・・・・・いや、三分の一程度ですむし、反動もすべて克己の体が
受け止めてくれる。
戦場で有効な体勢では無いだろうが。
「もっと背筋を伸ばせ。構え方は銃を横に倒した方が標的からずれない」
ちゃんとポイントを教えてくれる彼には感謝だけれど。
だけれど・・・・・・。
「あ、あのさ、克己」
「ん?」
「その・・・・・・耳元で言うの止めろよ。なんか、ちょっと・・・・・・」
この姿勢で耳元で言うなという注文はかなり難しいのは解かっているのだが、何だかちょっと微妙な気分になる。
「何だ?」
言いよどむ翔にわざと耳元で囁いてやると、瞬時に耳が紅くなった。
面白いと思ったら、彼に悪いが正直面白い。
ふっと耳元で笑う声が聞こえ、克己が面白がっていることに気が付いてはいたけれどその対処法は思いつかなかった。
「だからぁ・・・・・・っ!も、解かれよ、克己の馬鹿!」
「馬鹿だからな。はっきり言ってもらわないと解からない」
しれっと答えられたらもうどうしようもない。
授業中じゃなかったら今すぐミゾオチに肘鉄でも食らわせて射撃場から飛び出すところだが。本当に授業中じゃなかったら、
の話で。
「いつも頭良いくせに、何でこれくらいわかんないんだよ・・・・・・ボケたのか?」
彼が解かっているのは了承済みでの恨み言を言うと、また耳元で彼が笑った。
「ボケ、って漢字でどう書くか知っているか?」
射撃の時間なのに突然国語問題を出されて、一瞬話をはぐらかされたかと思った。
「知らねーっての。誤魔化そうたって、そうは」
「惚れるって漢字と同じなんだ。確かに惚けたかもな、俺」
ガシャン。
彼の言いたい事を瞬時に理解してしまい、思わず銃を取り落としてしまった。
「かかかかかか」
「落としたぞ」
激しく動揺中の翔の代わりに床から銃を拾い上げて、克己はそれが壊れていないかどうか確かめてから翔の包帯が
巻いてある手に渡す。
いつもと変わらない笑みを浮かべている克己には呆気に取られてしまう。
何でそんなに平然としていられるんだろう。
何だろう、この敗北感は。
「・・・・・ありがと」
それでも、文句も言えず反対に礼を言ってしまうあたり自分も自分か。
ちょっとむくれつつも渡された銃を握ると、ぎゅっと後ろから克己が抱きついてきた。
「克己?」
「お前、可愛いな」
そしてまた動揺する翔がいたとか。
「っていうか、わきまえろ・・・・・・!!」
「遠也、落ち着け!!」
彼らから数メートル離れた場所で、遠也が克己に照準を合わせていたが大志が体を張って止めていた。
終わり
わきまえろ、でした。ありがちネタでヨロ!
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