「舞踏会・・・・・・?」
おとぎ話でしか聞かない言葉に思わず首を傾げてしまう。
舞踏会とはアレか、タイムリミットが12時のアレか。
一瞬“武道会”の間違いかと思ったが、そうでも無いらしい。
「ワルツは軍人のたしなみの一つ。親睦会で踊れないなんて惨めな事にならないように指導するから」
そう生徒の前に立って笑顔で言うのは瀬野だった。その隣りにはあの達川もつまらなさそうな表情で立っている。
さらにその後ろには彼らと同じく白学ランやセーラー服を着た海の生徒が何人か控えていた。そろいもそろって
やっぱりどこか不機嫌な表情で。
「何で、海の奴等に教えられないといけないんだ」
どこからか聞こえてきた言葉と、どこかピリピリした空気は海と陸の関係を表している。海の生徒の表情が不快げ
なのもそこからだろう。
海と陸は歴史的に敵対関係にあるらしく、お互いライバル視をする間柄。
その所為か内部の性質も違い、陸がどちらかと言えば規律を厳しく守る硬派系の集まりで、海は臨機応変に動く事が
出来、ついでに言えばジェントルマン精神を大切にする軟派系の集まりだ。
今日は特別授業と聞いてみんなしっかりと戦闘準備を整えてきたというのに、集まった部屋は壁が鏡ばり。そこに映っ
た自分達の戦闘服姿は滑稽としか良いようが無い。
「何そんな色気無い格好してくるかなぁ。これだから陸ってつまんないんだよ」
ふーやれやれ。
首を横に振る瀬野の一言にビシリと空気が凍りついた。
多分それを狙っての一言だったのだろうが、火に油を注いだところでお互い利益はないのに。
それに戦闘服で来てしまったのはそちらの伝言ミスだろう。
「それにね、別に俺たちだって好きでこんな指導するわけじゃないんだから」
誠馬、と瀬野が後ろに控えている彼を呼ぶと達川は一歩前に出て、手の中にあるCD−Rを光らせた。
「そちらの会長からのメッセージです」
いつの間にか彼の横にあったDVDデッキにそれをセットするとテレビ画面に光が走る。
その画面に映された人物は、
『一年生の諸君、副会長の千宮路だ』
眼鏡をかけた青年だった。見覚えは無いけれど、周りが一瞬ざわついた空気の中に緊張と憧憬が混ざっていたから
彼の言うとおり彼は副会長なのだろう。
鋭利な笑顔からは貫禄のようなものが伺われる。
『日々の鍛錬ご苦労様。その息抜き、というか何と言うか……親睦会が陸海空生徒会主催で行われるんだけど、ま、
良い迷惑だよね。その親睦はダンス練習から始まってるから、物凄く不本意だと思うけど海の人に教えてもらってくれ。
本当にゴメンなー?』
苦笑交じりだったけれど、まさか上官に謝られるとは思わなかった。軽い口調は彼の性格なのだろうか。
『親睦会の内容は毎年恒例仮面舞踏会。ダッサいよなー。生徒会役員以外の諸君には陸海空共に同じ夜行服を着ても
らって、仮面つけて、多分身分関係ナシで楽しめって事何だろうけど、考える事やっぱりダサいよね』
仮面舞踏会・・・・・・。
アッハッハと笑い飛ばす副会長と一緒に本当に笑い飛ばしたい気分だ。
つまり相手の階級、所属科を気にせずにということで顔を隠すのだろうけれど、それじゃあ親睦の意味があまり無いのでは。
大体中世ヨーロッパでもあるまいし、何故そんな古風な遊びに勤しまなければならない。
『そんでもまぁ、ワルツとかエスコートの仕方とかは覚えていて損じゃないから。軍でも夜行会とか頻繁にあるし、たしなみと
して必要になってくるから、キチンと覚えておきなよ。で、何と今日は、会長からボイスメッセージが届いていまーす』
カメラに向かってMDレコーダーらしきものを突きつけて副会長は眩しいばかりの笑顔になる。
会長、と聞いてざわめきが起こった。
翔も会長という人物の噂だけは聞いていた。無茶苦茶美形とか冷酷人形とか虎を素手で殺せるとか、どこからどこまでが本当
か解からないものばかりだったが。
自分達一般生徒には会長という存在は謎に包まれたものだった。雲の上の人と言っても過言ではない。
それ故に、会長という存在は一般生徒の憧れの的なわけで。
『今会長遠征中でなー。でも、もしかしたら親睦会に顔出すかも知れないから!おっ楽しみに〜〜』
カチ、とレコーダーのスイッチが押される音がビデオ越しでも聞こえてきた。
『こんな形ですまない。碓井だ』
音声は悪かったけれど、その低い落ち着いた声にクラスメイトの表情が輝いている。
「会長だ!」
まるで人気芸能人に生で会ったような反応。
そんな反応が本人に届くわけがなく、ボイスメッセージはこちらのどよめきに構わず進む。
『例の馬鹿げた親睦会だな・・・・・・まったく、生徒諸君には大人の事情に巻き込んでしまって本当に申し訳なく思う。海のには
俺からキチンとした対応をするようにきつく言っておくから・・・・・・瀬野』
まさかビデオレターの中のボイスメッセージに呼びかけられるとは思わなかったのだろう。自分は関係ないと欠伸をしていた瀬
野は驚いた様子で顔をテレビの方に動かしていた。
『ウチの大切な生徒だ。適当な事を教えたら・・・・・・解かってるな?』
「うっさいな・・・・・・遠征中ならそっちで頑張ってろよ碓井のヤツ・・・・・・」
流石海の副会長。陸の生徒会長と交流がそれなりにあるらしい。
ぶつぶつと文句を言う姿で知り合いだという事が解かる
『ついでに、ウチの大切な生徒に手を出すな。何かしたらこっちにも考えがある。確か、お前海の新入生に目をつけていたヤツが
いたな、名前は・・・・・・ケイタくんとか言ったか?』
「!お、お前なんでそれ知って・・・・・・!!」
『ウチの情報部をなめないで頂きたいな。ウチの生徒に何かしたら、そのケイタくんは・・・・・・というかすでに頂いた。残念だったな
ハッハッハ』
会長の乾いた笑い声に瀬野の顔色が段々悪くなる。
「ちょ、待て碓井!!ケイタくんに、俺のケイタくんに何をしたー!!」
『それを聞くのは野暮ってヤツだろう。それではな、ウチの生徒をくれぐれもよろしく頼んだぞ。何かあったら相良に言いつけるからな』
ブツッ。
無情にもボイスメッセージはそこで切れ、後は陸の副会長の笑顔しか無かった。
『あっはっは、瀬野くん、いい気味だねぇ。生徒諸君―、瀬野君が何かしたら遠慮なく僕か会長に言ってね。その時は相良・・・・・・相良っ
ていうのは、海の生徒会長なんだけど、彼に言いつけるから。あ、でもそこに居る達川くんに言ったほうがダメージ大きいかな?ねー?
瀬野くん』
「うっさい、黙れ!」
『男のヒステリーはみっともないってば。んじゃねー、よろしく。因みに、このDVDは自動的に消滅しまーす』
テレビの中で副会長が明るく言うが速いかデッキの中でボンッと何かが弾ける様な音がしてしばらくしたら煙が昇り始めた。
何だったんだ、今の。
「今のって消滅させないといけないものだったのか・・・・・・?」
思わず翔が呟くと隣りで克己がため息を吐いた。
「それ以前に何故ビデオレターと会話が成り立つのか疑問に思え」
それもだけれど、本当に生徒会っていうところは謎が多い。
とりあえず、会長の名字が碓井で副会長の名字が千宮路という情報は手に入れることが出来た。
碓井、という名字にはどこかで聞き覚えがあるような気がするのだが気のせいだろうか。
「なー、克己、碓井って・・・・・・」
「会長は院長の実子だ」
そうだ、確かこの学校の院長の名字も碓井だった。
それくらい知っておけ、というような克己の視線には笑って返していたら、今までずっと凹んでいたらしい瀬野が復活した。
「こうなったらビシバシやってやる!取り合えずそんな戦闘服着替えて来い!」
その顔が半泣きだったのは、陸側としてはいい気味だった。
クラスメイトがあちこちで「やっぱ会長サイコー」と言っている中で、翔は何となく瀬野に同情した。
「あ、着替えてきたんだー。アッハッハ、相ッ変わらず地味だよな、お宅らの制服―」
失礼な事を言いながら大笑いする瀬野に怒りのオーラが教室に立ち込めた。
確かに海の制服は白と青を基調とした白ランとセーラー服。カーキ一色のこちらの制服を見たら地味だと思われても仕方が無い。
瀬野としてはさっきの碓井の暴言の数々への鬱憤を晴らしているのだろうし。
「じゃ、適当に組んでまずはステップからな」
瀬野の後ろに控えていた海の生徒が何人か進み出たけれど、クラス全員と組める人数ではない。
適当に、と言われ近くにいた克己と眼が合った。身長も丁度良さそうだし、彼と組んでも良いだろう。
「じゃー、克己」
彼に向かって伸ばそうとしたその手を誰かに掴まれ、くるりと体を反転させられた。
「へ・・・・・・?」
「君は俺」
そう言って目の前で笑ったのは、瀬野だった。
「あーんな初心者君と踊ったら君の足が潰されてしまうからね」
「いや・・・・・・別に俺それくらいは構わないんですけど」
「俺が構うの」
さいですか。
「あ、あのすみませんでした、この間は」
とりあえずぶつかった時の事を謝ると彼は首を横に振る。
「気にしなくて良いよ。俺も前方不注意だったわけだし」
「でも」
「俺としては可愛い子と知り合えて嬉しかった。この間のお詫びってことで、この後お茶でもどう?」
・・・・・・ジェントルマンっていうか、単なる軟派なだけじゃないか。
彼の輝く笑顔を見てそう思ったが口には出さないでおいた。
「いえ、そこまでご迷惑は・・・・・・」
「ほんっと、陸の子ってお堅いよなぁ。でもま、そこも可愛いかな?」
「うわ・・・・・・!」
すっと腰を撫でられ一歩引こうとしたけれど、どうやらワルツの基本体勢を取られただけだったらしい。
「ほら、まずはステップ」
足元を見るように言われて下を見ると、瀬野がワルツのステップの見本をやってくれている。
それをまねるのに精一杯で、どうにか彼に追いつこうとしていたら不意に耳に温度を感じた。
「彼とはどういう関係?」
「へ・・・・・・うわっ!」
いきなり耳元で囁くのは卑怯だ。
ステップを練習していた時だったから足がもつれて後ろに転びそうになったところを瀬野に受け止められる。
「す、すみませ」
「あー、良い抱き心地〜〜」
「って、離して下さいよ!!」
受け止めてくれるだけならいいものを、彼は強く抱き締めてきた。
暴れたところでこの身長差ではどうにも抵抗した事にはならず、彼の腕に力が入るだけ。
「さっきの質問に答えてくれるんだったら、いつでも離しましょう?」
「さっきの、って」
彼とはどういう関係?という問いを思い出しまず瀬野の言う彼、というのが誰なのかわからず眉を寄せる。
それに瀬野は微笑したままその“彼”を指した。
そこには、無表情でワルツを踊る克己が。しかも何だか上手いのは気のせいか。
「あ、克己は俺のルームメイトで、親友です」
それが、何か?
首を傾げながら答えたのだから早く離せという目で見てくる翔に瀬野は苦笑する。
「そんな風には見えなかったけどなぁ」
そんな風、とは友達には見えなかったというのか。
どこかからかうような言い方にむっとした。
「そりゃ、克己は背ぇ高いし格好いいし俺とは吊り合わないかも知れないけど、でも友達の選定ってそういうんじゃないでしょう?」
「ああ、いやそういう意味ではなくて」
翔の誤解を彼は手を横に振って否定する。
じゃあ、何だと言うのだ。
「恋人、じゃないのかって俺は聞いてるの」
・・・・・・。
瀬野の言葉に一瞬硬直してしまう。
その単語の意味が上手く理解出来なかった、というのもある。
「こ・・・・・・っ!んんんなわけ無いじゃないですか!!何言ってるんですか!」
思わず顔を紅くして叫んでしまう。
優雅な曲とは全く合わない叫びに瀬野はちょっと驚いたような顔をした。
「そうなの?」
「そうです!」
「んじゃ、質問を変えよう。性行為のお相手になったことは?」
「恋人じゃないって言ってるのに!!」
下世話な質問にもう半泣きだった。
けれど、瀬野は真面目な顔で首を横に振る。
「俺達海軍だと、潜水艦とか船とか女性は乗せちゃいけない事になってるんだ。なのに、潜水艦や船で1ヶ月2ヶ月はザラ。
皆若いってのに、その間の性処理はどうすると思う?」
「へ・・・・・・?」
「答えは簡単。なるべく可愛い子か、自分と仲が良い相手と・・・・・・」
「そ、その先は聞きたくないです!」
「陸もそうだと思うよー?女性同伴で戦場なんて滅多に行かないからなぁ。次の特別授業はきっとソレだな」
「そ、ソレって・・・・・・」
「そりゃあ勿論、男同士で気持ちよくなる方法の授業。イライラしてたら勝てるもんも勝てないし、敵側の女性を強姦しかね
ないっていう戦争犯罪に陥るからねー。あ、何だったら日向ちゃんには俺が教えてあげようか?俺、巧いよー。日向ちゃん
なら口でしてあげてもい・・・・・・」
ダァン。
優雅な空気を切り裂いたその音に、瀬野が台詞を止めた。
その笑顔が引き攣っていたのはきっと見間違いじゃない。
「先程、碓井会長に言われた事をお忘れですか?」
地を這うような声は彼の側近の達川だ。
「翔」
今ほど彼に会いたかったと思った瞬間は無い。
肩に手を置かれ振り返ると少し話題に上った克己が居た。
「か、克己―・・・・・・」
「・・・・・・この事は上に報告させていただきます」
淡々とした克己の威嚇に瀬野の眉がぴくりと上がる。
「えぇー。そりゃ無いんじゃない?さっき日向ちゃんに聞いたけど、君と日向ちゃんただのお友達だろ?だったらー、俺にも恋人
立候補のチャンスはある。恋愛に陸も海も関係ないでしょ」
ねぇ?と勝ち誇った笑みを浮かべる瀬野に克己は不快気に眉を寄せた。
相手が手詰まりだということを察して更に瀬野は笑顔を深めた、が。
「公務外でやっていただくのならその言い訳も受理されるんですがね」
カシャン、と聞き覚えのある金属音を立てながらの冬の日本海より冷たい声にその表情を凍らせていた。
今の音は、銃にマガジンを突っ込んだ音だろう。
「せ、誠馬・・・・・・」
「何を遊んでいる。この授業だって親睦の一環なんだ。それで陸の一年を口説く暇があるのなら、鮫狩りの授業に特別参加
しますか?勿論囮役で」
「アレはマジ一度で充分です、ごめんなさい誠馬様」
副会長をも土下座させる鮫狩り授業とは一体。
物騒な単語に、そんな授業が海にはあるのかと海のカリキュラムに血の気が引いた。
海には行かなくて良かった、とついつい思ってしまう。
「ごめんごめん、日向ちゃん。もう変な事言わないからそんなに怯えないで」
達川に銃口を突きつけられてむしろ怯えているのはお前だろうと言いたくなるくらい瀬野の顔色は悪かったが、翔は克己の
背に隠れたままでいた。
「や・・・・・・大体解かったんで俺後は克己に教えてもらいます・・・・・・副会長のお手を煩わせるわけには」
「副会長、そろそろ終わりにしたほうがよろしいかと」
達川は翔の言葉を遮って授業の終了を勧める。
まだ授業時間はたっぷりあるのに、だ。
「えぇ?何で・・・・・・」
文句を言おうとした瀬野は彼の視線を辿り、教室内の雰囲気にようやく気がついたらしい。
海の生徒を指南役として抜擢したのは間違いだったのか、お互いにらみ合ってワルツどころでは無い者、ワザと相手の足を
踏みつけあう者、お互いを罵倒しあう者で温雅なワルツの曲が台無しだった。
これじゃあ親睦どころかさらに火に油を注いだようなものだ。
「だな」
はぁ、と瀬野は疲れたようなため息を吐き金色の髪をかき上げる。
「頼むから少しくらい仲良くしろよ、お前ら・・・・・・」
思わずぼやいてしまった瀬野の台詞に海の生徒は恐縮したように見えたけれど、陸の生徒は他学科の上役の話なんて
聞いていられないというようにそっぽ向いていた。
今年も親睦会は大失敗のようだった。
がっくりと肩を落とす瀬野を見かねて達川が彼の横で海、陸双方の生徒に冷たい視線を向ける。
「・・・・・・言っておくが、貴様らこれは遊びではないぞ。陸も聴け!」
お説教が始まると思った陸の生徒がさっさと教室から出ようとしたところを彼は強く叱責する。その迫力は教官と似たところが
あり、思わず注意されたわけではない生徒もびくりと体を揺らしていた。
「これは公務だ。ワルツも軍人のたしなみの一つ。それが出来ず恥をかくのは貴様ら自身だけではない。貴様らを統括する陸の
生徒会長殿の顔に泥を塗ることになる。大体、これを海が陸に教え、陸が海に習う事は上からの命令でもある。それに従えない
というのは命令違反と取るぞ!仲が悪い事はもう致し方無いことだが、公務に私情を持ち込むな!軍人たるものけじめをつけられ
ないでどうする、恥を知れ!」
毅然とした達川の喝を全員気を付けの姿勢で聞き入っていた。
彼の鋭い眼には息をすることさえも忘れてしまいそうで、ふやけた空気が一瞬にして引き締まる。
沈着冷静で綺麗な達川にそう言われるとなんだか本当に申し訳ない気分になるのだ。
「す、すげぇ・・・・・・」
軍人らしい軍人を見たのは実は初めてで、彼に初めて接する陸の生徒が感嘆の息を呑む。
陸が茫然とする中、海の生徒の眼は何だか少し違っていた。
「達川先輩・・・・・・相変わらず格好良い・・・・・・」
「もっと叱られたい・・・・・・」
恍惚としたその海の生徒の台詞には鳥肌が立った。
普通の尊敬をしてくれ、頼むから。
「んー、そうそう、誠馬の言うとおり!」
「瀬野、お前もだ!」
緊迫する空気を壊した上司を達川は鋭く睨みつける。
それからは達川のお説教は瀬野に向けられたが、その教室から出る事が出来る勇者は一人も居なかった。
「成程、有能なNO.2か」
克己の呟きに瀬野が副会長という立場にあるのは達川の存在もあることを知る。
多分、この二人組は海の生徒の憧れの的なんだろうなぁ、という事は今ここにいる海の生徒達の視線で解かるし。
飴と鞭を使い分けたバランスの取れた二人だ。
「まだ授業時間はあるし、再開再開」
どうにかお説教が終わった瀬野が終了ではなく再開を指示する。先程の達川の叱責が功をなしたのか誰一人
文句を言う事も無く再び手を取り合っていたから、まぁ一安心というとこか。
「じゃー、日向ちゃん、さっきはゴメンね」
再び翔の手を取ってきた瀬野の後ろにはやはり銃口を突きつけている達川が。
もう二度と妙な真似はさせないとその黒い眼が言っていたし、達川の話を聞いてからでは友人である克己と
ペアを組むのは何となく憚られた。
「彼は俺が」
大丈夫と判断したのか達川が克己の方に歩いていく。達川の方が背が低いから彼が女役だろう。
「・・・・・・なんか、凄いですね、彼」
慣れないステップを一生懸命踏みながら瀬野に話しかけると彼は今までとは少し違った笑い方を見せた。
「誠馬って副会長の俺より人気あるんだよな。綺麗だし、あの侵しがたい雰囲気がねー。高嶺の花なんだってさ」
高嶺の花とはよく言ったものだ。似合いすぎている。
凛然とした空気が格好良いと陸に在籍する身でも思う。
「俺としてはガキん頃から一緒だから高嶺の花とか思ったりしないけどー。幼馴染の特権ってヤツ」
「はぁ・・・・・・」
何だか達川の話になった途端瀬野の調子が変わったのは気のせいか。
楽しげ、というより嬉しげだ。
「あの、さっきの鮫狩りって・・・・・・」
「鮫狩りは2年のカリキュラムに入ってる。大変だぜー、アレ。死傷者多いし〜〜」
温暖な地域の海には鮫が大量に居る。
そんな海に投げ出された時の対策として鮫狩りの授業があるのだ。
海に在籍していない自分の身に安堵の息を吐く。
陸で良かった。
翔のほっとするような表情に彼の心情を読み取った瀬野は苦笑した。
「ま、俺関係無いけど」
「関係ない?」
「そ。俺船長さんだから、船が沈む時は俺も共に沈むの」
笑顔で言われたが、今かなり物凄いことを言われた気がする。
「え・・・・・・そうなんですか?」
「そう教育されてるからそのつもりだけど?自分の船とこの命を共にってね」
階級が高くなるとそれに見合った教育を受けると聞いていたが、多分海では階級が上がると船長に
なるための教育を受けているのだろう。
自分の胸に手をあてて言う瀬野の眼は穏やかだけれど真剣で、彼が本気だということが解かる。
「そ、なんですか・・・・・・」
自分達の立場からは考えられないが、上には上なりの辛い立場があるのかもしれない。
「別にそんなに辛いことじゃあないって。誇りっていうかプライドっていうかそういう感じだから」
「でも・・・・・・」
「俺達から見たら陸の上で銃弾の雨を潜り抜ける君達の方が可哀想だよ。地雷とか戦車とかさぁ。
こーんな可愛い顔が穴だらけになっちゃうなんて」
「・・・・・・ヤな事言わないで下さい」
リアルな瀬野の言葉に思わず自分の体が蜂の巣になる場面を想像してしまった。
それならまだ船長室でゆっくりワインでも飲みながら最後の時を迎える方が優雅かもしれない。
いや、死に方が優雅かどうかはもしかしたら階級に左右されるかも。
「だから日向ちゃん、海に来ない?俺の抱きぐるみに」
「お断りします」
だからって、何がだからなんだ。
「気になるか?」
踊っている最中だというのにちらちらと目線が定まらない達川に克己は声をかけた。
彼が気にしてるのは、海の副会長と陸の一般生徒のペア。
まさか陸の、しかも階級が下の相手にそんなことを指摘されると思わなかったのか、達川は少しバツの
悪い顔になる。
「お前こそ、気にならないのか。彼はお前の友人だろう?」
「今更だな」
「・・・・・・副会長の趣味のど真ん中だぞ、彼」
ぼそっと達川は呟いて翔を見つめる。
「・・・・・・そうなのか?」
「ああ。アイツはいつもいつも可愛い感じの後輩に手を出していたからな」
その重いため息から彼の苦労が伺える。
「婚約者が決まれば落ち着くんじゃないか」
慰めのつもりだったけれど、意外にも達川の顔から表情が消えた。
生徒会長、副会長に就任すると政治家の娘が付いて来るというのはかなり有名な噂だ。
すぐに彼ははっとした様子で頷いた。
「あぁ、それはもうとっくの昔に決まっている。それでいてああなんだ、救えない」
「成程」
ぼそりと上から降ってきた言葉に達川は眉を寄せて克己を見上げる。
一体何が「成程」なのかと怪訝な眼だ。その意味が瀬野に対する侮蔑なのであれば今すぐ
銃を抜いて発砲すると言いたげでもある。
「甲賀克己と言ったな。君は少し上官に対する口の利き方がなっていないんじゃないか?」
「親睦の時間だ。大目に見ろ」
ふ、と笑う克己の言い分は少し無理があったけれど、陸といざこざを起こす気はさらさら無かった
達川としては、彼の言うとおりにするしかなかった。
終
ワルツです。
何が書きたかったって海の生徒を少し書きたかったんです。
次は空を書けたらいいなぁ。
達川良くないですか?(何を突然
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