「今日も良い天気だなぁー・・・・・・」
翔はひとりごちながらぽけーっと部屋の窓から外を眺めていた。
この学校に来る前だったらコレくらい天気のいい時は外に繰り出していたが、毎日の運動量が半端じゃないため休みの日は
本当に休まないとどうにもならない。
春から夏に近付くぽかぽか陽気の陽だまりの中にいると段々眠くなってくる。
「眠いか?」
「んー」
隣りで何だか難しそうな本を読んでいる克己の声に間延びした返事をすると、ぐしゃりと頭を撫でられた。
む。眠い。
「・・・・・・克己、アレ何だ?」
顔を上げると一点の曇りも無い空にスーッと走っていく物体を見つける。
何だろう、まさかUFO?
「あぁ、多分航空士官科のハングライダーだろう」
克己のあっさりした答えにちょっとした期待を壊されたけれど、それでも眠気が覚めるほどの好奇心は湧いた。
「へぇー、空ってそういうのもやるんだ、いいなぁ」
こんな青い空を自由に飛べたら気持ちいいだろう。
飛行機にも乗った事が無い翔としては未知の世界だ。
窓から身を乗り出したら新緑の香りがする風が頬を撫でる。
ここから手を振ったらあのハングライダーはこっちに気が付くだろうか。そんな事を考えながら見ていて、奇妙な事に気が付いた。
「・・・・・・何か近付いてこない?アレ」
段々とその形が大きくなっている。
「え?」
翔の言葉に克己も顔を上げてそれを確認し、はっと息を呑んでいた。
「翔!来い!」
「へ・・・・・・うわぁ!」
いきなり腕を掴まれてそのまま克己と一緒にベッドにダイブ。
何だ、と文句を言う前に克己が自分達の体の上に頭まで布団を被せる。
「ちょ、克己、なに」
ガシャーン。
彼の素早い行動が終わってすぐに、硝子の割れる音が部屋中にこだました。
少し経ってから克己が布団をめくると部屋の中は硝子の破片でいっぱい。惨状と化していた。
どうやらガード用だったらしい掛け布団の上にはキラキラ光るガラス片があり、これが無かったら自分達はきっと血だるまだったに
違いない。
「午前11時43分21秒、着地成功、っと・・・・・・」
そして部屋の真ん中には、大きなハンググライダーと、その操縦者らしきフライトスーツの男が立っていた。ゴーグルをつけている
からまだ素顔は解からないが絶対に見知らぬ相手だ。
彼はこちらを振り返り、口角を上げてゴーグルを外す。
「ごめんな。お楽しみの最中だったかな?」
彼の指摘に自分の状況を見ると、確かに克己に押し倒されているように見える。
離れようとは思ったが、回りに硝子の破片が飛び散っている為、この軽装で歩き回る勇気は無かった。
「山川・・・・・・」
やはりと言いたげな克己の呟きを拾い、翔は彼を見上げる。どうやらこの男は克己の知り合いのようだ。
知り合いにしては、克己の表情はどこか嫌そうで。
「克己、知り合い?」
「いや、全然知らないな」
「ってー!お前今俺の名前呟いただろ!何そのしらばっくれた返答は!!」
彼はダンダンと硝子だらけの床を踏んで突っ込みを入れていた。
そんなに硝子を踏みつけても大丈夫な靴・・・・・・というか彼は土足で他人の部屋に入ってきたのか。
克己は迷惑そうな顔でため息を吐いていた。
「忘れたんなら教えてやるよ」
そんなこちらの迷惑げな視線を無視して彼は帽子とゴーグルを取った。
茶色いくせっ毛が露わになり、流石空軍と言えるほどの顔立ちも晒される。
「山川至。お前の親友、だろ?」
ふっと何故か勝ち誇った笑みを浮かべて彼はきらりとオーラを輝かせる。
自信満々に言ってくれたけど
「知らん」
その空気をばっさり斬る克己の一言に彼はビシリと固まっていた。
「酷い!酷い!!俺の硝子の様な心は粉々だ!!」
「窓の硝子を粉々にしただろうが」
「窓の硝子は弁償できるけど、俺の硝子の心は弁償できない」
「する気もない」
テンポの良いボケと突っ込みに、彼らが知り合いだということは嘘じゃないと翔は思う。
「・・・・・・あれ、この子、お前の彼女?」
その時克己との漫才に飽きた至は翔に視線を移してその目を大きくする。
「へー。可愛いな、空の女って皆冷たいエリート系だからさ、近くに居てほのぼのするタイプって滅多に居ないんだよ」
しげしげと翔の顔を覗きこむ彼は矢張りお約束の勘違いをしてくれていた。
「俺、男・・・・・・ですけど」
小声での反論に彼は一層目を大きくさせたが、すぐに人好きのする笑顔になり「そっか」とあっさり納得してくれた。
「んじゃ、君が甲賀のルームメイトか、よろしくー。俺甲賀の中学ん時の同級生なんだ」
「え・・・・・・」
克己の中学の同級生と名乗る相手と会ったのは初めてで、少し驚いた。
いや、居てもおかしくないのだけれど。
「克己の?ホントに?」
それだけで彼に対する興味が湧き、翔は身を乗り出していた。
目を輝かせてなかなか良い反応をしてくれる翔に至はにっこりと笑ったまま頷く。
「そうそう。何なら中学の時の話色々してやろうか?」
「あ、聞きたい!」
「ちょっと待てコラ」
「俺と甲賀が出会ったのは、そう、あの桜が舞う春の日・・・・・・」
克己の地を這うような怒りの声をあっさり無視出来るあたり、本当に貴重な人材だ。
彼の威嚇に屈服することなく当時を思い出しているのだろう山川の眼はどこか夢見心地だった。
「中学の入学式の時、答辞を読んでいた甲賀に俺が」
「昌臣にお前のある事無い事吹き込むぞ」
「さーて、ゴメンな、日向君。俺そろそろ帰るわ」
貴重な人材だと思ったが、どうやら彼も彼で何か弱みを握られているらしい。克己の一言で再びゴーグルを着用していた。
「今度ウチの科の女子集めるから合コンしような〜〜」
「早く帰れ」
山川の去り際の台詞に聞く耳を貸さない克己に彼は苦笑しながら手をひらひらと振って出て行った。
帰りはちゃんとドアから帰って行ってくれたのに何となくほっとする。
でも。
まだ山川が帰っていったドアの方向を鋭く睨みつけている克己を見上げてため息をついてしまう。
「ちぇ。折角克己の中学時代の話聞けると思ったのにー」
まだまだ謎が多い彼の過去の扉を山川が開けてくれそうだったのに、もう少しのところで本人に邪魔をされてしまった。
翔の軽い恨み言に彼は少し驚いたようにこっちを振り返った。
・・・・・・何で驚く?
ちょっと強気に克己の眼を見返すと彼は少し困ったような顔をした。
「別に面白い事は何も無いぞ・・・・・・」
「そんなの話してくれないとわかんないだろ?それとも何か?俺に話せないような中学時代を送っていたのか?」
女子を妊娠させて停学とか、教師を殴って停学とか、教師を妊娠させて退学とか。
適当な“話せないような過去”を指を折りながら上げてみると、彼は深いため息を吐く。
別に翔だって本当に今上げたことを克己がやったと思ってはいないけれど。
「お前だって、俺にお前の中学時代の話あまりした事ないだろう。今まで話題に上らなかっただけだ」
克己の指摘は最もで。
そういえば、今まで日々の出来事の話の方が濃くて、話題に困る事がなかったから過去話に花が咲いた事は無い。
理由は発覚すれば案外単純なものだ。
克己が意図して話をしようとしなかったわけではない事に安堵する。それなら何を聞いても大丈夫そうだから。
そうと決まれば
「じゃあさ、今話題にしよう。中学の制服は?学ラン?ブレザー?」
「ブレザー」
「へぇ。だから克己ネクタイ結べるんだ。俺学ランだったからまだ上手く結べないよ・・・っていうかさ」
中学の時の話はしたい。
でも、このまま会話を続けるのは何となく現実から目を逸らすことになる気がする。
部屋には日光で光り輝く硝子が大量にある。直射日光と変わらないそれが十字に光り、目に入ると眩しすぎて眼がチカチカした。
キラキラと輝く宝石に囲まれていると思えばゴージャスな気分にはなるが・・・・・・
「・・・・・・どうすんだよ、この硝子と窓・・・・・・」
「山川に掃除させるべきだったな・・・・・・」
部屋中に飛び散っている硝子破片は翔のベッドの上でも輝いている。そこで今夜寝るのは自殺行為。
今夜の寝床確保がまず先だ。
結局休みの日もあわただしく終わる。
終わり
硝子の様な、でした。眼をやく十字も・・・・・・だ、ダメですか。
硝子・・・硝子・・・・・・むしろ翔の存在が硝子みたいです。もろくて簡単に壊れそうなのに透明な心を持っている子。
でも意外と強い。一応色々な意味で翔は硝子をイメージしているんですけど、ね。実は。
すみません、どうでもいい話を・・・・・・。
オマケ「眼をやく十字」
「次に、原住民を改宗させる方法だが、過去の方法では踏み絵や・・・・・・」
教官の授業は教室内の講義だと結構眠くなる。
近くの席で大志がぼーっとした眠そうな眼で黒板を眺めているのに遠也は気が付いていた。
「おい、三宅。キリスト教信者を改宗出来る拷問方法を一つ考えろ」
それに気が付いたのは遠也だけではなかったらしい。教官も気が付いて今にも寝そうだった彼を指名した。
ここらへんはきっと普通の高校と変わらない。
「へ・・・・・・?」
急に名を呼ばれた彼はまだぼーっとした眼で教官を視界に入れてしばし沈黙する。
「おい、答えろ、三宅」
彼の沈黙に教官が少し苛立った声で大志を呼んだ、が。
「そうですね・・・・・・信者が持っている十字架を熱してその信者の眼球に押し当てればいいんじゃないですか?」
温厚で通っている彼の思いがけない返答に、クラス中が息を呑んだのは言うまでもない。
その後、大志は隠れサドと囁かれることとなったが、当時寝惚けていた彼はそんな事も気付かずに今日も遠也の
隣りでいつもの笑顔を振りまいていた。
「遠也〜〜あのさぁ、今日放課後暇?」
「・・・・・・暇」
「マジ?珍しいー、あのさ、じゃあー・・・・・・」
遠也の彼の扱いが少しだけ改善されたように見えるのも、恐らく気のせいじゃない。
眼を灼く十字・完
っていうのを最初に考え付いたんですorz
はい!ギャグに魂売ってます!
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